66話


 「……つまり寝過ごしてきたと」


昼休み、目の前に座る琴葉が哀れみと呆れを含んだ表情で

私の顔を見ていた。


「気がついたら終点だったんだよ! 驚きすぎて声がでなかったんだよ!」


いつも乗る急行に間に合わなかったのでその後にきた各停の電車に乗り

空いている席に座り、ちょっとだけと思って目を瞑っていた。


——次に目を開いた時にはいつもとは違う場所が目に映り

驚きのあまり慌てて起きて、電車の外にでた。


駅を確認するとそこは終着駅。

幸いなことに上りの駅だったからすぐに折り返してきたんだけど


学校着く頃にはお昼休みになっており、先ほどまで担任の先生に

軽くお叱りを受けてきたところ。


「で、何を言われたんだい?」


琴葉はアニメのキャラがデザインされたペットボトルを飲みながら聞いてくる。


「次からは気をつけろぐらいだよ、それよりも……」

「……どうしたんだい?」

「先生がママのところに連絡したって……帰ったらものすごく怒られそう」

「……それは気の毒だね」


各停の電車の中でぐっすり寝たせいか、朝とは比べ物にならないぐらい

体調がよくなっていた。

夢を見る余裕もないぐらい熟睡していたようだ。


「それにしてもそんなことが起きたのによく学校に来る気になれたね」

「私、真面目だから!」

「……真面目なら授業中寝ないと思うけど」

「自分に正直!」


琴葉は大きな声でため息をついていた。

その光景に我が弟の姿と既視感を覚える。


「……琴葉、悠弥みたい」

「まあな、私と弟クンは相思相愛だからね」

「えー! 琴葉にお姉ちゃんなんて言われたくないんだけどー!」


お姉ちゃんという言葉に反応したのか琴葉はにやりと笑う。


「なるほど、お姉さんか……それも悪くないな」

「よくないよー! ただでさえ姉の威厳がなくなりそうなのに琴葉がいたらなくなっちゃうよ!」

「深愛っち、君はいったい弟クンに何をしたんだい?」


琴葉は呆れ顔に戻るとすぐにため息をついていた。

……悠弥にも聞きたいけどため息つくのがブームなの?!





「……深愛っち、おきろー」


上空から琴葉の声が聞こえていた。


「ふぇ……??」


視界がゆっくりと晴れていくと茶色の物体が目の前に姿を現す。


「えっ!? なにこれー!」

「深愛っち、体を起こしなさい……」


慌てる私に対して琴葉は冷静と呆れの中間の声で話しかけていた。

言われた通り、体を起こすと茶色の物体がなくなり、教室が映し出されてれいた。


どうやら茶色の物体は机で、気がつかないうちに寝ていたみたい。


「……真面目なんてどの口が言っているんだい?」


目の前には手で顔を覆う琴葉の姿。

声色にはまだ呆れが残っていた。


「今日から不真面目になる! ってことで琴葉ノート写させて!」

「今日から……じゃなくていつも不真面目だよ」


そう言いながらも琴葉はノートを差し出してくる。


「そう言いながらも写させてくれる琴葉が大好きだよー!」


琴葉は私の返答に驚きも照れを顔に出すことなく……


「リアルのBLと百合には興味ないんだがな……」


と、淡々とした口調で答えていた。




「全部コピー終わったよ、ありがとう琴葉」


学校の近くにあるコンビニに立ち寄り、琴葉から借りたノートをコピーしていった。全ての印刷が終わったのでコピー機から取り出したノートを返してから印刷物を取ってカバンの中にしまう。


遅刻と居眠りで今日の授業を全く聞いていないので

印刷した枚数が10枚を超えていた。

帰ったらすぐに写さないと……。


「まったく、この借りはでかいよ深愛っち」

「悠弥の使用権でどう?」

「……しょうがないなぁ」


どうやた満足言ったようで琴葉はテレビの悪役のような顔を浮かべていた。


「弟クンを使うは深愛っちも悪よのう」

「何をおっしゃいますか、琴葉様には負けますよ」


私も琴葉に合わせて悪役の台詞を口にする

……近くに悠弥がいたら相当怒られそうだ。


「琴葉はこれからどうするの? どっか寄っていく?」

「ちょっと用事があるからそっちに行くとするよ」

「用事?」

「そうさ、私の愛しのタイガきゅんの新グッズが……」


琴葉の表情がほっぺたを赤く染めながら話していた。


「あー……うん」


タイガきゅんとは琴葉が大好きなアニメのキャラクターのことだ

たしか、男性ユニットアイドルの中心的人物で、笑顔がステキとか

童顔で無邪気なところがいいとか、主人公(女)に対して一途なところが

いいらしい……。


ちなみに今のは琴葉から何度も聞いた言葉そのままを言っただけ。


「ってことで、私はそろそろ行くよ」

「うん、今日はありがとうねー!」

「今日はぐっすり寝て明日は遅刻しないように」

「もー! 琴葉がまるでお母さんみたいだよ」


そう言って私は笑いながら手を振って琴葉を見送る。



「ただいまー」


帰ったのはいいが、家に誰かいる気配はなかった。


「あれ、珍しく悠弥がいない、ナギちゃんか理人くんとあそんでるのかな?」


珍しいこともあるんだなぁ……と思いながら

階段を上がって自分の部屋に向かう。

途中で悠弥の部屋を覗いてみるが、部屋にも悠弥の姿はなかった。


部屋に入るとすぐに制服を脱いで白のパーカーと紺のブレスパンツに着替える。


夕方になるまで時間があるから教習所に行こうとしたけど

寝過ごしで少しはよくなったけど、若干疲れもあったので今日はやめることにした。


「そろそろ試験勉強しなきゃ……って中間テストもそろそろだ!」


教習所の効果測定から学校のテストのことを思い出して

軽く頭を抱え込んだのはいうまでもない。


「……とりあえず録画した番組みないと」


ついでにさっきコピーした内容をノートに写そうと思い

ノート数冊と筆記用具を持ってリビングへ向かうことに。





「……全然進まないよー!」


リビングでテレビを見ながらノートに移す作業をしていたのは

いいけど、テレビから流れる登場人物の声にすぐに手がとまってしまい

気がつけばテレビの方に見入ってしまい、全く進んでいなかった。


「……何この意味不明な文字」


日本語にも英単語にも見えなくもない解読不明な文字が

ノートの所々に書かれていた。


「せめて音楽だけにしよう!」


リモコンでデジタル放送からネット動画サイトに切り替えて

作業に集中しそうな音楽集を選んでから続きをすることにした。


その甲斐もあってか、残りもあと1冊分のみ。

まだ音楽が鳴り止む様子もないので、このまま続けてやろうかと思ったが


ピンポーン


と、部屋に鳴り響くインターフォンの音で集中力が途切れてしまう


「もー! いいところだったのに!」


多少イライラしながらも立ち上がり、ドアホンの液晶を起動させる


「はーい! どちらさ……」


早く済ませようと思っていたが、ドアホンの液晶に映る来客者の

姿を見てその場で凍りついたように動けなくなっていた。


「なん……で……」


液晶に映っていたのは、二度と見ることはないと思っていた男




——元父親だった。


私は部屋が冷えたわけでもないのに体が震え、その場に座り込んでしまっていた。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は5/28(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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