54話


 『来週末に君と私にとって重大なイベントがあるんだが知っているかい?』


連休最終日にクソ女こと松戸琴葉が話していた。


『深愛っちの誕生日だよ』


深愛姉の誕生日。

義理とは言え、姉であるわけだし。


……唯香さんの件では、それなりに迷惑や元気づけられたりしてくれたので気持ちとしてはお礼をしたいところなのはやまやまなんだが


「……って何を渡せばいいんだ」


今日の授業が終わり、いつでも帰れる状態ではあるがプレゼントの件で頭がいっぱいになり、脳が動くよりも悩む方を最優先させていた。


「もしかしてまだ決まってないの?」


どうやら自分でも気づかないうちに声にでていたのか隣の席でスマホを見ていた習志野の耳に俺の悲痛の思いが入ったようだ。


「マジで? 深愛さんの誕生日って明日じゃないの?」


習志野の呆れたと言わんばかりに追い討ちをかけてきた。


琴葉から聞いたのが連休最終日。

そんでもって今日は金曜日。

深愛姉の誕生日は明日。


……充分に時間はあったはずなのに

全くと言っていいほど決まっていなかった。


「ってかお前は決まったのか?」

「もちろんに決まってるじゃん! 佐倉から聞いたその日に買って当日に郵送で着くように手配済みだよ」


習志野は興奮気味な様子で話していた。


「何で郵送なんだよ……」

「しょうがないだろ、明日家の用事があって行けないんだよ」


習志野はすぐに悔しそうな表情をする


「もっと早くわかってれば近所の草野球の助っ人になんかならなかったのに!」


どうやら連休中にそのような約束をしてしまったらしい。


「って私のことはいいんだよ、今日中にみつけなきゃダメじゃね?」

「そのぐらいわかってるよ……」


俺は机に突っ伏しながら半自棄気味に答える。


「でもそこまで悩むことはないんじゃね? 深愛さんのことだから佐倉が渡すものならある程度は喜んでくれると思うけど?」


習志野の言うことは間違っていない。

おそらく近くのコンビニに売ってるショートケーキでも大喜びで受け取って食べてくれるだろう。


……何気ない普段の日ならそれでも構わないが

さすがにお祝い事に関していつもと同じようにするのは個人的に納得ができなかった。


……考えすぎとか見栄のはりすぎとか言われそうな気がするが


「あ、そういえば駅前のモールでセールやってるって女子連中が言ってたな。 もしかしたら何か見つかるんじゃね?」


習志野はスマホでショッピングモールのホームページの画面を俺に見せてきた。


画面には『連休疲れを吹っ飛ばせ!週末ビッグセール!』とページの上部に大きく見出しが書かれていた。


「……アテもないし行ってみるか」


俺はすぐに立ち上がってカバンを持ち、習志野に軽く礼を言って

教室を出ていった。


……何か見つかればいいんだけど。





「……マジ何がいいんだよ!?」


駅前のショッピングモールは地下1階から5階まで老若男女、どの世代に合うような店が入っている。

TVCMでも『他の店でないものはここにくればみつかる!』と言っているほど。

言われてみれば、俺がよく買う本やゲームに関しては他の店でなかったものがここにきたら見つかったなんてことは少なからずあった。


……だが、今回に限って言えば見つからない。

それもそのはず、何を買うのか決まっていないのだから。


これだけお店があるんだしウインドショッピングをする感じでブラブラ見て行けば見つかるだろうと軽く見ていたが、商品をみれば見るほど、どれも良すぎて余計悩んでしまっていた。


おそらく食品売り場がメインの地下1階を除き、他の階を何度を行き来しているうちに疲れがドッと押し寄せてきたため、休憩を兼ねてフードコートでコーヒーを飲みながら休んでいるところだ。


「マジでどうするか……」


スマホで色々検索をしながらストローでコーヒーを吸い込もうとするが

カップからズズズとコーヒーが底をついた音が聞こえてきた。


「……とりあえず今日は帰るか」


帰ってPCで調べて明日の朝バイクで他のショッピングモールを見て回れば夜には間に合うだろう。


席を立ち上がり、ふと窓を介して外の方に視線を向ける。


「深愛姉……?」


窓の外でスマホを耳にあてながら深愛姉が歩いていた。

俺はゴミ箱にカップを捨て、急いで外に出た。


モールの中に長い間いたせいか、外にでると日が沈みかけておりあたりは暗くなろうとしていた。


外にでてから深愛姉が歩いていった方を見ると、かなり遠くの方でその姿を見かけた。

……ってか歩くの早くないか?

俺は早足でその後を追いかけていった。



深愛姉が立っていたのはショッピングモールから少し離れた場所にあるゲームセンターだった。

店の中には入らず、外から窓越しに中を見ているように感じた。


「……何見ているんだ?」

「ふぇ!?」


俺は隣に立つとすぐに声をかける。

深愛姉は店の中を見ることに専念していたのか、俺がいることに全く気づかなかったのか、滅多にあげることのない驚きの声をあげていた。


「ゆ、悠弥じゃん! もう驚かさないでよ!」

「普通に声かけただけだろ……ってか何やってんだここで」

「あれ見てたんだよ!」


そう言って深愛姉は店の中を指差す。

その先にあったのはUFOキャッチャー。


「……かずえさんか」


その中には深愛姉がウイッチでやっている島開拓ゲームのナビゲーションキャラのぬいぐるみが入っていた。

そういえばプレイ中にこのキャラが可愛いとよく言っていたことを思い出す。


「そう言えばこれプライズ限定とか言ってたな……」

「プライズって?」

「わかりやすく言うとこのゲーセンにあるUFOキャッチャー限定ってこと」

「そうなんだー」


島開拓ゲームの制作会社であるセイテンドーとゲーム制作もゲーセンも運営も行うスガ・エンタープライズの共同制作であることをよく見るゲームの情報サイトに書いてあったな。


「……これ欲しいの?」

「欲しい! でも難しいんじゃない? さっきもやってた人がいたけど落ちそうもなかったよ」


深愛姉は心配する声をあげていたが、顔を見るとすぐにでも欲しいと言いたそうな顔をしていた。


……こういうのを誕生日プレゼントにするのは

なんか気が引けるが、本人が喜ぶならいいのだろう。


俺はかずえさんのぬいぐるみがあるUFOキャッチャーの前に立ち直前で落ちかけているぬいぐるみを見る。


ぬいぐるみの半分以上が最後のポールの下にあるが

髪についているリボンがいい具合にポールに引っ掛かっていって落ちなくなっているようだ。


「とれそう?」


いつの間にか深愛姉は俺の横に立って筐体の中にある目当てのぬいぐるみを見ていた。


「何度かやれば行けるとは思うけどな……」


サイフから100円を取り出して投入口に入れる

ぬいぐるみを掴むアームが動かせるのは奥と左が1回ずつ押している間に動くタイプのようだ。


最初に奥のアームを軽く押して次に左に動かして

アームの左側がぬいぐるみの真上に来るようにする


「あれ? それじゃ掴めないよね?」

「ここまできたら掴む必要ないからな」

「どういうこと??」

「見てればわかるよ」


アームがそのまま垂直に下がっていき、左のアームがぬいぐるみに触れて押し込むような形になっていく。


……少しぬいぐるみが下に動いた気がするが落ちることはなくアームが元の場所に戻っていく


1回で取れるとは思ってはいなかったのですぐに追加で100円を投入して

先ほどと同じようにぬいぐるみを押し込むようにアームを移動させる


「……くそ、ずれたか」


先ほどと同じ場所にアームを持ってきたつもりだが

若干ずれていたらしく、ぬいぐるみに触れることなくアームは虚空を掴んでいた。


そろそろ取りたいところ……そんな風に思いながら

次の100円を投入口に押し込んでいった。



「もしもしー?」


俺がアームの位置の調整をしていると隣に立っていた

深愛姉が自分のスマホを耳に当てながら外へと歩いていく。


再度アームが虚空を掴むのと同時に深愛姉は戻ってくると……


「なんか友達が来てくれって言うから行ってくるね」


俺は次の100円を押し込み、筐体の中を睨みながら返事をする


「無理してとらなくてもいいからね!」


そう言うと深愛姉はゲームセンターから出ていった。


「ここまできたら後には引けないんだけどな……」






「おめでとうございます!」


俺が手に入れたことを見ていたスタッフがぬいぐるみを店の袋にいれていく。

結局手に入れるのに1000円近く使っていた。

普通で買ったらこれ以上すると思うから安く済んだほうだと、自分を無理矢理納得させていた。


「他のも是非挑戦してみてくださいね!」


俺はスタッフから袋を受け取ると礼を言って外にでた。


外はもうすっかり暗くなっていた。

ただ、週末のためか人通りはゲームセンターに入る前よりも増えているような気がする。


俺は駅に向かっていく人たちとは逆の方向、つまりは家の方に歩いていった。



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は4/16(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


などと少しでも思っていただけましたら、


【フォロー】や【★星評価】をしていただけますと大喜びします!


★ひとつでも、★★★みっつでも、

思った評価をいただけると嬉しいです!

最新話or目次下部の広告下にございますので、応援のほどよろしくお願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る