47話


 「入校の手続きは以上となります。これから頑張っていきましょう!」

「はい! 宜しくお願いします!」


俺は今、最寄りの駅から20分とだいぶ離れた場所にあるドライバーズスクール、所謂、教習所にいて俺と深愛姉は受付のカウンターにいた。


「あのさ深愛姉?」

「どうしたの?」


深愛姉は嬉しそうな表情のまま俺の顔を見る。


「俺、ここにいる意味あるのか?」

「あるよー! 悠弥いなかったら教習所の場所わからなかったし!」

「駅からバスでてるだろ……」

「そうだけど! どうやって手続きすればいいのかわからないじゃん!」


深愛姉の返答に俺は深くため息をつく。


事の発端は海へ行った次の日まで遡る。




「私、バイクの免許を取る!」


前日海へ行った時に買ったお土産品で適当に作った

夕飯を食べながら深愛姉は突然言い始めた。


「いきなりだな、またテレビの影響か?」


俺は呆れ顔で答える。

たしか海に行きたかった理由もそうだったような気がした。


「違うよー! 昨日走ってるの見たら私も運転したくなったの! 悠弥の運転もいいんだけど!」

「それはいいんだけど、だとしたら教習所いかなきゃならないし、親の許可も必要になるけど?」

「そうなの?」


深愛姉はキョトンとした表情で俺を見ていた。


「そうだし、教習所入るにもかなりのお金がかかるから」

「どのぐらい?」

「……ちょっとまってて」


テーブルにに置いてあったスマホをとり、自分が通った教習所の

ホームページに行き、料金表のページを見せた。


「この通り、諭吉さんが10枚以上飛ぶ」

「ほんとだ……」


珍しく深愛姉がため息をついていた。


「ご飯食べたらカズさんとママに聞いてみるよ」





『もしもし……どうしたの、こんな時間に?』


深愛姉のスマホから深月さんの声が聞こえてきた。


「えっとちょっと相談なんだけど……」


深愛姉はマイクモードにして話を続ける。

……それはいいけど何で俺の部屋でなんだ!?


深愛姉はバイクの免許を取りたいと深月さんに説明する

だが、返ってきたのは……


『危ないからダメ』


淡々とした深月さんの言葉だった


「えー! なんでよー!」

『車と違ってバイクは守るものがないから危険でしょ! それでなくても深愛はそそっかしいんだから!』

「そそっかしいのはママだって一緒でしょ!」

「いーえ! 私はそんなことないわよ!」


電話越しで深愛姉と深月さんが口論を始めていた。

……話の内容が脱線しているが。


『まあまあ、深月さんも深愛ちゃんも落ち着いて』


深愛姉のスマホから父親の声が聞こえていた。

どうやら父親も隣で聞いていたようだ。


「カズさーん! 助けてよー!」


深愛姉はここぞとばかりに父親に助けを求める。


『俺も深月さんと同じでバイクの免許をとることには反対だよ』

「カズさんまで!?」

『深月さんが言う通りバイクは守るものがないからほんとに危険なんだよ?』

「えー! 悠弥はもってるじゃん!」

『悠弥は男だし、怪我しようが問題はないわけだけど、深愛ちゃんは女の子なんだから、傷が残るような怪我したら後々大変でしょ?』


……おい、実の父親さらっととんでもないこと言ったな。


「どうしてもダメなの……?」


先ほどの勢いはどこへ行ったのか深愛姉の声が小さくなっていた。


『そうだね、バイクはダメだね』


父親の言葉に深愛姉はガクッと肩を落とす。

相当ショックだったようだ。


『バイクはダメだけど、車だったらいいよ』

「ふぇ!?」


父親の言葉に深愛姉は床に置いていたスマホを両手で持ち始めた


「カズさん! 今なんて言ったの!?」

『車ならOKって言ったんだよ。 深月さんもそれならいいでしょ?』

『そうですね。 早めに持っておくにこしたことはないですし』

『ってことだ深愛ちゃん、それで納得してもらえるかな?』

「うん、わかった!」


さっきまで沈んでいたのが嘘のように深愛姉の表情が明るくなっていた。


『ところで、傍に悠弥いるか?』

「いるよ」


癖でいつものように反応したが、何で俺がいることがわかったんだ……?


『近いうち深愛ちゃんを教習所に連れていってくれないか?』

「……わかったよ」


そう言ってスマホの通話終了ボタンをタップした。


「……うん、車なら雨降っても濡れないし、音楽も聴くことができるからね!」


深愛姉は嬉しそうな表情のまま呟いていた。





と、まあ……そんな経緯があり深愛姉は教習所に通うことに

なったわけで。


「それではこれから簡単なテストを行います。 お連れの方は一旦席を外して頂けますでしょうか?」


そういえば自分の時も同じ理由で父親が席を外してたな。


「わかりました」


俺は立ち上がってその場から去ろうとすると


「どこにいくの?」

「2階に食堂があるからそこで待ってる……」

「うん、わかった!」




「それにしても変わらないな……」


2階の奥にある食堂にはテーブル席と1人用の席があり

壁にはカップやペットボトル、缶タイプなど様々な自販機が

横一列に並んでいた。


窓側のテーブル席からは場内一面をみることができる。

そういえば卒業試験前にはここから走るルートを確認したな……と

当時のことを思い出す。


食堂の周りを見ると、教本をじっくり見ている人やカウンター席で

寝ている人など、それなりの人数が利用していた。


自販機で缶コーヒーを買って空いているテーブル席に座る。


テーブルに立てかけられたメニューに目がつき、空腹感を覚えるが

お昼以外にスタッフはいないため、頼むことはできなかった。


メニューが目につかないように裏返しにしてからスマホを取り出して

ニュースサイトを見ながら時間を潰すことにした。




「悠弥? こんなところで寝てると風邪引くよ?」


いつも聞く声に反応してなのか、自分の周りが明るくなっていく感覚になっていく。


俺の視線の先には教習所のロゴが入った紙袋を持った


「……もしかして俺寝てた?」

「うん、スマホをしっかり握ったまま首だけゆっくり動いてたよ」


右手の方を見ると指にガッチリ収まるようにスマホが握られていた。

画面には某動画配信サイトの一覧画面が映されていた。


どうやら動画を見ているうちにそのまま夢の中へと旅立っていたようだ


「……終わったの?」

「おわったよー! 疲れたよー!」


そう言って深愛姉は俺の対面の席に座り、体全体をグデッとテーブルの上に倒れ込んでいた。


「視力検査だけかと思ったら適正検査とか説明会とか! 学校にいるみたいだったよ」

「……いや、学校だからなここ?」


「なんか教科書も結構分厚いし!」


自分の隣の椅子に置いた紙袋から教本を取り出してパラパラと流し読みしていく深愛姉。


「……免許とったらいろんな所に行けるんだから頑張らないとな」

「うん! 免許とったら悠弥を連れ回すからねー」

「悪い俺まだ生きていたいんだけど」

「何でよー!」


深愛姉は机に突っ伏したまま両手を上げて怒っていることをアピールするが、残念ながらうまくアピールできていなかった。


「それじゃさっさと帰るぞ、夕飯の準備もしないといけないし」


窓から外を見ると、日没が近いせいか辺りが少し暗くなっていた。


「はーい! あ、そうだ帰りにコンビニよってプリン買っていこうよ!」

「……わかったよ、ちゃんとご飯食べろよ」

「大丈夫! 甘いものは別腹だから!」


深愛姉は顔だけ上げると笑顔でVサインをしていた。

……だからどんな理屈なんだよ。


「よーし! 明日から頑張るぞー!」


深愛姉は自分を鼓舞するように声をあげると体を起こし

隣の椅子に置いた紙袋を持ち始めた。


「ってことで、当分の間送り迎えよろしくね!」

「……バスで行け」

「やーだー!」


お嬢様かこの姉は……



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は3/23(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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