50話
「さくらぁぁぁぁぁぁ!」
俺の部屋のドアを勢いよく開けるのはセリフからも分かる通り
習志野だ。
……こいつといい深愛姉といいギャルにはノックをしてからドアを開けるように育てられてないのか。
キーボードで離席する旨を打ち込むとヘッドフォンを外し
椅子を回して声の主の方を向く。
習志野は胸の辺りに先ほどテレビの前で応援していた球団のロゴが入っているジャージを着ていた。
「……深愛姉と風呂入ってたんじゃないのか?」
「もちろん入ってたけど! ってかさあ!?」
習志野は食い気味に俺の顔を見始める。
「何あの深愛さんのスタイル!? 出てるところは出てるし! それなのにキチンとしまっているし!」
「……そんなこと俺に言われても」
「佐倉よくあんなお姉さんがいて平常心保てるよね! 私が男だったら毎晩夜に部屋に潜り込んでるかもしれない!」
……どうやら深愛姉と一緒に風呂に入ったのが興奮冷め止まぬようで
この後も深愛姉の外見やスタイル、習志野本人が思ったことや衝動的に何かしそうになったことなど一方的に話し出していた。
「私、今日のことは絶対に忘れない!」
話が終わると両手を組み、目をつぶって天井を仰ぎ始めた
「……要件済んだらさっさと戻れ」
俺の言葉に反応した習志野はぶすっとした表情で俺を睨む。
「せっかく深愛さんの素晴らしさを共有してあげたってのに」
「……ただお前が言いたかっただけだろ」
そう言って俺が椅子をPCのある方へ戻すと、習志野は「深愛さんのところもどろー」と独り言を言って部屋を出ていった。
「あ、そうだ」
すぐにドアの前に戻り
「深愛さんからの伝言忘れてた、すぐにお風呂入れってさ」
深愛姉からの言付けを俺に伝えると階段を降りてった。
風呂からでて飲み物を取りにリビングに行くと部屋が暗闇に包まれていた。
「うひゃあああああああ!?」
「うわっ!?」
突如鳴り響いた銃声と叫び声に驚き持っていたコップを落としてしまう。
……タンプラーだから割れることもなかったが
声がしたのはテレビがある方で、そちらに視線を向けると
「……何やってんだ?」
ソファで深愛姉と習志野が一枚の毛布に包まれながら体を寄せ合っていた。
「こ、これ見てるの!」
震えながら答える深愛姉
俺は覗き込むようにテレビを見ると……
「……なんでこれを見ているんだ?」
2人が見ていたのはいつぞやの動画サブスクで深愛姉が見ていた
ホラー映画だった。
ちなみに今、画面では化け物に向けて銃を乱射した男性が無惨にも
食べられてしまっていた。
「み、みみみ深愛さん! 食べられちゃったっス!」
深愛姉の隣で習志野は目元以外を毛布で包み、体を震わせながら見ていた。
「ちなみにこれ2作品目なんだって!」
深愛姉も震えながら話していく。
うわ……いま化け物が人の腕らしきものを吐き捨てたぞ
そもそもこんな映画の続編が作られるほど人気があったのか……
「今回のキャッチフレーズは大人も子供もお姉さんも怖くても最後まで泣くんじゃないって書いてあったよ」
こんなん見せられたら老若男女誰もが泣くに決まってるだろ……
「そ、そうだ! 佐倉も一緒にみようぜ! い、今だったら私と深愛さんの間に入る権利を——」
「う、うん! 大丈夫だよ、前作に比べたそんなに怖くないよー!」
深愛姉が横でフォローを入れるが、画面では人間を口に入れた化け物が
咀嚼しているシーンが流れている。
「——結構だ」
「「えー!」」
深愛姉と習志野が仲良く声を上げていた。
その間に挟まれたらロクな目に合わないだろ
と、言うよりも自ら好んで食欲を減退させなければならないんだ
「俺にはゲームが待ってるから、2人で仲良くどうぞ」
俺はそう言ってキッチンの灯りをつけて、お茶をタンブラーに注ぎ
灯りを消してリビングから出た。
「きゃあああああああああ!」
「うぎゃああああああ!」
「ナギちゃん!絶対に離れないでね!」
「は、はいっス! 深愛さんを置いて逃げるなんてしないっス!」
2人のやりとりが2階まで聞こえていた。
「……ま、2人が楽しそうならいいか」
俺は部屋に入ると静かに自分の部屋のドアを閉めた。
「やっと武器の強化が終わったか……相変わらず神経使うな」
昨日のアップデートで追加された武器を手に入れることに成功し
成功したり失敗したり波がありすぎる武器強化を終え、一息をつく。
スマホで時間を確認すると既に日を跨いでおり、良い子も悪い子も
寝ててもおかしくない時間になっていた。
大型連休もあとわずか。
休みに入ってから自堕落が過ぎていたのでそろそろ体内時計を
元に戻さなければ……
「早いけど今日は寝るか……」
PCの画面に映っている理人のキャラに寝ると伝えて
すぐにログアウトをし、PCの電源をきる。
ヘッドフォンを外し、ベッドに行こうと思っていたが……
「……なんで?」
ベッドには先客がいた。
「ふぇ?」
俺が声をかけると深愛姉が布団の中に入り、いつもの寝ぼけた声を出していた。
「習志野と一緒に寝たんじゃないのかよ……」
ゲームで曲が止まった際に2人揃って泣きそうな声をあげながら
階段を上がるところから深愛姉の部屋に行くのが聞こえていた。
それから声がしなくなったので、すぐに寝たのかと思っていた。
「一緒にねたよー……布団に入ったらナギちゃん、すぐ寝ちゃったー」
「だったら深愛姉も寝ればいいだろ……」
「寝たいのに、天井見たらさっきの化け物がいて寝れなかったんだよー」
「……あんなのが存在したらこの世は終わりだ」
深愛姉が言うのは天井のシミだったり、今日は満月で月明かりが照らしているから光の屈折とか色々あってうまい具合に交差して似たような影がで
きたんだろう。
「だから、今日は悠弥とねるー」
深愛姉は布団を捲るとポンポンと音を立ててマットを叩く。
ってか半分寝かけているせいかいつもの幼児退行してるし
「……部屋までついて行ってやるから部屋で寝てくれ」
「やーだぁー!」
相変わらずの子供っぷりである。
どうせこれ以上言ってもいつも通り俺が言いくるめられるだけだろうと
頭を抱えながら諦めることに。
「まったく……習志野には絶対に話すなよ」
アイツのことだ……
『なんで佐倉と一緒に寝てるんスか! 私じゃ満足できないっスか!』
とか脳の奥底が痛み出すようなことを言いかねない……。
「うん、大丈夫だよー」
……だといいけど。
俺は部屋の電気を消して深愛姉がめくった布団の中に入る。
「えへへー」
すぐに深愛姉は俺の腕にしがみつくように掴んできた。
そして本人も気づいていないが、腕には柔軟性のあるものが押しつけられていた。
「はぁ……」
確実に本人は無意識でやっているんだろうなとため息をつく。
「ゆうや……おやす……」
挨拶を言い切る前に深愛姉は夢の世界へと旅立っていく。
少しすると気持ちよさそうな寝息の音が聞こえていた。
「……俺も寝るか」
誰に言ったわけでもなく独り呟くとそのまま目をつぶった。
窓から差し込まれた太陽光が俺の顔に直撃したことで
俺は目を覚ました。
陽が当たって目が覚めることは良いことだと朝のニュース番組で
言っていたような気がするが、直撃はどうなんだと思いながら布団を捲り体を起こした。
隣を見るがそこには深愛姉の姿はなかった。
どうやらもう起きているようだ……
「深愛さんおはようございますっス!」
「ナギちゃん、おはよう! よく眠れた?」
「深愛さんの布団ふかふかで爆睡できたっス!」
「それはよかった!」
部屋のドアを開けると2人の会話が聞こえていた。
「それにしても深愛さん、夜中にどこかいったっスか?」
「なんで?」
「気のせいだとおもうっスけど、横に深愛さんがいた感覚がなかったっス」
「気のせいだよ、ナギちゃんの可愛い寝息聞こえてたし」
「ままままま! まじっスか!」
どうやら深愛姉はうまく誤魔化したようだ。
とりあえず俺は大きく口をあけてあくびをしながら
階段を降りて洗面所に向かって行った。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回は4/2(土)に投稿予定です
お楽しみに!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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