76話


 「みてみて大翔! 制服だよー!」


 来月から中学になるにあたり、数ヶ月前に作った制服が届いたので

さっそく着て、弟の部屋のドアを開ける。


 「……深愛ちゃん、部屋に入るときはノックぐらいしようよ」


 部屋でテレビの前で釘付けになって遊んでいた大翔は呆れた様子で

私を見ていた。


 「ほら! 中学の制服だよ、可愛くない?」


 学区内の中学ではセーラー服だった。

 小学校と中学校が近いため、このセーラー服を着ている人をみかける度に

早く着たいと思っていた。


 「そういうのは僕じゃなくて琴葉ちゃんに聞いた方がいいと思うけど?」

 「もー! 何でそういうこと言うかな! せっかく見せてあげたのに!」

 「それって単なる押し付けじゃん!」


 私がムキになったことで大翔もムキになって返していた。


 「ってか深愛ちゃん、明日卒業式だけど準備できてるの??」

 「大丈夫だよー!」


 私は自分の胸をバシンと叩き自信満々に答える。


 「だといいけどね……」


 私の返答に対し、大翔は心配だと口にしていた。





 「深愛ちゃん! 起きないと遅刻するよー!!!」

 「ふぇ!?」


 大翔の心配は見事に的中。

 次の日の朝、私は見事に寝坊していた。


 「もう、何で卒業式の日に寝坊なんてするの!」

 「そういうママだって今起きたって顔してるでしょ!」

 「母さんも、深愛ちゃんも早くしないと遅刻しちゃうからー!」


 半分髪がボサボサの状態でママが運転する車に乗り込んで

 卒業式1分前に学校に着いて何とか間に合った。


 「今日、僕たち!」

 「私たちは!」

 「この学校を卒業します!」


 卒業式は何事もなく無事に終わり、教室に戻ると担任の先生から卒業証書を渡される。


 「じゃーん! 卒業証書だよ!」


 家に帰った私は大翔の部屋のドアを開けると卒業証書を両手で広げて見せる。


 「だーかーら! 部屋を開けるときはノックぐらいしてよ!」

 「そんなことよりも卒業証書をみてよー!」


 大翔の言葉などおかまいなしに私は証書を大翔に押し付ける。

 何を言ってもダメだなと悟ったのか大翔は呆れた表情のまま拍手をしていた。


 「はいはい、おめでとう」

 「気持ちがこもってないー!」

 「おーめーでーとーう!!!!」


 大翔は大声で賛辞の言葉を述べると私の体をドアの方に向けて

追い出すように背中を押していく。


 「いま、ラスボスと戦うことに集中したいからあとでね!」


 私が部屋の外にでるとバタンとドアを閉める大翔。


 「もー! 大翔のばかー!」



 卒業式から数日経ったある日、琴葉が家にやってきた。

家に入った琴葉が向かったのは私がいるリビングではなく2階


 「やあ大翔、相変わらず元気のようだな!」

 「あれ、琴葉ちゃんいらっしゃい、深愛ちゃんは——」


 その後はいつも通り琴葉は大翔を部屋の外に連れ出そうと言葉巧みに誘導をしていき、大翔の腕をつかんで私がいるリビングに来ていた。


 「相変わらず、大翔は琴葉に弱いね」


 私が微笑ましく琴葉と大翔を見ているが、大翔は今にも泣きそうな顔をしていた。


 「僕が弱いんじゃない、琴葉ちゃんが強すぎるんだ!」


 大翔の言葉を聞いた琴葉はムッとした表情をする


 「こんなにもか弱そうな女をみて強いだなんて失礼なやつだな、おまえは」

 「事実そうでしょ!」


 大翔の返答内容に琴葉は目を瞑って何かを考えるそぶりをする。

 もちろん大翔の腕を掴んだまま。


 「でも、女は強くなければ家庭が崩壊すると言うし。大翔のいうことも間違いではないかもな」

 「……琴葉ちゃんの夫になる人は苦労しそうだね」

 「そうならないように大翔も強くならないとな」

 「何で僕なの!?」


 大翔の驚く様子をみて珍しく琴葉はため息をつきながら小さくつぶやいていた。


 「まったくこの姉弟の鈍感ぶりはどうしようもないな……」



 大翔の隣の椅子に座った琴葉は組んだ両手を自分の顎に置く。

 それを見た私と大翔は思わず口を閉じてしまう。

 テレビで見る偉い人がこれからすごいことを話すといった感じだった。


 「大翔はセーラー服が似合うと思うんだ」

 「え……?」


 琴葉が発した言葉に私と大翔は変な声をあげてしまう。

 そんなことはおかまいなしに琴葉は話を続けていく。


 「大翔は昔からそうだが、女みたいな顔をしているだろう。 この前、制服が届いた時に思ったんだよ……」


 琴葉はテーブルとバン!と叩きつつ、大翔の方へ人差し指を突きつけるように向けた。


 「大翔はセーラー服が似合うと!!!」


 琴葉は自身たっぷりに眼鏡をクイっと上にあげていた。


 「ってわけで、深愛っち。 制服を出すんだ!」

 「うん! わかったよー」


  勢いにあてられた私は思わず頷く。


  「いやいや! 冗談だよね!?」

  「この顔が冗談を言ってるように見えるのかい?」


 琴葉は不敵に笑いながら、顔を大翔に近づけていく。


 「そ、それじゃ、制服もってくるねー!」


 これ以上見ちゃいけないと判断した私は慌ててリビングをでて

自分の部屋に向かっていった。


 「深愛ちゃああああん! 行かないでー!!!」




 私が制服一式を琴葉に渡すと、琴葉に首根っこを掴まれリビングの奥に連れられていく。


 「さあ! 早くこれに着替えるんだ!」

 「琴葉ちゃん、目が血走ってて怖いよ!?」

 「嫌だっていうなら、この私が直接——」

 「——着替えるよ! ってか琴葉ちゃん恥ずかしいからあっち行ってて!」

 「何を今更。 これまで何度も風呂に入ったり、一緒に寝た中じゃないか」

 「いいから出てー!」


 どうやら大翔に押し出されたらしく、奥の部屋から琴葉が飛び出してきた。


 「まったく、私は全く気にしないと言うのに……」


 琴葉はブツブツと文句を言いながらリビングに戻ってくると、先ほどと同じ椅子に座っていた。


 「もー、大翔をそんなにいじめないの!」

 「何を言っているんだ、深愛っち。これは一種の愛情表現だ」

 「ホントかなぁ……」

 

 琴葉のマグカップの中が空になっていたため、紅茶を淹れると2人で来週に控えている中学校の入学式の話をしていた。


 そして、大翔が琴葉を追い出してから数分後。

 顔を真っ赤にした大翔が戻ってきた。


 「ってかもういいよね! 足元がスースーして気持ち悪いから気持ち悪いんだけど!」


 今にも泣きそうな声を出していた。

 そんなことはおかまいなしに琴葉は興奮気味にスマホのカメラを起動して、いろんな角度で写真を撮っていく。


 「ふぅ……いつの間にかこんなに撮っていたか」


 撮影が落ち着いたのか、琴葉は残っていた紅茶を飲みながら撮った写真を見ていた。

 私も覗き込むように琴葉の写真を見ていく。


 「ねー! もう着替えてもいいよねー!?」


 その隣で大翔が自分の意見を主張するが、提案者の琴葉の耳に入ることはなかった。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は7/2(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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