52話


 「やあ、待ったかい?」


連休最終日、本来であれば家でゲームでもしながら過ごそうと思っていたが、改札の奥で俺に向けて手を振るクソ女こと松戸琴葉のせいで台無しとなった。


俺は何も答えず、誰が見てもわかるぐらいの不機嫌の表情をいつもと違い地味な感じが抜けた服装をした目の前の女に見せていた。


「まったく、そこまであからさまに不機嫌な顔をしなくてもいいじゃないか」


スマホを使って自動改札機をタッチして改札を抜けた琴葉は俺が不機嫌なことを察したようで、不服そうな表情のまま俺に近づいてきた。


「弟クン大事な休みに呼び出したことは申し訳なく思ってるよ」


いつもなら俺のことなどお構いなしに自分のペースに巻き込もうとするのだが、今日に限ってはなんかしおらしく見えた。

……変なものでも食べたのか?


「……だから」


そう言うと琴葉は俺の腕を掴む。


「今日はこれまでよりも楽しい時間1日なることを約束しよう!」


先ほどのしおらしい表情か一変、表情が明るくなっていた。

……そう思うなら今すぐ俺を家に帰してほしいんだが。


俺がため息をついたのに気づいた琴葉は何を思ったのか、自分の胸元を見るとすぐに俺の方を向いた。


「男の子だからそういう風に思うのは致し方ないと思っているが、物足りないからってため息つかれると流石に私も傷つくんだ」


……何を勘違いしているんだこのクソ女。



「どうだい弟クン。 楽しみになってきただろう」


琴葉に引っ張られるように連れてこられた場所は

駅から離れた場所にあるビルの3階にある場所だった。

入り口には……


「執事喫茶 バトラーズカフェ……」


と書かれていた。


入り口を境にして中は別次元ではないかと思えるぐらい雰囲気や内装が違っていた。


「どうだい? 中を見ただけでワクワクしてこないかい?」

「……一つ聞きたいんだが?」

「どうしたんだい? あぁ、もちろん男性も入店して大丈夫だぞ」


いや、そんなことはどうでもいい……


「何で俺を連れてきたんだ……?」


俺の問いに琴葉の頭にクエスチョンマークが乗っかったような疑問だらけの表情をしていた。


「まったく君はホント、見た目はいいのに超が100個あってもたらないぐらい女心がわかっていないようだね」


そしてまた、俺の腕を掴むとニコッと笑顔になり


「君と来たかったからに決まってるじゃないか」


そして、俺の腕を引っ張りながら店の中に入っていく。




「おかえりなさいませ、お嬢様、お坊っちゃま」


店に入ると、真っ白のシャツに黒を基調とした燕尾服に身を包んだ男性スタッフ

……店の雰囲気に合わせるなら『執事』に声をかけれた。


どうやら事前に予約をしていたらしく、名前を告げるとスタッフ……もとい、執事に連れられて席に案内される。


案内された席には高級そうなテーブルとそれを挟むように置かれた高級感あふれるソファ。


先に座ったのは琴葉で、それに続いて琴葉の対面のソファに座る


店内はマンガや中世を舞台にした映画にでてきそうな宮殿や屋敷をイメージさせる作りになっている。

店内を流れるBGMも駅前にあるようなカフェとは違い、ヴァイオリンやピアノが主体となった重々しい曲が流れている。


「弟クン何か頼もうじゃないか」


琴葉はテーブルの上に置かれたメニューを開いていた。


「うん、私はこれにしよう。弟クンはどうするんだい?」

「……メニューも見てないのに決めれるわけないだろ」


俺の返答に「それもそうだな」と微笑みながら持っていたメニューを差し出してきた。


メニューを開くと全て写真付きで掲載されていた。


基本的にはカフェなのか、飲みのものに干支絵はコーヒーや紅茶などを主体となっていた。次のページにはサンドウィッチやパスタやサラダなどの軽食から本格的なフレンチコースまであった。

……頼む人いるのか?


「あぁ、フレンチコースを頼むとそれにあった席に案内されるそうだよ。お値段はお察し通りだが」


値段を見るとゼロが2つ多かった。

一端の高校生が頼める値段ではない。


「……コーヒーのブラックで」

「わかったよ」


琴葉はテーブルに置いてあった銀色のハンドベルをつまむように持ち、マンガやゲームに出てきそうな令嬢が執事を呼ぶ時のしぐさをする。

チリンチリンと金属同士がぶつかり合った音が鳴り響く。


「およびでしょうか」


店の奥から先ほど案内してくれた執事がやってきた。


「オリジナルハーブティと特製コーヒーをお願い」


店の雰囲気に合わせたのか、令嬢を思わせるような口調で注文する琴葉。


普通の店なら笑いを堪えるところだが、目の前に立つ執事はそのようなそぶりを見せることなく。


「かしこまりました」


と、白い手袋をつけた両手をお腹の辺りで組むと背筋を伸ばしながら深く上半身を曲げてお辞儀をしていった。


「……さすが執事喫茶でも上位を争うところだ。何からなにまで徹底しているな」


琴葉は自分の顎に手を置きながら去っていく執事をマジマジとみていた。




「オリジナルハーブティと特製コーヒーでございます」


しばらくして注文したものが運ばれてきた。


「うむ、ご苦労」


執事が来ると急いで足を組み始め、先ほどと同じように令嬢風に返す琴葉。


執事は俺と琴葉の前に注文した飲み物をテーブルに置く。


「それでは、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」


注文したときと同じようにお辞儀をして戻っていった。


「……何で足を組んだんだ?」

「その方が執事がいる令嬢っぽくみえるだろう?」


割とどうでもいい答えだった。

何も返事をすることなく注文したコーヒーに口をつける。


何だこのうまさ……

いつも飲んでるカプセル型のコーヒーとは比べ物にならないぐらいの美味しさだった。


ほどよい酸味に加えて少しフルーティーな感じがあり熱くなければ一気に飲んでしまいそうだった。


「どうしたんだい、急に黙ったりして」


琴葉は持っていたカップをソーサーの上に置き、不敵に笑いだした。


「さては弟クン、私の令嬢っぷりに惚れたのかな?」


俺は琴葉に聞こえるぐらい大きい声でため息をつき

持っていたカップをテーブルの上にあるソーサーに置き、呆れた表情で琴葉を見る。


「それは絶対にない」


俺が何をいうのか予測ができていたのか琴葉は驚くこともなく自分のカップを持ち……


「たまには嘘でもいいから私が喜ぶことをいってもらいたいものだな」


カップに浮かぶ紅茶に口をつけていった。



「時に弟クン」

「……何です?」

「来週末に君と私にとって重大なイベントがあるんだが知っているかい?」


何だイベントって……

この女のことだどうせ、『私の愛するタイガきゅんの大事なイベントだ』とかだろう。


「……タイガきゅんとのイベントなら1人で行ってくれ」

「あぁ……その様子じゃ気づいていないようだね」


琴葉は今にも『まったく君というやつは』言いたそうな表情で俺の顔を見る。


「……で、何があるんだ?」

「深愛っちの誕生日だよ」


答えると琴葉はため息をついていた。


「まったく、義理とはいえ家族なんだからそれぐらい知らないでどうする」

「すみませんね、学がないもんで」


俺が不貞腐れたように答えると琴葉はフフッと笑っていた。


「でもまあこれで知ったんだから、祝ってやることはできるだろ? 君のことだ深愛っちに世話になってばかりじゃないのかい?」


いやむしろ、逆なんだが……

思わず口から出そうになったがグッとこらえて

コーヒーに飲む。


それにしても深愛姉の誕生日か

どうすればいいんだかな……


「お、どうしようか考えているようだね」

「……義理とはいえ家族であり姉なので」


俺の答えが面白く感じたのか琴葉はカップとソーサーを手に取りほほえんでいた。


……なんか腹立つな。



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は4/9(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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