67話


 「それじゃ行ってくるよー!」


こちらに大きく手を振りながら玄関のドアを開けていつもよりも顔色が悪い深愛姉は外に出て行った。


深愛姉のことだから俺に心配をかけさせたくないから無理矢理、元気を装っているのがバレバレだった。


「……かと言って無理をするなと言っても聞かないしな」


さきほど休めばと言ったが、本人は学校に行く気満々のため

それ以上言っても意味がないので、それ以上は言わなかったが……


玄関で深愛姉の姿が見えなくなるまで見送りをして、俺も学校に行く準備をしていく。



「……行ってきます」


ほとんど中身が空に近い状態のバッグを肩にかけ、誰もいない空間に向けて声をかけて家を出た。


「あー! 佐倉ー!」


家をでて道路にでようとした直後、見覚えのある原チャが俺の前で止まった。


「……誰かとおもったら習志野か」


俺が声をかけると習志野は原チャのエンジンを切って、被っていたヘルメットを外す。よほど急いでたのか、髪の毛が所々ハネていた。


「ってか深愛さんもう言っちゃったよね!」

「もうとっくに行ったぞ……」

「あー!! 私のバカぁぁぁぁぁ!」


習志野は肩をガクッと落として項垂れる。

いつもは深愛姉が家を出る時間に合わせて俺の家にきて

駅まで話しながら学校に行くのが楽しみだったと話す。


「昨日さ、キャンペーンで育成成功率がアップだっていうからつい」


要約すると、ソシャゲのやりすぎてスマホの電池がギリギリだったことに

気づかずそのまま寝てしまい、アラーム機能が作動せず寝坊したようだ。


「……わかったから早くいかないと今度は学校に遅刻するぞ」


原チャを駐車場に停めさせて、すぐに学校の方へ向かって歩き出す。




「深愛さん調子悪いの!?」


話の流れで深愛姉の話になり、今日の深愛ねえの状況を話すと習志野はオーバーなくらいのリアクションをとっていた。


「休ませようとしたんだけどな……本人は平気って言うから」

「さすが深愛さん! 私なら絶対に休む」

「……おまえならそうだろうな」

「ちょっと! それどう言う意味だ!」


俺の答えに習志野はムッとした表情のまま睨んでいた。


「とりあえず今日はすぐに帰る。最悪早退するかもしれないから、何かあったらよろしく」

「りょーかい! いざとなったら私も一緒に帰るから!」

「……それは無理だろ」




校門に入ろうとしたところで予鈴を告げるチャイムが鳴り出したので

2人で走り出し、なんとか遅刻は免れることはできた。


「はあ……はあッ……」

「間に合ったー!」


習志野と一緒に教室に入ったのはいいが、俺は声がでないほど息切れを起こしていた。

一方、習志野は息切れは多少しているものの、まだまだ走れるといった余裕の表情を浮かべていた。


「えー……あれぐらい走っただけでそうなるのかよ、ゲームばっかやってるからじゃね?」

「……そのゲームで寝坊して朝から嘆いているやつに言われたくない」


自分の席につくとそのまま机に突っ伏す。


「ってか佐倉と習志野一緒に教室に入ってなかった?」

「そういや習志野が毎朝、佐倉の家に行ってるみたいだぜ」

「マジかよ?! 女が朝起こしに来るってアニメかよ!?」


何か、一部のクラスメイトが根も葉もない噂を立てているのが

耳に入って行った。

体が動かないので肯定も否定もなにもしないが、これだけは言いたかった。


「この女の目的は俺じゃない姉だ……」

「うん? 何か言った?」


自分も気づかないうちに声に出していたのか、隣の席に座る

習志野がこっちを向いていた。


「……何でもない」


とりあえずホームルームが始まるまで動くのをやめよう……





「よっしゃあ! 授業終わったから遊びにいこうぜ!」


今日1日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に

目で机に突っ伏していた男が起き上がり、俺の方に体を向けて

騒ぎ始めていた。


「残念だが、用事があるから無理」


机の横にあるフックにかけていた鞄を取り帰る準備をする


「そうだぞ! 佐倉は香取みたいに暇人じゃないんだぞ!」


隣で習志野が呆れた顔で理人に話しかける。

すると理人は何を思ったのか、にやけた表情になり、俺の肩に手を置いた。


「そっかぁ、最近おまえら一緒にいることが多いと思ったらついに悠弥も決めたんだな」


俺が何も言っていないのに理人は「うんうん」と頷きはじめる。


「まあ、ユーイさんに比べたら習志野はサイズも控えめだけど、お似合いだと思うぜ!」


最後に俺に向けてウインクをしながらサムズアップする理人


「ははは、面白い冗談だな!」


言葉を発すると同時にすぐさま右手で理人の頭を掴み

指先に力を集中させる。


「いででででででで!!!!!」


手をバタバタさせながら悶絶の声をあげる理人

そのまま俺は習志野の方を見ながら


「ここにいいバットの強度を確認するやかましい棒があるんだけど使うか?」

「えー! バットがダメになりそうだからいらないー」

「それもそうだな……」


そう言って頭を掴んでいた手を離す。

理人は両手で頭を抱え込みながら苦しんでいった。


「ってことで俺は先に帰るからな」


席で悶絶する理人に声をかけるが、返事が返ってくることはなかった。

原チャを俺の家に停めてあるため結果的に習志野と一緒に帰ることになった。



家に着くと習志野は駐車場から原チャを出して、リアボックスから鞄とヘルメットを入れ替えていた。


「……深愛姉いるか見てくるか?」

「調子悪いみたいだからいいよ、無理させるのも悪いじゃん」

「そうだな……」

「そんじゃ、深愛さんのこと任せたからね!」


習志野は原チャのエンジンをかけてアクセルを軽くまわす。

エンジンが安定したのを確認するとすぐに発進させていった。


習志野の姿が見えなくなって家の中に入る。

玄関には茶色の革靴が置いてあったので、帰っているようだ

どうやらリビングにいるらしく、玄関にいてもテレビの音が聞こえていた。


「……またリビングで寝てなければいいけど」


そう思いながらリビングの中に入る。

いつも通り、テレビはついていたがソファには深愛姉の姿はなかった。

部屋にでも行ってるのかと思い、リビングを出ようとすると——


「深愛姉……?」


ドアホンの真下でうずくまる深愛姉の姿があった

俺は鞄を放り出して深愛姉の元に向かう


「深愛姉、大丈夫か!?」


深愛姉は俺の声に気付いたのか、俺の方に視線を持っていくが

何も喋ろうとしなかった。

ただ……体が震えていた。


部屋に連れて行こうと思い、急いで深愛姉の体を抱き抱えると

俺の体に抱きついてきた。


「ちょ……深愛姉!?」


腕がちょうど首元を覆っているため苦しいんだけど!?


「……ゆうや」


悶える俺の状態を知ってか、微かな声で深愛姉が話しかけてくる


「どうした……?」


話を聞くために抱き抱えていた深愛姉の体をゆっくり下ろす。

だが、深愛姉は俺の体から離れることはなかった。


「……よかった…………」


深愛姉は今にも消えそうな声でそう告げるとそのまま目を閉じ、

少ししてから寝息が聞こえてきた。

そういえばいつの間にか体の震えも無くなっているようだ


「……何だったんだよ」


俺は安堵の声をあげながら、もう一度深愛姉の体を抱き抱えて

部屋まで運んでいった。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は6/1(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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