78話


 「おーい、深愛っち起きてるかい?」


昼休みに机でスマホを見ていると、琴葉が私の机の前に立っていた。


 「あれ、琴葉?! いつの間に?」


 私が驚いた表情をみた琴葉はため息をついていた。


 「大丈夫か? この調子だと昼ごはんも食べてないのだろう?」

 「うん、食欲がなくて……」

 「気持ちはわからなくもないけど、深愛っちまでそんなんじゃ大翔に余計心配なってしまうぞ」

 「……うん」


 私は琴葉の話を聞きながらもスマホの画面をずっとみていた。

 画面にはLIMEで大翔と書かれた画面が表示されている。



 大翔の卒業式の夜、突然やってきた鎌ヶ谷のおばあちゃんに大翔は連れていかれた。

 理由はただ1つ——


 「鎌ヶ谷家の長男はエリートでなければならない」


 それだけだった。


 私やママも戸惑っていたが、一番は大翔だった。

 

 もちろん大翔は断ったが……


 「鎌ヶ谷家に生まれた以上、お前のわがままが通用すると思うな!!」


 と勢いよく、頬を叩かれ怒鳴られていた。

 私は大翔の元に駆け寄ろうとしたが、父親に腕を掴まれてしまう。


 「お父さん……!」


 私が声をかけるも、父親は黙っていた。


 「大翔、家族と離れ離れになるのは辛いかもしれないが、頑張った分、後が楽になる」


 父親は大翔の肩をがっちりと掴むと淡々と話していた。


 ママが今日は大翔の卒業のお祝いだからと伝えるが、祖母は持っていた杖を勢いよく

叩きつけながら『嫁の分際で鎌ヶ谷家のやり方に口を出すな!!』と怒鳴り声をあげる。

ママも近くにいた私も祖母が恐ろしく見えてしまい、それ以上何も言えなくなってった。


 すぐに必要なものを段ボールに詰め込まされ大翔はそのまま連れていかれてしまった。


 「栄一さん、これはどういうことなんですか……!」

 「そうだよ、お父さん!」


 ママと私で父親に詰めかけるが、父親は何も語ることなく、自分の部屋に行ってしまった。


 これはママから聞いたことだが、鎌ヶ谷家はトップエリートを育てる学院を経営しており

父親もその学校に通わされていたらしい。

 厳格な祖母の指導の元、父親は理想的なエリートになっていった。

 それに味をしめた祖母はその息子である大翔に目をつけて、同じように育てようと考え始めたという。

 父親にはもう一人弟がいるが兄とは違い、母親のやり方についていくことができず家をでて以降、鎌ヶ谷の家には一切顔を出していないという……




 「……昨日は大翔から連絡きたのかい?」


 琴葉は心配そうな顔で声をかけてくる。

 それに対して私は無言のまま、大翔とのLIMEの画面を見せる。


 昨日の夜の日付には1回だけメッセージが届いていた。


 『深愛ちゃん、家に帰りたいよ』


 メッセージを見た琴葉は苦しそうな表情をしていた。

 それ以降、琴葉は何も喋ることなく予鈴がなるとそのまま自分の教室に戻っていった。



 

 「お父さん! 大翔をどうにかしてあげてよ!」


 その日の夜、父親が帰宅して、夕飯を食べている時にスマホの画面を見せていた。

 父親はスマホの画面を一瞬みるが、それ以降画面を見ることはなかった。


 「何で黙っているの! 何とか言ってよ!!!」


 いつの間にか私は怒鳴り声を上げていた。

 だが、父親は黙々と夕飯を食べている。

 その対応にイライラしていた私はテーブルの上に置いてあった調味料を取ると父親に向けて投げつけていた。

 

 「深愛……!」


 私の隣に座っていたママが止めようとするが、調味料は私の手を離れて一色線に父親の額に勢いよく当たる。


 当たりどころが悪かったのか、当たった箇所から血が流れていた。


 「栄一さん……! 深愛、薬箱もってきなさい!」

 

 それを見たママが慌てて私に指示するが


 「……このぐらいどうということはない」


 と、口にすると左腕の甲で血を拭うと再び夕飯を食べていく。


 「深愛」


 夕飯を食べ終えた父親はお茶を飲みながら私の名前を呼ぶ


 「……なに?」


 私はイライラが隠せないまま呼びかけに答える。


 「……おまえが大翔のことを大事にしていることはよくわかっている」

 

 それに対して「それなら……」と言いかけたが父親は話を続ける。

 

 「だが、甘やかすだけがいいことだとは思わない、時には厳しくするのも……大事なことだ」


 父親は淡々と話を続け、最後には——


 「大翔と一緒にこの苦しみを耐えなきゃいけないんだ。 家族として……」



 そう言って、父親はお茶を飲み干すと自分の部屋に行ってしまった。

 

 「そんなの……できるわけないよ……!」


 父親が言ったことを理解できず、今の大翔を助けてやれない自分の情けなさに気がつけば私は泣いていた。

 それを見たママは黙って私を抱きしめていた。


 その日の夜も、大翔からLIMEで悲痛のメッセージが送られていた。


 『テストで満点取れなかったらおばあちゃんに怒鳴られたよ……』


 それに対して私はどう答えていいのかわからなくなり

 

 『大丈夫だよ、大翔なら頑張れば満点なんて簡単にとれるようになるよ!』


 と、励ましのメッセージを送ることしかできなくなっていた。


 「……ごめんね、大翔」


 スマホを見ながら私はつぶやくと、枕に顔を押し付けて泣いていた。




 それから数日経ったある日の夕飯時、父親が帰宅すると


 「明日からの大型連休中、大翔の帰宅の許可を貰った」


と、話していた。


 大翔が帰ってくる……!


 それだけで私は今まで沈んでいた気持ちが晴れていった。


「ただいま、母さん、深愛ちゃん……!」


 

次の日、父親に連れられて大翔がリビングに入ってきていた。


……だが、久々に見た大翔の姿を見て私もママも一瞬言葉を失ってしまう。



——そこに写っていた大翔は私たちの記憶の中にある大翔の姿とはかけ離れていたから



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は7/9(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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