53話


 「とてもお似合いですよ」


執事喫茶のスタッフ……

執事が今の俺の姿を見てお世辞なのか本当なのか理解できないぐらいの笑顔で答えていた。


「よかったら、鏡がございますのでご自身でもご確認頂いてはどうでしょうか?」


そういって執事は俺を鏡の前まで案内する。

鏡は170cmある俺よりも少し高いものでガラス部分には保護のためかクロスが被せられていた。


執事がかけられたクロスを外すと鏡には俺の全身が写っていた。

……執事が着る燕尾服身を包んだ俺の姿が。


どうしてこんなことなったのかと説明するとだ……


それは遡ること30分前。

俺と琴葉が注文した飲み物がなくなったので

そろそろ出ようかという流れになり

生産するためにレジに向かおうとしたところ


「そうだ、せっかくだし記念写真でも撮らないか?」


言い出したのはもちろん俺ではなく琴葉だ。


聞いたのはいいが俺の答え聞くつもりはないのか

テーブルにあったベルを鳴らし執事を呼ぶ。


「写真を撮ってくれるかしら?」


またもや令嬢風に話す琴葉

それに対して呼ばれた執事はというと……


「かしこまりました、お嬢様」


表情を崩さないまま応対していた。

こういうのをプロっていうんだろうな……



琴葉のスマホを使って数枚撮り、さてと帰ろうとしたところ


「お坊ちゃま、よろしいでしょうか?」


スマホを琴葉に返した執事が俺を見ていた。


「……どうかしましたか?」

「もし、よろしければこちらのスーツをお召しになられてはいかがでしょうか?」

「え?」


急なことだったため、俺は素っ頓狂な声をあげていた

目の前に立つ、執事がピシッと着ているのを見て自分に似合うなんて微塵にも思わなかったので、断ろうとしていた。


「そうだな、是非お願いしようか」


横から令嬢を装った琴葉が承諾していた。


「弟クン、何事も経験だぞ」


いや、絶対に面白がってるだろ……

笑いを堪えようとして若干、顔が引き攣ってるの見えてるからな



と、そんな経緯があり、俺は奥のスタッフルームに案内されて

燕尾服に着替える羽目になったわけである。


「それではお嬢様の元にもどりましょうか。 きっと驚かれますよ」


執事は曇りのない笑顔で俺に話しかけてくる。

……驚いてくれればいいんだけどな。




「おお……すごく似合っているじゃないか!」


琴葉の元に戻ると驚くと同時にスマホでシャッターを切っていた。


「第一声に馬子にも衣装と言おうと思っていたのにな、まったく」


琴葉は逐一文句を言いながらもいろんな角度で撮っていた。

しばらくして勝手に始まった写真撮影が終わったようなので

着替えようとしたが……


「では、最後に彼とのツーショットを頼む」


そう言って琴葉は執事に再度スマホを渡す。


「最高の一枚を頼むよ」


琴葉はソファに座るとすぐさま足を組み始める。

俺は琴葉の横に立って、先ほど執事がやっていたポーズを

見よう見まねでやっていた。


「では、お撮りいたします。 ハイチーズ」


執事はスマホのシャッターボタンをタップする。





「それでは行ってらっしゃいませ」


会計を済ませ、何度もお礼を言って店を出た。


「本当に退店する時、いってらっしゃいっていうんだな……」

「評判以上の店だったな、次回も行こうじゃないか」


琴葉はご満悦な表情のまま階段を降りていた。


「……行くなら1人行ってくれ」


逆に俺は不満であることを顔に出しながら階段を降りる。


ビルをでると連休最後なだけあって多くの人や車が駅の方へ

向かって歩いていた。

自分のスマホで時間を確認すると午後をとっくに過ぎていた。


「結構長くいたんだな……」

「楽しい時間はあっという間に過ぎていくんだな」


琴葉は俺の腕にしがみつきながら寂しそうな声をあげていた。




「今日はとても楽しかったよ、できることなら次もお願いしたいところだな」


駅の改札に着くと琴葉は俺の腕から離れ、改札の前に立って笑顔で俺の顔を見ていた。


「断る。 そんなに行きたければ彼氏でも作ってくれ」


俺はいつも通りため息をつくとすぐに琴葉の顔を見る。

どうせ不敵な笑みを浮かべているのだろうと思っていたが……


「そうだな、次からはそうさせてもらうよ」


と、これまでに見たことのない寂しそうな表情をしていた。

それを見た途端、ズキッと痛むような感覚がした。


「それじゃこれで失礼させてもらうよ、君も寄り道しないで帰るんだぞ」


そう言って琴葉は改札の奥へと進んでいった。


「……なんだよさっきの」


先ほどの琴葉の表情が頭から離れず、姿が見えなくなっても

俺はその場から動かず改札の奥をしばらく見つめていた。




「ただいま」


玄関を開けて中に入るとリビングの方から微かに声が聞こえていた。

どうやら深愛姉が帰ってきているようだ。


リビングに行くと深愛姉が体育座りでソファに座りテレビをつけたままスマホを見ていた。


「あ、おかえりー!」


俺の存在に気づくとスマホをソファに置いて俺の方をみていた。


「……スマホを見るかテレビを見るかどっちかにしなよ」


俺はため息をつきながらリモコンをとってテレビの電源を消す。


「だってー音がないと寂しいじゃん!」


深愛姉の反論にため息で返す。


「そういえば琴葉とのデートは楽しかったみたいだね」

「……何でそう思うんだよ」

「なんか2人仲良く写真とってるじゃん!」


そう言って深愛姉は自分のスマホの画面を俺に見せる


スマホの画面にはソファに腰掛けて足を組んでいる琴葉と燕尾服を着た俺が写っていた。


駅に向かう途中歩きながらスマホいじってると思ったら深愛姉に送ってたのか……


「琴葉も悠弥と遊べて楽しかったって言ってたよ」

「そりゃよかったことで……」


そう言って深愛姉はスマホに映る写真をずっと見ていた。


「いいなあー!私も執事姿の悠弥と一緒に撮りたいなぁ」

「……俺は嫌なんだけど」

「そうだ! 茂原さんに言ってみようか!」

「いやいや人の話を聞けよ……」

「えー!いいじゃん! 私が執事で悠弥がお嬢様の衣装で」

「ってか何で逆なんだよ……」

「そうかな? 悠弥なら似合うと思うんだけど?」


そう言って深愛姉は立ち上がってキッチンの方へ向かっていった。


「ハーブティ飲むけど、悠弥はコーヒー?」

「……コーヒーで」


ちなみにいつも飲むコーヒーが美味しく感じられなかったのは

言うまでもなかった。



「ホント、弟くんは面白いな」


改札で弟くんと別れた私こと松戸琴葉は

家に変えると誰もいないキッチンで市販のミルクティーを飲みながら撮った写真を眺めていた。


写真に映る弟クンは不機嫌なのを表情に出していた。

それもそうだろうな……

深愛っちを使って無理矢理呼び出したのだから


「ごめんよ、弟クン」


でも、どうしても今日やりたかったんだ……


『そんなに行きたければ彼氏でも作ってくれ』


ふと、頭の中で弟クンが別れ際に行った言葉が響いていた。


たしかにその通りだ。

私自身そうしたいさ……


私はスマホの写真アプリで古い写真を表示させる。


「私にとって永遠の彼氏はおまえだけさ」


スマホの画面には少し前の私

その隣には……


「大翔……」



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は4/13(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


などと少しでも思っていただけましたら、


【フォロー】や【★星評価】をしていただけますと大喜びします!


★ひとつでも、★★★みっつでも、

思った評価をいただけると嬉しいです!

最新話or目次下部の広告下にございますので、応援のほどよろしくお願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る