46話


 「ソフトクリームのチョコとバニラくださーい!」


展望台から下りた先にあるカフェに向かうと深愛姉は一目散に

カウンターに向かい、自分が欲しいものを注文していた。

ちなみに2つ頼んだのは深愛姉がチョコとバニラ両方食べたいからだと自信たっぷりに離していた。

もちろん本命はチョコでバニラは俺が食べることになっている。


「おまたせしました! ソフトクリームのバニラとチョコになります」


カウンター越しにプラスチックのカップに入ったそれぞれのソフトクリームが手渡された。


「いただきまーす!」


深愛姉は俺にバニラの容器を渡すと一緒に渡されたプラスチックのスプーンで掬って食べていく。


「海で食べるデザートは格別だよね!」

「どこだって同じがするけどな……」

「もー! 気分壊すようなこと言わないの!」

「はいはい、すみませんでしたー」


なぜ怒られるんだと思いながらも俺もスプーンで掬った

バニラソフトを口の中に運んでいく。


まろやかで濃厚な味の中には若干の塩味が……


「……これ塩バニラか」


売店のメニューをよくみると『隠し味にこの海で採れた岩塩を使用』と書いてあった。


「食べてみたーい!」


そう言って深愛姉はいつものごとく、餌をもらう雛鳥のように

口を開けているが……

えっと周りに人がいるんですが?


「深愛姉、さすがにここではそれはやめような……周りの人、不思議そうにみてるぞ」


俺が小声で伝えると深愛姉は顔を真っ赤にして口を閉じていた。

本人も気づかずにやっていたらしい


「食べたければ自分のスプーンで掬ってくれ」

「そうするー!」


そう言って深愛姉は自分のスプーンでバニラソフトを掬って

食べていく。


「ホントだ! 塩っぱいのがあとからくるけど美味しいー」


よほど気に入ったのか、自分のチョコソフトよりもバニラソフトを次々と食べていった。

気がつけばバニラソフトはあとわずかとなっていた。


「あ……」


どうやら深愛姉も気付いたのか気まずそうな顔で俺の顔をみていた。


「ごめん、ほとんど食べちゃった……」

「別にいいけどさ。 それよりもそっち食べれるの?」


俺は深愛姉の手元にあったチョコソフトを指差す。

本人の顔を見る限り、どうやら厳しそうだった。


「こっち食べて、俺はそっち食べるから」


バニラソフトを渡してからチョコソフトを受け取って

食べていった。




「ごちそうさまでしたー!」

「……ごちそうさまでした」


レジの前にいたカフェのスタッフに一声かけて外にでた。


「少しのつもりが長居しちゃったね」

「別に急ぐ用事もないしいいんじゃないか?」


ソフトクリームを食べたのはいいが2人揃って次は

飲み物が欲しくなり、俺はコーヒー、深愛姉は紅茶を追加で注文し

話しながら飲んでいた。


「さてと次はどうする?」

「これ以上先には何もないから降りていくだけかなー」


深愛姉はパンフレットを見ながら答える。


「そういえば行きはエスカレーターで来たんだったな……」


パンフレットを見る限り、降りていく途中にも飲食店やお土産やなどの

多種多様なお店があるようだ。


「色々見ながら降りていくか……お土産とか買うんだろ?」

「うん! ついでに今日の夕飯に食べれそうなの買っていこうよ!」


そう言って深愛姉は俺の腕に組んでいった。


「それじゃレッツゴー!」




「神社……?」


カフェを出てから道なりに降りていった先には

真っ赤な鳥居があり、その奥には大きく聳え立つ本殿があった。


「この辺りの漁師さんたちを見守る海の神様が祀ってあるんだって」


深愛姉はパンフレットを見ながら答える。


先ほどの展望台から下にあるものの、本殿からはこのあたりの海を一望することができる。

たしかに見守るには一番いい場所になるのだろう。


「せっかくだしお参りしていこうよ!」

「そうだな……」


漁師じゃない俺らがお参りもどうかと思ったが

こういうのは参拝する気持ちが大事だろう。


俺と深愛姉は本殿の手前の手水舎で両手を清めてから、

本殿の方へ向かっていく。


お賽銭箱の手前にある鈴を2人で鳴らし、一礼をして

お賽銭箱にお金を入れていく。


ちなみにいれた金額は色々と縁がありますように……

ってことで5円を入れた。


パンパンと2回手を叩いてから目を瞑る。


(帰りに水難事故に遭いませんように……)


帰りも多少は海沿いを走るので念の為だ。


目を開けて、最後に一礼する。

隣の深愛姉を見るとまだ目を瞑っていたがすぐに目を開けて俺の方を見る。


「……終わった?」

「うん! 悠弥は何をお願いしたの?

「無事に帰れますようにってお願いしといた」

「うわ……すごい真面目」


しょうがないだろ……海に関わることなんて今回ぐらいしかないわけだし


「そういう深愛姉は?」


俺の問いかけに対し、深愛姉は……


「ないしょ!」


屈託のない笑顔で答えていた。


「人の聞いといてそれはないだろ……」

「ダメだよ、女の子の秘密を無理矢理聞こうとするなんて」


そう言って深愛姉は俺の腕に自分の腕を絡ませていく。


「それじゃ行こっか!」


深愛姉は俺の腕を引っ張るように早足で歩き始めていった。




神社を後にした俺たちは途中途中でお土産や飲食店などに

立ち寄りながら歩いていった。


「これ美味しそうだね、買って行こうか!」

「いいけど、さすがにこれ以上はリアボックスに入れるのは厳しいからな」

「これが最後だから平気だよー!」

「それさっきの店でも言ってたよな……?」


エスカレーター乗り場に着く頃にはなぜか俺の片方の手にはビニール袋

中には今日の夕飯になりそうなものもあるが、大半は深愛姉のお土産品である。


ここに着いた時には青空が広がっていたが、今は日が沈みかけており

空は少しずつ闇に染まりつつあった。


「もうこんな時間なんだ……時間経つのは早いなあ」

「さすがにそろそろここを出ないと……」


買い物を済ませてバイクをとめた駐輪場に向って歩いていたが

ふと横を見るとさっきまであった深愛姉の姿がなくなっていた。


「……ってどこった!?」


慌てて周りを見ていると


「ゆうやー! こっちだよー!」


後ろで声がしたので、そちらを向くと深愛姉は大きく手を振っていた。

ため息をつきながら深愛姉のいる方へ向かって走る。


「みてみて! 夕陽が海に沈む瞬間だよー!」


興奮気味の深愛姉が指を指す方をみると

遠くで太陽が海の中に沈もうとしていた。

……もちろんそう見えるだけであって本当に沈むわけではないけど


「なんかすごい幻想的だねー」


深愛姉はその光景を見たままつぶやいていた。


太陽がゆっくりと沈んでいくのを微動だにせずずっと見ている深愛姉

完全に沈むまで動かないな、とこれまでの経験から察し、俺も仕方なく深愛姉の横で同じ光景を見ることに。


……ただ、興味がない人間が同じものをずっと見ているのは疲れてくるもので俺は何度もあくびを繰り返していた。

そして今もあくびが出そうなったので空いている右手で口元を抑えようと

したが、既に塞がれていることに気づく。


……深愛姉の左手によって。


腕を組んでくるのは日常茶飯事になりつつあるが手を繋いでくるのは

今回が初である。


俺が驚いたことに気付いたのか、深愛姉は俺の方を向き


「嫌だった……?」


少し憂を帯びた表情で俺の顔を見ていた。


「……いや、そうじゃないけど」


そんな表情で見られたら何も言えなくなってしまった。

結局俺たちは手を繋いだまま、完全に日が沈むのを黙ってみていた。




「深愛姉聞こえる?」

「うん、大丈夫だよー!」


ヘルメットについたインカムで声が聞こえることを確認して

バイクのエンジンをかけてからアクセルを回して少し蒸す。


暖かくなったとはいえ、夜はまだ寒い。

そうなるとエンジンのかかりが悪くなるが、すぐにエンジンの音が安定し始めたのでなんとか大丈夫なようだ。


「それじゃ行くぞ、あと寒いと思うから我慢して」

「大丈夫だよー」


深愛姉の返事を確認してからギアをローにいれてバイクを発進させる。


スピードをあげると冷たい風が自分に当たっていく。

昼間は多少は暖かかったんだけどな……。





「つ、着いた……」


出発してから2時間経ってなんとか自宅に到着した。


「おつかれ〜!」


後ろで深愛姉が労いの言葉をかけるが、さすがに疲れたのか

声に眠気が混じっているように聞こえた。


「先に家の中に入ってて、バイクとめてくるから」

「わかった〜」


深愛姉を先に降ろしてから、バイクを駐車場の奥に停める。

ヘルメットを外して、クランプバーにマウントしてあったスマホを取り外してから家の中に入る。


玄関のバイク専用の収納だなにヘルメットを押し込んでリビングに行くと

家について安心したのか、ソファで深愛姉が横になって寝ていた。


「疲れてるのはわかるけど、こんなところで寝ると風邪引くぞ」


俺が声をかけると目を開けてからゆっくりと体を起こし……


「だっこー」


そのまま俺の方に倒れ込んできた。

避けるわけにもいかず、体全体を受け止めることに。


「……俺も疲れているんだけどな」


そう言いながらも深愛姉の体を抱き抱えてリビングを出て

ゆっくり階段を登り、深愛姉の部屋に向かう。


深愛姉をベッドに寝かせてから、すぐに自分の部屋に行き、

パソコンを起動させる。


「どうせまだやってるだろ……」


さっきバイクからスマホを外した際に画面をみたら

理人からの救援要請が大量に届いていた。


いつものようにゲームにログインするとチーム内のメッセージログに

大量のテキストが表示されていった。


『お! 真打のご登場だ!』

『マジか! よっしゃあこれで勝つる!』

『形成逆転だ! この機を逃すなよー!』


どうやら今日から始まったレイドイベントのボスに苦戦しているようだった。


チームのメッセージログとは別にダイレクトメッセージが送られてきた


リーゼ@レイド参加よろしゅう!

『おいこのリア充やっときやがったな!』


ゆうねる

『誰がリア充だ……この銃でお前のあたま撃ち抜いてやろうか』


リーゼ@レイド参加よろしゅう!

『ほう……みせてもらおうじゃないか! お前のリア銃の威力をな!』


いつも通り、理人とくだらないやりとりをしながら

画面の前に立ち塞がる強敵レイドボスに戦いを挑んでいった。


ちなみにその戦いは日が昇る寸前まで行われていた……



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は3/19(土)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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