51話


 「それじゃ、行ってくるね!」

「……行ってらっしゃい」


5月の連休もこの週末で終わりを迎える。

そんな日に俺は何をしているのかといえば


……いつも通り深愛姉の教習所の送り迎えだ

週明けから学校だから今日は頑張ると張り切り、朝8時半から開始する1限の講義に出るため、寝不足気味の俺を叩き起こした。

ちなみに明日は撮影があるから行けないらしい。


深愛姉を教習所に送ってからは帰ろうか悩んだが

半分寝ている状態で昼を一緒に食べる約束をしてしまい

以前のようにギリギリで動くのが億劫だったため、仕方なく食堂で勉強している生徒を横目に寝ていた。


昼は毎度のごとく、目の前のファミレス。

……胃の許容範囲をギリギリまで攻めたのは言うまでもない。


そして深愛姉を教習所まで見送ったところで、ようやく俺の自由時間ができたというわけだ。


「……とりあえず行くか」


ヘルメットをかぶり、バイクのエンジンをかけて発進させた。


向かった先は隣の市にあるバイク専門店。

バイクのオイル交換時期になっていたので昨日の夜

慌てて予約を入れたのである。


店に入り、受付で自分の名前と予約した時間を告げる


「では、お手数ですがこの注文書を持ってPITまでバイクをお持ちいただいてもよろしいでしょうか?」


俺は受付の人から注文書を受け取り、外の駐車場に止めたバイクを持って店の裏手にあるPITへ持っていく。

PITの入り口で待っていたスタッフにバイクを預けると

店内の休憩スペースでコーヒーを買って待つことにした。



「佐倉様お待たせいたしました。 オイル交換完了いたしました! オイルの量確認お願いできますでしょうか?」


店内放送で自分のバイクのオイル交換が終わったことを知り、すぐにPITに向かうと大きな声でハキハキと話すスタッフが立っていた。


「……わ、わかりました」


圧倒されながらも、オイルタンクのメーターを見て

規定の量入っているのを確認して、大丈夫だとスタッフに告げる


「ありがとうございました! それではこちらにサインをお願いいたします!」


受領書をサインをして、控えを受け取るとバイクのエンジンをかけて

バイク専門店を後にした。


「……オイル交換したせいかスピードが出やすいな」





現在はもうすぐ夕方になろうとしている時間帯

春もぼちぼち終わりに向かい夏が近づいているせいか空は青空が広がっていた。


コンビニの駐車場にバイクをとめてスマホを見ると

画面にはLIMEの通知が表示されていた。

宛先は深愛姉。


Mio Sakura

『教官におこられたー! つらたん……』


おそらく休憩中なんだろう。


『がんばれ』


一言だけ送り、スマホをしまおうとすると

スマホが震え出した。


Mio Sakura

『頑張るからプリン買っといてー!』


……昨日も似たような理由つけてアイス食べてたよな?


『太るぞ』


と淡々と返すとまたスマホが震え出した。

もちろん深愛姉からだ。


Mio Sakura

『もー! 最近気にしてることいわないでー!』


これで返すとキリがないので、何も返信せずにスマホを

ズボンのポケットにしまい、バイクを発進させた。


「……後で買っておいてやるか」


ため息をつきながら自分でも感じることがあった。


……深愛姉に甘いなと。




次に向かったのは駅前のショッピングモール。

着く頃には先ほどの青空に赤みがかかっていた。


地下駐車場にバイクを停めてから向かったのはモール内にある家電量販店。

気になるゲームがあったので値段次第では買おうか悩んでいた。

エスカレーターで家電量販店がある場所に行き、ゲームコーナで

目的の品物を探すが、『完売御礼』と書かれた札がかけられていた。


俺はため息をつきながらも、近くにいた店員に次の入荷予定を聞くが

人気がありすぎていつ入るかも未定であると言われてしまった。


店員に礼を言って、店からでる。


「……仕方ない、本屋でも行くか」

たしか読んでいる漫画の新刊がでていたはずだ


そう思い、店の反対側にあるエスカレータを目指して歩いて行った。




ちなみにこの階の下りエスカレーターの手前には女性向けアニメの専門店があり、その付近では男性声優によるキャラソンが流れている。

男性声優のファンだったり、女性向けアニメやゲームが好きな人にとって

聖地となりうる場所かもしれない。

そういえば前にこの場所に連れてこられたな……とそんなに遠くない記憶が蘇っていた。


……何でいまそんなことを話をしているのかというとだ

俺の目の前に連れてきた本人が目の前にいる。


下りエスカレーターで俺の目の前で先ほどのショップで買った商品を見て微笑んでいるクソ女こと松戸琴葉が。


幸い(?)なことに商品に夢中になっているため

俺の存在には気づいていないようだった。


俺はスマホをとりだし、下を剥きながら画面を見ているフリをする。

エスカレーターの出口が見えてきたのでスマホをしまいながら顔を上げると琴葉の姿がなくなっていた。


早く愛しのタイガきゅんと会いたいからと言って

急いでエスカレーターを降りて行ったんだろう。

そう思いながらエスカレーターを降り、何故か一息つく


そして清々しい気持ちで目的の本屋に向かおうとすると


「やあ、弟クンこんなところで会うなんて奇遇だね」

「うわっ!?」


後ろから声をかけられて驚きの声をあげてしまう。

すぐに後ろに向かうと白のワンピースに紺のカーディガン姿の琴葉が

立っていた。


「ふふふ、まさか私が弟クンの存在に気づいてなかったとでも?」


琴葉はメガネを人差し指でクイっとあげる。

……もしかして俺、煽られてるのか?


「まあ、そんな瑣末はことはどうでもいいんだが」


そう言って琴葉は持っていたグッズを肩にかけているカバンにしまうと俺に顔を近づける。


「ここで会ったのも何かの縁だしよかったらデートにしゃれこまないか?」

「お断りします」

「相変わらず迷いもなく断るね。さすがの私も女としての自信がなくなってくるぞ?」


俺が知ることか……と、出そうになる気持ちをぐっと抑える。


「……この後、深愛姉を迎えに行かなきゃいけないので」


スマホで時間をみるとそろそろ行かなければならない時間だった。


「そっか深愛っち、今日は教習所か」


そう言って琴葉は腕を組んでうーんと唸り出していた。


「さすがに深愛っちに迷惑をかけるわけにはいかないか……」

「ということですので、ここで失礼します」


さすがにこれ以上ここにいると深愛姉の迎えが遅れそうだったので

早々に立ち去ることにした。


その場から立ち去る悠弥の背中を見ながら琴葉はカバンからスマホを

取り出し、画面を見ていた。


「しょうがない、今回も深愛っちの許可をもらうとするかな」




教習所の駐輪場にバイクを停めると同時に本日の授業が終わったことを

知らせるチャイムが鳴り響いていた。


「……あぶな」


バイクのエンジンを切って深愛姉にLIMEでメッセージを送る

さすがに閉めようとしているのに校内に入ろうとしたらおそらくというか

確実に教官に怒られると思ったからだ。


「あ、いたいたー!」


メッセージを送るとすぐに深愛姉が駐車場になってきた。

丸一日やっていたせいか、顔が疲れていた。


「……おつかれ、なんか疲れてるな」

「さすがに1日ずっとは疲れたかも……明日の撮影大丈夫かな」


俺はバイクのリアボックスを開けて中にある袋を深愛姉に見せた


「え、うそプリン!」

深愛姉が最近御用達になっている『和風黒胡麻プリン』を見ると

さっきの疲れた表情がどこかに吹き飛んだかのごとく笑顔になっていた。


「……今食べていい?」

「帰ってからにしてくれ、あと夕飯食べてからな……」


俺は呆れながらもリアボックスを閉める


「むー! それなら早く帰ってすぐご飯にしよう!」


深愛姉はヘルメットをかぶると、急かすようにシートを

バンバンと叩き始めた。


俺は盛大なため息をつきながらヘルメットをかぶり、シートに座ると

深愛姉もすぐにシートに座った。





「深愛姉、リアボックスのプリン持って行って」

「うんわかったー!」


家の前にバイクを停めて、先に深愛姉を下ろす。

言われた通りリアボックスを開けて中に入っているプリンが入った袋をとっていた。


「……夕飯前に食べるなよ」

「もー! 子供じゃないんだからわかってるよー!」


深愛姉は頬を膨らませて反論する。


バイクを駐車場に停めて厳重にロックをかけてから家の中に入り、

玄関の収納庫にヘルメットをしまってからリビングに行くと深愛姉が俺の元に駆け寄ってきた。


「さっき琴葉からLIMEがきたんだけど」

「……何? さっき会ったけどその話」

「それもそうだけど、明日悠弥とデートしたいって言うからオッケーって返しておいたよ」

「は!?」


そう言って深愛姉は自分のスマホを俺に見せる。


KO★TO☆HA

『明日弟クンとデートしてもいいかな?』


Mio Sakura

『うんいいよー、どうせ明日はヒッキーになってると思うし!』


「……って何で承諾してんだよ!?」

「いいじゃん! どうせ明日は家にこもってゲームばっかでしょ!」

「連休最終日だからゆっくりするんだよ!」

「かわいい女の子と一緒にいたら疲れ吹っ飛ぶよー」

「……誰が『かわいい女の子?』」

「え? 琴葉のことだよ?」


深愛姉が不思議そうな顔で答えていた。

迷いのない表情をされて俺は返す言葉を失う。


「ちなみに明日行かなかったら夕飯は悠弥の大嫌いなピーマンづくしにするからねー」

「いくら何でも横暴だろ……」


こうして俺の大切な休みの日がサラサラという静かな音を立てて

消え去ろうとしていた。



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は4/6(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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