69話


 「大変お待たせいたしました」


小会議室のドアを開けると中には最大長細いテーブルと茶色の椅子が4脚

最大4人まで入ることができる部屋に男が1人椅子に座っていた。

保田君の言う通り、生真面目を絵に書いたような髪を七三分けにして高級そうなスーツを着ていた。


「あなたは……?」


男はギョロッとした目で俺を見ていた。

……ずいぶんとやせ細っているようだが大丈夫なのか?


「申し遅れました、代表の佐倉と申します。袖ヶ浦は外出しておりますので、代わりに私がご対応させていただきます」


男の対面の席に座ると、テーブルの上にノートPCを置いて

スリープモードから復帰させた。


「ご丁寧にありがとうございます。 私は鎌ヶ谷と申します、袖ヶ浦さんとは……」


「……元、旦那様ですよね?」


鎌ヶ谷と名乗った男は俺の返答に一瞬驚いた表情を見せたがすぐに

平然とした表情に戻っていた。


「では、あなたが彼女の……」

「えぇ、妻になります。 去年の暮れに席を入れて、今は私の家で暮らしております。」


「そうでしたか……」


男は残念そうな顔で答える


「ちなみにですが袖ヶ浦にはどのようなご用件で?」

「いえ、そんな大した用事ではないのです、これを渡したかっただけでしたので」


そう言うと鎌ヶ谷はスーツの胸ポケットから長細い白い封筒を取り出して

テーブルの上にゆっくりと置いた。


封筒には「深愛へ」と書かれていた。


「こちらは深愛に渡すものでしょうか?」


「えぇ、こちらに来る前に本人に渡そうと思い、ご自宅にお伺いさせていただきましたが、ご不在でしたので」

「ご自宅というのは……私の家でしょうか?」

「はい」


マジかよ……と、会社でこの場でなければため息と一緒に

この言葉が口からでるところだった。


婚姻関係があれば元配偶者の住所を調べることは可能らしいが

やられたほうはいい気持ちがしない。


「……こちら拝見させてもらってもよろしいでしょうか?」

「えぇ、構いません」

「では、失礼いたします」


俺は封がされていない封筒を開けて中身を見る。

中には丁寧に折られた一枚の用紙が入っていた。


用紙を広げてすぐに目についた文字に思わず息を飲み込んだ


「これは……!?」


驚きのあまり大きな声がでてしまった自分に対し目の前の男は

目を閉じてゆっくりと喋り出す。


「……私の命も長くはないですので」




我が家の姫様を抱きかかえながらゆっくりと階段を登っていく。

当のお姫様は穏やかな寝息を立てて寝ている。

階段を登りきったら後は部屋に向かっていくだけだ

運ぶ前に部屋のドアを開けておいたので、足を使ってドアを開いて中に入る。


「よっこらせ……っと」


布団をめくると同時に深愛姉をベッドの上に寝かせて布団をかける。


我ながらうまくなったなと思いつつ深愛姉の部屋から出ていった。


リビングに戻り、冷蔵庫の中を物色する。

両親が帰ってるとはいえ相変わらず帰りの時間が検討つかないため、平日の夕飯は俺か深愛姉が作ることになっている。

本来は深愛姉が当番だがあの様子じゃできないだろ


「豚肉にキャベツ……生姜焼きにでもするか」


冷蔵庫から材料をとりだして準備をしていった。



「よし、あとは焼くだけだな」


準備を終えてシンクで使った食器を洗う。


窓をから外を見ると辺りがうっすらと暗くなっていた。

準備し始めたときは明るかったけどな……


水道で手を洗い、スマホを見て時間を潰していた。

先に食べてもよかったが、食べている最中に調理をするのが

面倒なのでできることなら一気にやってしまいたかった。


「せめて深愛姉でも起きてくれればいいんだけどな……」


そう思いながらもスマホでゲーム情報サイトを流し見をしていった。

すると、玄関の方でガチャっとドアを開ける音がした。

俺も深愛姉も家にいるわけだから残るは2人の親に違いない。


「……おかえりなさい」


リビングのドアを開けながら声をかけると

玄関にいたのは深月さんだけだった。


「ただいま、深愛はおでかけ?」

「いえ、なんか疲れてるみたいで部屋で寝てます」

「そう……」


深月さんはリビングに入ったものの、いつもより疲れた顔をしていた。


「今日は父さんは一緒じゃないんですね……」


俺が話しかけると深月さんは一瞬体をビクッとさせていた。

……何か驚かすようなこといったか?


「和彦さん、ちょっと急なお客さんがきて遅くなるみたい……」

「そうですか、相変わらず忙しいんですね」

「そうね……」


深月さんは静かに返事をしていた。


「あ、そうだ夕飯食べた? よかったらこれから作るけど?」


椅子にカバンとジャケットをおいた深月さんは材料を冷蔵庫から取ろうとしていた


「あ、用意はできているんですよ。深月さん食べますか?」

「それなら悠弥くん先に食べちゃっていいわよ、私はちょっと部屋で休ませてもらうわね」


そう言って深月さんはカバンとジャケットを持ってリビングから出ていってしまう。

体がフラフラとしていたが、大丈夫なんだろうか……


「深愛姉といい、深月さんといい……どうしたんだ?」


父親が帰ってくるのを待っててもいいが何時になるかわからないため先に食べことにして、コンロをつけた。




「ただいまー!」


豚肉がいい具合に焼き上がり、皿に装って食べようかと思ったら

家族の中で一番聞いた声がリビングまで響き渡っていた。


「おかえり!」


それに応えるように大声を出す。


「お、今日は悠弥が当番か?」


リビングに入ってきた父親は真っ先にテーブルの上にある

生姜焼きを見ていた。


「本当は深愛姉なんだけどな……」

「ん? そういや深愛ちゃんと深月さんはどうした?」


父親はカバンを椅子の上に置くと周りを見渡す。


「それが……」


俺は箸を置いて、深愛姉と深月さんの様子を父親に話した。

話を聞いた父親は深くため息をつきながら俺の目の前の椅子に座る。


「それで、深愛ちゃんは大丈夫なのか?」

「部屋に運ぶ時は呼吸は落ち着いてたし、今もぐっすり寝てる」

「ならよかったが……」


父親は今にも怒りが漏れ出しそうな表情を浮かべていた。


「そういえば、深月さんいつもより疲れてるみたいだけどそんなに仕事忙しいのか?」

「いや、今日で仕事は落ち着いた。ちょうどいいから今週は深月さんを休ませようと思っていたところだよ……」

「落ち着いたってわりにはなんかそんな感じがしなかったけどな」


俺の言葉に父親は無言でため息をついていた。


「……まあ、お前だから話しても平気だな」


父親が一人で呟くと俺を見ていた。


「……どういうこと?」


状況が把握できなかった。


「帰り際にな、深月さんの元夫が会社に来たんだよ」

「……何で?」

「それでこれを渡しにきたんだとさ」


そう言って父親はテーブルの上に少し折れ目がついた縦長の白い封筒を

テーブルに上に置いた。


「……何これ?」

「書類だ」

「だから何のだよ?」

「遺産相続協議書だとさ」


あまり聞くことのない言葉に俺は言葉が出てこなくなる

それにアニメやドラマの見過ぎなのか遺産相続って言葉に

あまり良いイメージを持っていないのもある……。


「ってか何で深月さんの元夫がそんなもの持ってきたんだ?」

「正確にいうとだ、深月さんに渡すもんじゃないんだよ」

「……どういうこと?」

「深月さんは離婚してるから、あの男からすれば簡単にいえば赤の他人だ、けどその2人の子供は親が離婚しても血縁関係は残るんだよ」

「この書類を渡したかったのって……」


父親は再度ため息をついた後答える。


「——深愛ちゃんだよ」


父親の答えに対して何を言えばいいのかわからなくなり

テーブルに置かれた白い封筒をみることしかできなかった。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は6/8(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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