48話


 「準備おっけー! それじゃしゅっぱーつ!」


5月の連休も半分が過ぎようとしている最中

深愛姉はヘルメットをかぶると軽快にバイクの座席に跨り

俺の背中に全体重を乗っけながら元気よく声をあげていた。


「……いくよ」


俺は出そうになった欠伸を堪えながらローギアにいれて

バイクを発進させた。


向かう場所は深愛姉の通う教習所。

……毎度のように深愛姉の押しに負けた結果である。




「……はい、到着」


教習所の駐輪場にバイクを停め、エンジンをきると深愛姉がバイクから降りてヘルメットを外す。


「ボサボサになってないかな?」


そう言ってスマホを取り出して自分の顔を確認する


「……教習所なんだから気にしなくても大丈夫だろ」

「もー! そういう問題じゃないの! 悠弥は女の子をわかってないんだから!」


深愛姉は顔を膨らませていた。


「……わからなくて結構だ。それよりも早く席につかないと遅刻扱いになるぞ」

「あ、ホントだ! それじゃ行ってくるねー!」


深愛姉はスマホをカバンにしまい、教習所の中に入っていく。


「……帰ってもう一眠りするか」


バイクのエンジンをかけようとした時、ズボンのポケットに押し込んだ

スマホが微かに揺れた。


スマホの画面にはLIMEの通知が表示されていたので確認すると

送信者は深愛姉だった。


「忘れ物か……?」


画面をタップすると……


Mio Sakura

『今日、お昼一緒に食べようよー』


そういや今日は午後もあるとか言っていたことを思い出し

作る手間も省けるからいいかと思い


『いいよ』


と返信するとすぐに


Mio Sakura

『お昼になったらすぐにいくから食堂でまっててー』


相変わらずの返信の速さなことで……


適当にスタンプを返すとスマホをしまい今度こそ

バイクのエンジンをかけて家に向かって発進させた。





「……危なかった」


先ほどと同じように教習所の駐輪場にバイクを停めた。

一度帰ってからすぐに寝て起きたら講義が終わる15分前だったので

慌てて教習所まで飛ばしてきた。


教習所の中に入ると同時にチャイムが鳴り出したので

急いで階段を上がり食堂に向かおうとしたが……


「あれ悠弥?」


後ろから声をかけられたので振り向くと深愛姉がちょうど講義室から

出てきたところだった。

……なんとか間に合ったようだ。


「もしかして家に帰ってたの?」

「さすがに何時間も授業もでないで食堂にいるのはマズイだろ……」


朝早く叩き起こされてここで待ってるなんてどんな拷問だよ……


「それじゃ行こっか!」


深愛姉は俺の腕を組み、引っ張るように階段を降りていく


「危ないからひっぱるな!」






「カルボナーラと食後にティラミスとパンナコッタのセットで!」


深愛姉に引っ張られるように来たのは教習所の目の前にあるイタリアン系のファミレス。


深愛姉は相変わらずデザート中心のメニューを頼んでいた。


「ミックスハンバーグセットで」


俺も食べたいものを注文するとスタッフは注文を繰り返してから

厨房の方に戻っていった。


深愛姉はカバンの中から教本をテーブルの上で開いていた。

教本にはマーカーペンで塗られている箇所があった。


「で、どうなんだ?ちゃんと話聞いてる?」

「学校の授業と同じだって言ってたのに寝てたら怒られた!」

「……そりゃ学校でも同じだろ」

「そう? よく寝てるけど何も言われないよ?」

「うそだろ……」


深愛姉が行ってる高校ってたしかそれなりに偏差値高いはずだけどな

少なくとも俺が行っている高校よりは……。


「悠弥だって講義中寝たことあるでしょ?」

「あるわけないだろ……」

「えー! 絶対にうそだー!」


深愛姉は目を細めて俺の顔を見る。

どうみても信用していないっていう表情だ。


「ホントだ。 その代わり学校の授業中に寝ていたけどな」


俺は自信たっぷりに答えるが、深愛姉の表情は変わらずだった


「おまたせしました、カルボナーラとミックスハンバーグセットになります」


スタッフが頼んだものを持ってきたので、深愛姉は教本をカバンにしまう。


「午後は実習だからたくさん食べないとね!」

「そうだな」

言った通りたくさん食べてくれるとありがたいんだけど……



「ごちそうさまでした!」


深愛姉はティラミスを飲み込むと、両手を合わせて昼食を終える


「……ごちそうさまでした」


俺も一緒に手をあわせる。


「悠弥、大丈夫?」

「……当分の間何も食べたくなくても大丈夫なぐらい平気だ」


自分が頼んだミックスハンバーグセットにプラスして深愛姉が残したカルボナーラ……これは予想の範疇。


それを見越してセットのライスをスモールサイズにしていたのが、まさかのデザートできたティラミスとパンナコッタのセットが思っていた以上に量が多かった。


深愛姉ならこれぐらい簡単に食べると思っていたが


『こういうのはシェアしないとね、悠弥、あーんして!』


と、シェアが始まり気が付けばそれぞれ半分近く食べていた。


「それより時間平気か?」

「あ、そろそろ出ないと次からは実技だし」


実技は10分前に行かないと受けさせてもらえないと話していた。


俺は深愛姉が持ってきた水を一気に飲み干すと立ち上がった。


……なんか最近お腹が重くなったような気がする。




「午後は1回実技やったら終わりだから!」

「……わかったよ、食堂で時間潰してる」

「うん! それじゃ行ってくるねー!」


教習所に入ると深愛姉は俺の方に向かって大きく手を振り

実技の集合場所に向かって走っていった。


食堂には数人ほどしかいなかった。

次の講義までの時間つぶしなのか、スマホを見ている人や

考査直前なのか教本を睨むように見ている人などが利用していた。


自動販売機でコーヒーを買って空いていた窓側の席に座り

窓から教習コースを見ていた。


開始のチャイムが鳴ると同時にスーツ姿の教官と生徒たちが

ゾロゾロとコース内にでてきていた。


その中に深愛姉の姿を見つけた。

教官に連れられてこれから乗る車の前に立った深愛姉は首をコクコクと

小刻みに動かしながら話を聞いているようだ。


説明を受けながらタイヤを4本全て見ていた。

その光景を見ながらバイクでもタイヤとウインカーの点検とかやっていたことを思い出していた。


その後は車に乗ったのか、ゆっくりと車が動き始める

が、すぐに止まってしまうが再び動き出しては止まるを繰り返していた。


「……大丈夫なのか?」


俺はヒヤヒヤしながらコーヒーを飲んでいた。



「悠弥おわったよー!」

「……お疲れ様」

「つかれたー! アクセルの強さがわからないよー!」


どうやらアクセルを踏む強さがわからず、踏むたびに

強すぎて教官から補助ブレーキを踏まれていたそうだ。

……だから走ったり止まったりを繰り返していたのか。


「初日なんだから、仕方ないだろ。 あまり気にするなよ……」


「うん、ありがとー! 疲れたから早くかえろよー!」


そう言いながらも深愛姉は俺の前の席に座るとぐでっと体全体をテーブルに倒す。


「頼むからその状態で寝るなよ……」

「大丈夫だよー」


……何か声が寝そうなんだけど?


深愛姉の体を起こすと食堂を出て、バイクのある駐輪場へ向かっていった。


ハンドルにかけていたヘルメットを深愛姉に渡し、

自分のヘルメットをロックから外してかぶってからエンジンをかけ

軽くアクセルを回してふかした。


俺が座わると後に続くように深愛姉も俺の後ろに座り

全体重を乗っけていた。


「悠弥の背中暖かいから寝ちゃいそう!」

「家につくまで我慢してくれ……」

「はーい」


眠たそうな声で返事をする深愛姉に対して

俺はため息をついてからバイクを発信させた。


「「ただいまー」」


玄関を開けると2人同時に声がでていた。


「昨日買ったケーキがあるんだけど食べる?」

「俺はまだいい……」


胃袋に昼に食べたのがまだ残っている感じがして

食べようとは思えなかった。


深愛姉がつけていたヘルメットを預かり、自分のと一緒に

収納棚にしまい、リビングに向かった。




「……深愛姉、夕飯どうする?」


帰ってから俺はゲームをするために自分の部屋に籠り、深愛姉はでまったりしたいからと言ってリビングに残っていた。


ゲームのデイリーミッションが終わり、窓がから外を見ると空が茜色に染まっており、そろそろ胃の方も落ち着いたので、夕飯の準備のためリビングに向かうと……


「見事に寝てるな……」


教本を開いたまま腕を枕にして突っ伏していた。

朝からずっと講義と実技をやっていたわけだし仕方ないか……。


気持ちよさそうに寝ているのを見ていたら起こすのが悪いと思い

そのままリビングを出て部屋に戻ろうとしたが、ピンポーンと誰かが来たことを告げる呼び鈴がリビングに鳴り響いていた。


「……ふえ!? 誰かきたの?」


深愛姉は寝ぼけた表情のまま頭を上げる。


「俺がでるからいいよ」


俺はドアホンのボタンを押すとその様子が画面に映し出される

そこには見覚えのある姿が。


「習志野……?」


画面には上下ジャージ姿の習志野凪沙の姿が映っていた。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は3/26(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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