70話

  「つか……れたぁぁぁ……」


自分の部屋に戻り、椅子に座ると同時に声が出てしまっていた。

我ながらオッサンみたいだなと思ってしまう。

あれから父親の話を聞いていたが、理解できることなど全く

話をしている父親ですら理解できないものだったため、最終的に2人で唸り声をあげることしか

できなくなり、父親の分の夕飯を作るとすぐに風呂に入って部屋に戻ってきてしまった。


「考えても答えが出ないっていい気分じゃないな……」


毎度のようにため息を混じりつつ口から言葉が流れ出す。

これ以上考えても仕方がないので気分を入れ替えるためにPCの電源を入れる。

明日は休みだし眠くなるまでゲームでもやってればいいだろう。

どうせ、ログインしたら理人がやかましくクエストに誘ってくるだろう。


ゲーム画面を起動し、ログインしようする直前で部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「開いてるぞ」


この家でノックをして入るのはまず深愛姉じゃないのはたしか。

わざわざ俺の部屋にくるのは父親しかいないため、いつも通りに返事をして

ドアの方をみる。


「はいるよー」


声と同時にドアが開く。ドアの奥にいたのは


「……深愛姉?」


まさかの深愛姉が立っていた。

ずっと寝ていたせいか、髪は少しボサボサになっており

目も少し半開きになっていた。


「起きてて大丈夫なのか?」

「大丈夫だよー」


深愛姉は中に入ると、ドアを閉めてベッドの上に腰掛ける。

……いつもこんな感じで入ってくれればいいんだけどな。


「部屋まで運んでくれてありがとう」

「……別にいいけど。 やっぱ休んだ方がよかったんじゃないか」

「そうだね……」


苦笑いをする深愛姉。いつもなら元気よく否定するのに

今日に限ってはしおらしく見える。

どうやらまだ、本調子ではないようだ。


「……薬飲んでさっさと寝た方がいいんじゃないか?」

「うん、そうしようかと思ったんだけどね」


そう言って深愛姉は両手でお腹を押さえていた。


「起きたらお腹すいちゃったー……」




深愛姉と一緒にリビングに行くと、父親の姿はなく部屋は真っ暗だった。

そういえば仕事が落ち着いたと言ってたから、早めに寝たのかもしれない。

冷蔵庫の中を見ると、先ほど作ったタレに漬け込んでいた豚肉が多少残っていた。


「……深月さんも食べたのか」


独り言を言いながら、残った豚肉と千切りにしてあったキャベツを取り出して

フライパンで焼いていく。

そんなに量もないからこれなら深愛姉でも食べ切れるだろう。



「できたよ、味は保証しないけど」


そう言って深愛姉差し出す。


「ありがとー!」


深愛姉は子供のように笑顔で夕飯を食べていった。





「ごちそうさまでした!」

「……ごちそうさまでした」


俺も深愛姉と一緒に手を合わせて食べ終わりの挨拶をする

少し食べてくれたものの、食べ切ることはできず残りは俺が食べることに。

……そろそろ運動しないとやばいことになりそうだ。


しばらくして胃がおちついたので、深愛姉に風呂に入るように言って

俺は使った食器を洗い、そのまま部屋に戻っていった。



部屋に戻るとゲームにログインする。

ログインしてすぐに理人のキャラクターに捕まりクエストに連れ回されていた。


『明日は休みだからな! いっとくが今日は寝かさないから覚悟しとけよ』

『気持ち悪い、地の底まで沈んでそのまま這い上がってくるな』

『それ、悪口の域を超えてないか!?』

『うるさい、口ごたえすると回復と復活してやらないぞ』

『すみませんでした! 何でもしますから!』


理人とこんなくだらないやりとりをしながら無事にクエストをクリアして

一息つく。


『ちょっとコンビニまで行って飲み物買ってくるわ』


理人はキャラの頭の上に『離席中』と表示させると

画面の中のキャラクターが微動だにしなくなった。


「俺も飲み物取ってくるか……」


つけていたヘッドフォンを外してから部屋の外にでるために

ドアを開ける。


「ふぇ……!?」


開けた先には深愛姉が驚いた顔で立っていた。

……両手で枕を抱えながら。


「……どうしたんだ?」

「あ、うん……」


深愛姉は顔を赤くしながら小さな声で答えていた。


「……今日、一緒に寝てほしいなって」






『すまんな、今日は落ちるからあとは頑張れ』


理人へダイレクトメッセージを送るとすぐにゲームをログアウトする。


「……何で俺ってこう押しに弱いんだ」


ため息をつきながらPCをシャットアウトさせてからベッドの方を見ると

深愛姉は既に俺の布団の中に入り、早く来てくれと言わんばかりに声には出さず

目で訴えかけていた。


部屋の電気を消してそのまま布団に入る。

深愛姉は俺の方を向いていたが、俺は反対側を向ける。

これまでだと布団に入ったら深愛姉は国民的アニメのキャラのようにすぐに熟睡するのだが

今日に限っていえば、俺に体をピタッと密着させていた。

……背中越しに柔らかい感触を感じ、何とも言えない気分になっていた。

だが、すぐに別のことにも気づく。俺はすぐに体を深愛姉の方に向ける。


「深愛姉、震えてる……?」


微かにだが、深愛姉の体は震えていた。

すぐに額を触るが熱があるようではなかった。


「……うん」


深愛姉は静かに答えると、さっきよりも体を密着させて抱きついてきた。


「……また、あの夢を見るんじゃないかと思うと怖いの」


つぶやくような声でさきほどよりも小さなだった。


「あの夢……?」


俺が問いかけるが、深愛姉から答えが返ってくることがなかった。


「ねぇ、悠弥」


しばらく何も話さないでいると深愛姉が俺の顔を見て声をかけてきた。


「……どうした?」


俺も深愛姉の顔を見ると、憂を帯びた表情に一瞬ドキっとしてしまう。


「……今日だけはぎゅっと抱きしめてほしいなって」


表情は変わらず俺の顔を見たまま話す深愛姉。

俺は言われるがままに深愛姉の腰に右手を回し、左手で頭を押さえながら

自分の方に引き寄せる。


「……これでいいか?」

「うん、ありがとう……悠弥」


安心したのかしばらくして深愛姉から穏やから寝息が聞こえていた。


「寝たか……」


俺も目を瞑りゆっくりと眠り入ろうとする流れで深愛姉の体の震えがなくなっていることに気づく。


「……おやすみ、深愛姉」


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は6/11(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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