72話


 「悠弥、大丈夫……?」

「この……ぐらい……全然……平気」

「汗すごいことになってるけど?」


たまには運動をしないとやる気をだしてみたものの

目的の階に着いた途端、息切れと大量の発汗の症状に陥っていた。


「もー、部屋に籠ってゲームばかりやってるからだよ!」

「……そうですね」


この前学校で、習志野にも言われたばかりだ。

そう言えば、ウイッチで実際に運動しながら進めるゲームがあったから買ってみるのも

ありかもしれないな。


フロアのベンチに座りって休んでいるうちに息切れが治まったので目的地である本屋に向かう。


「私、あっちに行ってるねー」


と、深愛姉は俺から離れて指を指していたほうへ向かっていった。

ちなみに向かっていったのは参考書コーナー。


「……場所間違えてないか?」


不思議な光景を目の当たりにした俺はそのまま漫画コーナーへと進んでいった。




「ありがとうございました。 またどうぞお越しくださいませ」


目的の本を見つけ、他の漫画コーナーに向かって物色するが、特にこれといって買おうと

思えるものがなかったため、レジへ持っていき精算を済ませる。


「深愛姉はまだ探してるみたいだな……」


待っていても暇なので先ほど深愛姉が向かっていったコーナーへと足を運ぶ。

先ほど不思議な感じがしたが、よく考えれば自分もこっちにくることはないな

と感じていた。


参考書コーナーに入ると、本棚には『公務員試験』や『大学受験』『PC、スマホマニュアル』

などに分類されていた。

そのコーナーを抜けた先で深愛姉の姿を見つける。

本棚を見ると『資格』と書いてあり、深愛姉はそのコーナーに置いてある本を開いて

一心に見ていた。

どうやら本を見るのに夢中になっているらしく、俺が近くにいることに気づかないようだ

ちなみに本には『普通免許必勝攻略本!』と書かれていた。


「……ゲームの攻略本かよ」


小声で言ったつもりだったが、周りが静かだったため深愛姉の耳に入り

驚いた表情で俺の見ていた。


「あれ、買い物終わったの?」


深愛姉は読んでいた本を閉じる。


「まあな、ってかそろそろ卒業できるんだっけか?」

「うん、明日実地やったらあとは卒業検定だよ!」

「……卒業してもその後に学科試験があるけどな」

「そうだよー! 実地は問題ないけど筆記試験が大変なんだよー!」


そういえば仮免許の時の筆記試験は2回落ちたと言っていたな。


「よし、これ買ってくるねー」


深愛姉は持っていた参考書を持ってレジの方に進んでいった。




「おまたせー!」


精算をすませた深愛姉は買った本を肩にかけたトートバッグにしまいながら

本屋の入り口の新刊コーナーを見ていた俺の元にやってきて、俺の腕をとる。


「それじゃ行こっかー!」


用は済んだからさっさと帰ろうと思っていたが……


「あ、悠弥ストップ!」


深愛姉に腕を掴まれ俺は後ろ引っ張られる。


「急にひっぱるな!」

「見てー水着!」


指を指した方を見ると深愛姉が好きだと言う女性向けブランドショップで

新作水着と書かれたポップがつけられた多種多様、色鮮やかな水着が展示されていた。


「もうすぐ本格的な夏だね」


そう言って深愛姉はワンピースっぽく見える花柄の水着を手にとって

自分の体に合わせていた。


「ねえねえ! これ可愛くない?」

「……そういうことを俺に聞くなよ」

「あ、もしかして悠弥、こういう可愛いのは好みじゃない?」

「人の話聞けよ……」


深愛姉は手にした水着を元の場所に戻すと、隣にあった黒のビキニタイプの

水着をとり、先ほど同じように自分の体にあわせる。


「やっぱこういうセクシー系のほうが好きかな、琴葉の言う通りだね」


あのクソ女、相変わらず好き勝手言ってるな。


「夏休みまでに免許とれたらみんなで海に行こうよ!」


水着を戻しながら深愛姉は楽しそうな声で口にする。


「みんなって?」

「私と悠弥、琴葉にナギちゃん、あとは理人くんもかな」

「理人はうるさいからいらないな」

「友達のことそんな風に言っちゃダメだよ!」


……だって事実だし。



ブランドショップを後にした俺たちはエスカレーターで入り口がある1階まで降りて

モールから外にでた。


まだ夕方まで時間があるせいか、家族連れやカップルなどたくさんの人が行き来していた。


「まだこんな時間なんだね、どこか行く?」

「……早く帰ってゲームしたい」

「運動不足になってもしらないよ?」

「さっき運動したから充分だろ……」


俺が先に帰り道へ歩き始めると深愛姉は「まってよー!」と言いながら

走ってきて、俺の腕をとって自分の腕を絡ませていた。


「あ、そうだコンビニで寄っていこうよ! 新作の『生クリーム山盛りホットケーキ』食べたい!」

「……聞いただけで胸焼けがしそうなホットケーキだな」

「甘いものは人を幸せにするんだよ?」

「幸せに関しては個人差があるって知らないのか?」


俺の返答に深愛姉は「もー!」と言いながら俺の背中を叩く。


「……深愛?」


後ろから深愛姉を呼ぶ声がして思わず俺も声の方を向く。

向いた先には紺のスーツを着こなした黒髪と白髪が混じった髪の男の姿があった。

声からして年齢は父親よりも同じぐらいに聞こえるが、髪や痩せて見える容姿から

上に見えなくもない。


……あれ? どっかでみたことあるような??


「深愛姉、知ってる人……?」


声をかけつつ隣にいる深愛姉を見る。


「深愛姉?」


深愛姉は何も答えることなく俺の腕を強く掴んでいた。

腕から震えているのが伝わり、表情は恐ろしいものをみたかのごとく強張っていた。


男はゆっくりと俺たちの方に近づき、深愛姉の方をみて話そうとするが


「来ないで!!!!」


深愛姉は更に俺の腕を掴む力を強めて叫ぶ。

男はその声に驚いたのかその場に立ち止まってしまう。


「どうしたんだよ、深愛姉……?」


俺は深愛姉の肩を掴み、自分の正面に向かせて声をかける。

だが、深愛姉は体を震わせるだけで、何も答えることはなかった。


「すみません、ちょっと体調が悪いみたいですのでまた今度——」


と、目の前の男に伝えようとすると、男は手で口元を抑えながら

スローモーションの映像のようにゆっくりと前のめりに倒れていった。


「え……?」


俺は驚きのあまり、棒立ちのままその光景をみていた。

倒れた拍子で口元を押さえていた両手が離れ、手についていたものをみて

心臓がドクンと跳ねあがる。


男の両手は真っ赤なものがベッタリとついており、そして口元も……


どう見てもこれは――


「きゃあああああああああ!」


男が倒れたことに気づいた通行人が大声を上げていた。


「おい、男が血を流して倒れてるぞ! だれか救急車を呼べ!」


気がつけば周りが一気に騒がしくなっていた。


俺と深愛姉は何をしていいのかわからないままその場に立ち尽くしていた。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は6/18(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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