65話


 「……私がいる」


現実ではありえない光景にこれはすぐに夢だと理解できた。

むしろ夢じゃなかったらどんな状況なんだか気になるところだけど……


目の前には時代劇にでてきそうな大きな屋敷。

その一室には黒い服に身を包んだ私とママ。


……そしてあの男とその母親。


ママは泣き崩れて座り込んでしまっていた。

にもかかわらず、あの母親は槍を刺すかのごとく冷酷な言葉を浴びせている。


――この時、傷ついたママに対して言葉で無慈悲な言葉を浴びせるあの母親に怒りを覚えていた。


でも、それよりももっと怒りを覚えたのは

傷ついていくママを見て助けもせず、その場に立っていた……


あの男だった。


――だから私はあの男に向かって叫んだ。


けど、私の叫びに対して返ってきたのは言葉ではなく私の頬を叩く痛々しい音だった。





「こんなところで寝ると風邪ひくぞ……」

「ふえ……!?」


先ほどまで写っていた屋敷から住んでいる家のリビングに

切り替わったことに驚いて変な声がでてしまった。


目の前にはスウェット姿の悠弥がいつもの呆れた表情で

私を見下ろしていた。


「あれ……私寝てたの?」


どうやらソファで横になった途端、寝てしまったようだ。

うー……髪の毛がボサボサかも


体を起こし、床に落ちていたスマホで自分の顔をみると

予想通り、髪のてっぺんが重力に逆らうがの如く天を突いていた。


明日は早く起きてなんとかしよう。

無理なら朝からシャワーを浴びるしかない。



時計を見ると短針が『10』を刺そうとしていた。

20時からのドラマをみていたから2時間近く寝ていたようだ。

テレビにはドラマの後の番組である報道番組が映し出されていた。


「ママとカズさんは?」

「夜中だとさ」

「そっか……」


一時的とはいえ、こっちに戻ってきても忙しいのは変わらないみたい。


「寝るなら部屋行きなよ」


ためいき混じりの声で悠弥はつけっぱなしだったテレビを消す。


「……それじゃ俺は部屋に行くから」


そう言って悠弥はリビングから出ていこうとしていた


「あ、悠弥!」


私が慌てて呼ぶと悠弥は足を止めてこちらを向いた。


「……なに?」


私は悠弥に向けるように両手を広げて


「だっこー」


と、自分でも思ってしまうほどの気の抜けた声で自分の意志を伝える。

悠弥はあからさまなため息を付きながら両手で私を抱き上げる。


「最近、お姫様だっこがうまくなったよね」

「……誰かさんのおかげでな」


照れ隠しからぶっきらぼうに答えているが

表情は隠すことができず若干赤くなっていた。


私はそれを見て静かに笑っていた。


……あの夢をみてからずっと体の震えが止まらなかったけど悠弥に抱きかかえられてからはピタっと止まっていた。


悠弥と一緒にいると安心できるからかな。

そう思いながら心の中でありがとうと告げる。


「……深愛姉」

「なーにー?」

「デザートの食いすぎだろ重くなったぞ……」

「もー! 思っても女の子にそんなこと言っちゃだめなんだよ!」


うん、前言撤回。




また、あの屋敷にいた。

さっきと同じように自分の視線の先には自分が写っていた。

また夢であることを認識した私はテレビでも見るような感覚でいた。

どうせさっきみたいにすぐに終わるだろうと……


夢の中の私は、1人で使うには広すぎる和室で

布団一式をたたんでいた。


――そうだ、たしか連休最終日にあの子を送るついでに泊まったんだっけ。


昔のことを思い出していく。

だけど、この後のことを思い出すと……


また、体が震えだしていた。



夢の中の私は片付けを終えると、部屋を出てすぐ隣の部屋を開ける。


――ダメ! そこを開けちゃ!!!!




そしてあたりの風景がまた変わり視線の先には自分の部屋が写っていた。

夢の中で叫んだのか覚えていないけど、心臓が走ったかのようにバコバコと激しく音を立てていた。


「……何で夢であの時のことがくるの!」


思わず声に出して叫びそうになるのをグッとこらえる。あたりは真っ暗だし、隣の部屋から悠弥の声もしなかったので流石に寝ているのだろう。


しばらくの間、何もせずにいたけど心臓の音が静かになったのでもう一度体を倒して再び寝ることにした。


「……嫌なこと起きなければいいんだけど」





「……おはよう」


いつも通りの時間に起きてハーブティーを飲みながらテレビを見ていると、半分寝ている状態の悠弥がリビングに入ってきた。


「おはよー なにか飲む?」

「……お茶で」

「うん、わかったよー」

「……いや、自分でやるからいい」


いつもの場所に座った悠弥がすぐに立ち上がり

自分のお茶を淹れていく。


「どうしたの?」

「……深愛姉、顔色が悪いぞ」


悠弥の指摘に思わず言葉をつまらせる。

あれからすぐに寝ようしたけど、また同じような夢を見るんじゃないかという恐怖感があって中々寝ることができなかった。


何とか元気なのを装っていれば平気だろうと思っていたけど、どうやら意味がなかったらしい。


「気のせいだよ」

「……ならいいけどな」


悠弥はホントかよって言いたそうな顔をしながら黙ってお茶を飲んでいた。

大丈夫、午前の授業全部寝れば回復するから!



「……行ってらっしゃい、無理はするなよ」


珍しく見送る悠弥はさきほどと同じ表情だった。


「真面目だな。 一日ぐらい休んでも平気だろ……」

「そんなことないよ! 1日無駄にしたら後が大変なんだよ?」

「……どうせ寝てるだけだろ?」


って何でわかるの!?


「悠弥じゃないんだから、そんなことしないよ!」


認めてしまうと姉と威厳がなくなりそうな気がしたので

いつものように勢いで怒って誤魔化すことに


「……はいはい、とにかく何かあったら連絡しろよ」


簡単に流された!?




無理しているせいか駅までの距離が長く感じる。

いつもなら10分で着くのが今日に限っては倍近くかかっていた。


駅に着くといつも乗っている電車が既に遠くへと走り出していた。

この次の電車でも間に合うけど、駅から猛ダッシュで走らないと間に合わない。

今日それをやったら冗談抜きで倒れそうな気がする。


この時点で遅刻が確定した。

悠弥なら『つんだ……』とか言ってそのまま家に帰りそうかもしれない

いつもなら怒るところだけど、今日に限っては賛同したい気持ちになっていた。


駅のホームで待っていると電車がきたのですぐに乗ると車内はほとんど人がいなかった。


「各駅だからそうだよね」


小さくつぶやきながら空いている席に座って一息つくと同時に目を閉じていった。


「少しだけなら大丈夫だよね……」


この油断が後に大惨事を発展するなんて思いもしなかった。



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【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は5/25(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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