75話


「深愛ちゃん起きないとプニキュアはじまっちゃうよ!」


まだ変声期から程遠い声で私、鎌ヶ谷深愛のことを呼ぶ声が聞こえる。


「ふぇ……」


その声に反応して私は布団をめくってフラフラとテレビがあるリビングに向かう。


「深愛ちゃんおはよう……いま歌だから顔洗ってきなよ」


リビングにいくと弟の大翔が私のところにきていた。

弟なんだけど、見た目も声も女の子みたいでものすごく可愛い。


「うんーそうするー」


そう言って私は倒れるように大翔にもたれかかる。


「深愛ちゃん! 洗面所はあっち!」


大翔は両手で私の体を押えていた。


「つれていってー……」

「わかったから体起こしてー!」


大翔は私の手を取るとブツブツ何かを言いながら私を洗面所まで連れて行く。


「もう! 深愛ちゃん来年には中学になるんだからしっかりしなきゃ!」


バシャバシャと顔を洗っている私に向けて文句をぶつける大翔。

私には大翔がいるから大丈夫!

もちろん声にはだしてないけど。


「部屋に行くから終わったら呼んでね」

「えー! 大翔も一緒にみようよー!」

「やだよ! 女が見るやつなんか見たくないよ」

「いいから見るの!」


そういってアニメでキャラが使っているステッキを大翔に渡す。


「何でみなきゃいけないんだよぉ」


そう言いながらも大翔は照れながらも一緒にステッキを振りながら見てくれていた。


エンディング曲が流れると大翔はこの後始まるヒーロー番組で

主役が使っているベルトを持ってくると腰のあたりに装着させ、勢いよくどこかのボタンを押すと——


「イェーイ! バリバリにノってるぜい!」


とベルトから機械混じりのボイスが流れる。

それに合わせて大翔もポーズを取る。


ヒーロー番組が始まると大翔は椅子に座り、画面に食いつくように見る。

そんな大翔の姿をみてるのが楽しくて私も隣で一緒に見ていた。


「「変身ッ!」」


テレビの中の主役が叫ぶと同時に大翔も叫び出す。

ポケットの中からカードを出してベルトの真ん中の部分に当てると


「イェーイ! ノリノリでヤッチマオウゼ!」


とベルトからノリノリの声が発せられていた。

——当時はわからなかったけど、今考えたらチャラかったような気がする。


それから大翔は画面の主役に合わせるようにパンチやキックから始まり

別のカードを取り出すシーンなど真似ながら見ていった。


「あーあ……終わっちゃった」


怪人を倒して今日も平和になったところで番組が終わり

今日1日が終わってしまったと言わんばかりにつけていたベルトを外す大翔。


「もー! せっかくの日曜なのにそんな暗い顔しないの!」



2人のみたい番組が終わると後はバラエティだったり、ニュース番組と

当時の私や大翔には興味がない番組が始まったので、テレビを消す。


「そういえばお腹すいたね、何かあるかな?」


大翔の話ではお父さんとママは朝から出かけたと聞いていた。

そういう時はご飯を作ってくれている。

そう思って冷蔵庫の中を開けると、ラップで包まれたサンドウイッチがあったが……


「あ、ケーキがある!」


その隣にあるチョコケーキとショートケーキに目が行く。


「お母さんがコンビニで買ってみたいだよ」

「そうなんだー」

「って深愛ちゃん、なんでケーキを取り出してるの?」

「そこにケーキがあったからだよ?」

「……登山家みたいな答えは聞いてないよ! ご飯食べなきゃだめでしょ!」


大翔は冷蔵庫の中からサンドウイッチを取り出してテーブルの上に置く。

なんか大翔がママみたいなこと言ってる。


「大翔、これあげる」

「深愛ちゃん、最後まで食べなきゃだめでしょ!」


皿の上に半分以上残ったサンドウイッチを弟の前に差し出したが、すぐに自分の前に戻されてしまう。


「お腹いっぱいなの!」

「でもケーキは食べるんでしょ?」

「うん! 甘いものは別腹なんだよ!」


私の返答に大翔は呆れた顔で私の顔を見ていた。


「……まったく、しょうがないなぁ」


そう言って大翔は残ったサンドウイッチを食べていく。


「大翔、ありがとー! 後でケーキあげるね」

「どうせ一口だけでしょ……」


私は、大翔の膨れれた顔を見て微笑んでいた。




「深愛っち遊びに来たよー」


お昼を過ぎた頃、琴葉が遊びにきた。

それがわかると大翔はすぐに自分の部屋に行こうとするが……


「何で私が来たら部屋に行こうとするんだ?」


どうやら廊下で琴葉に捕まったようだ。


「あ、琴葉ちゃん来てたんだ気が付かなかったよ!」

「まったく、嘘をつくならもうちょい考えてついたらどうだ?」


私が琴葉とは幼稚園のときから一緒なので

もちろん大翔と琴葉もほぼ同じ付き合いが長い。


「ほら、深愛ちゃんと遊ぶのに僕がいたら邪魔かなって! それにこの前買ったゲーム進めたかったし」

「ほう? 大翔は私よりもゲームを選ぶというんだな? あんなにも好きだと言ってたのに私のことはこうも簡単に捨てるというんだな!」

「っていつの話をしているんだよ!」

「私にとっては昨日のように思えるんだが?」


どうやらいつものやりとりが始まったようだ。

琴葉は一人っ子のため大翔のことを実の弟のように接している。

本人曰く大翔への愛情表現の一環だと話していた。


ちなみに琴葉のことを好きといったのは幼稚園のときにやったおままごとで、プロポーズからやることになり、琴葉の言われるがままに大翔が発した言葉である。

ちなみにその時の私は教会の神父役だった。


――今考えれば何故って思って配役だ。


「今日はずっと私の隣にいるんだぞ!」

「えー!? 友達にゲーム追いつかれちゃうよ」

「ゲームはいつでもできる。だが、私はいつまでも傍にいるとおもわないことだな、放っておかれたらどうなるか……」


何か、学校休んだ時にみた昼ドラみたいなこと言っていた。

大翔はその後も必死に抵抗するがあっさりと言いくるめられようで琴葉に腕をガッチリ掴まれてリビングに入ってきた。


「やあ深愛っち。 大翔も一緒にいたいというから連れてきたぞ」

「琴葉ちゃんが無理やり連れてきたんでしょ!」


その後、何度も逃げ出そうとする大翔だったがそのたびに捕まり、最終的にはずっと腕を掴まれていた。


「大翔、琴葉に買われてる犬みたい」

「深愛ちゃん、笑ってないで助けてよー」


大翔の腕を掴んでいるときの嬉しそうな顔を見たら助けるなんてできるわけないでしょ?

と声に出さず私はずっと笑顔で見守っていた。


それに文句言いながらも大翔も顔を赤らめているのを私は見逃さなかった。


――この時の私はこんな感じでずっと3人一緒にいられると思っていた。


あんなことがなければ……!


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は6/29(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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