45話

 「すごーい海がキラキラ光ってるー!」


深愛姉の要望で海岸通りを走っていると後ろから喜びの声をあげていた。

俺も運転をしながらも横目でチラチラと海の方をみていると、深愛姉の言う通り、雲一つない青空から注がれる太陽光に照らされて海全体が輝いているように見える。


暖かくなっているとはいえ、まだ4月。

海には人なんていないだろうと思っていたがちらほらと歩いている人の

姿を見かける。


「4月なのに海に人がいるんだねー」


どうやら深愛姉も同じことを考えていたようだ。


「さすがに泳ぐのはいないだろ、この時期だとサーフィンぐらいじゃないか?」

「たしかに! 海岸を歩いている人ほとんどがサーフィン用の水着着てるね」

「……ウェットスーツって言うんだけどな」


こんな話をしながらバイクは海岸線の先にある島に着こうとしていた。


「さすがに腹もへったし、疲れたからあそこで休憩するよ」


赤信号で止まっている時に島の方を指差す。


「わかったよー!」


俺は深愛姉の声を聞くとすぐに左のウインカーを点滅させて

島の方に向かっていった。


島は長い橋でつながっており、全体が海に囲まれていた。

橋を渡り切った先は観光地になっており、屋台や飲食店などが立ち並んでいた。


バイク駐輪場の案内を頼りに進んでいくと奥の方にひっそりと

『バイク置き場』と置かれた駐輪場を発見。


空いている場所にバイクを停めて駐輪場のチェーンと自分の持っているチェーンロックを何重にも絡ませるようにしてかける。


スマホで時間を確認するとお昼を過ぎていた。

そのためか駐輪場には次々とバイクを停める人が増えいており

その中には女性ライダーの集団もあった。


自分のと深愛姉のヘルメットをホルダーにかけてから

深愛姉に近づくが、深愛姉の視線は奥に映る女性ライダーの集団を

見ていた。


「……女性ライダーが気になるのか?」


俺が声をかけると深愛姉は驚いた様子で俺の方を見る。


「うん! ドラマとかで見るけど、実際に見るのは初めてかも」


一時期、バイクブームが来ていた際に女性ライダーも増えたと

ネットの記事で見たことはある。

俺もよく走るツーリングコースにある道の駅で休憩しているのを

よく見かける。


「それもそうなんだけどさ」

「……なに?」


深愛姉は再び女性ライダーの集団の方をみると……


「やっぱライダースーツの中って裸なの?」

「そんなわけあるか……!」


深愛姉の突拍子もない疑問に俺は思わず大声をあげてしまう。

……女性ライダーの何人かがこっちをみていたような気もする

深愛姉の言葉に反応したのではないことを祈りたい。


「だって、アニメに出てくるセクシーなキャラがファスナーをあけるとさ——」

「——現実とアニメをごちゃ混ぜにするな」


俺は聞こえるようにため息をつく。


「……呆れたら一気に腹減ったからあっちに行くぞ」

「はーい」


これ以上ここにいたら深愛姉が何を言うかわかったもんじゃない……




バイク駐輪場から歩くこと数分で飲食店などのお店が立ち並ぶ一帯まで

くることができた。

ちなみにいつも通り深愛姉は俺の腕に組んでいることは言うまでもなく

おそらく本人は気づいていないが、毎度のごとく胸が腕に当たっていた。


「いい匂い〜」


深愛姉は香ばしい匂いに釣られるようにイカ焼きの屋台の方に

進んでいった。

腕を組んだ状態のため、もちろん俺も一緒に


「いらっしゃい! 丁度焼けたのがあるよ!」


捻ったタオルを頭にかけた白髪の店主が威勢のいい声で

商品のイカ焼きを薦めてきていた。


腹が空いているせいか、塩の香りとイカの味が焼ける

香ばしい匂いは腹の虫を急激に刺激させる。


「それじゃ2本ください!」


俺が言う前に横から深愛姉が注文していた。


「まいどあり! お姉ちゃん綺麗だから220円のところ200円でいいぞ!」

「ありがとうございますー」


いや、なんだよその微妙な割引額……


「熱いから気をつけて食べてな!」


深愛姉が支払いを済ませると大きなイカ焼きを2本受け取る。

そのうちの1本は俺の方へと渡された。


こんがりと焼かれた身からは湯気が立ち上っていた。

俺はそのまま身をかぶりつくように食べていった。


醤油をベースとした味付けが絶妙だった。

熱いのを忘れて食べていき、気がつけば食べ切っていた。


「ふぇ……!? 悠弥はやいよー!」


深愛姉のイカ焼きは店で受け取った時とほとんど変わらない状態だった。

……何か小動物がかじったような跡があるような気もするが


「こう言うのは熱いうちに食べないと勿体無いだろ……」

「わかるけど、急いで食べたら舌やけどしちゃうじゃん!」


そう言いながら深愛姉は時間をかけながらゆっくりと食べていった。

そして最後の一切れを飲み込むと……


「ごちそうさまでしたー!」


深愛姉は串をゴミ箱に捨てると自分の定位置だと言わんばかりに

迷いもなく俺の腕を組んできた。


「……なんでこういう時は残さないんだ?」

「うん? 何か言った?」

「……別に何でも」



更に歩いていくと参道と書かれた長い坂を登っていった。


「一番上には展望台があって、バズる写真が撮れるんだって!」


深愛姉は途中で入口でもらったパンフレットを見ながら説明していた。


「……絶対にバズるとか書いてないよな!?」

「似たようなことが書いてあるから言い換えたの!」

「言い換える必要あったのか……?」


意気揚々と歩き出す深愛姉に引っ張られるように俺も

参道を歩いていった。


「展望台まで一本で行けるエスカレーターがあるんだって、そっちで行こうよ」


深愛姉がエスカレーターの方を指差す。

料金はかかるみたいだが、帰りも運転することを考えたら

体力を消耗するのはよろしくない。


支払いを済ませて遥か上まで続くエスカレーターを登っていった。


エスカレーターの終点に着き、外へ出ると海を一望することができた。


「悠弥! 見て見て! ソフトクリームがあるんだって!」


深愛姉が見ていたのは絶景なる景色ではなく

エスカレーターの出口付近にあったカフェの看板をキラキラと

目を輝かせながら見ていた。

……デザートに目がないのは今に始まったことではないけど


「……で、どっちいくの?」


俺はため息混じりに聞くと深愛姉は少し悩んでから


「まずは展望台かな、ソフトクリームはその後!」


そう言うと深愛姉は俺の腕を掴んで展望台の方に向かって歩いていった。


展望台に着くと深愛姉はすぐにスマホを取り出してパシャパシャとシャッター音を立てながら無数に写真を撮り続けていた。


「やばいやばい……! 絶対にこれバズるよー!」


深愛姉は興奮気味にスマホの写真アプリを開き、撮った写真を見ていた。

俺も横からスマホを見るが、どれも同じに見ててしまう……。


「微妙な角度とか、光加減とかでわかるんだよ?」

「……何も言ってないのに何でわかった!?」

「ものすごく不思議そうな顔で見ていたからだよ」


自分でも気が付かなうちにそんな顔をしていたのか……


「それじゃ最後は……!」


深愛姉はスマホを持っていた右手を高く上げる


「悠弥! こっちにきてー」


どうやらいつものように一緒に写真を撮ろうとしているようで

俺は呼ばれるがままに深愛姉が立っている方へ向かう。


「いつもみたいに仏頂面じゃなくていい感じのポーズでね」

「無茶振りもいいところだな……」

「それじゃ撮るよ! さん! に! いちっ!」


深愛姉のスマホからパシャッと音が鳴った。

上げていた手を下げるとすぐにスマホの画面を見ていた。


画面には岸壁に囲まれた海岸を背景にいつものギャル特有のポーズの

深愛姉と……


「なんで私と同じポーズとってるの!」


深愛姉と同じように左手の人差し指と中指、親指を使ったポーズをしている俺が写っていた。


「いきなり無茶振りされたからそれしかなかったんだ……」

「だからって……! あははははははっ」


どうやら深愛姉の中でツボに入ったようで腹を抱えて笑い出していた。


「いくら何でも笑いすぎだろ……」


「だってー! 見るだけで笑っちゃうっ!」


次第にはお腹を抱えながら座り込んでしまっていた。





「もー! 悠弥のせいで笑い過ぎて涙がでちゃったよ!」


深愛姉の笑いがおさまる同時に立ち上がって目尻に溜まっていた

涙を拭いていた。


「だったら取り直すか?」


俺は不服そうな顔で深愛姉に聞くが……


「ううん、これでいいよー!」


深愛姉は写真にロックをかけていた。


「それじゃ、写真も撮ったしソフトクリーム食べに行こうよ!」

「……わかったよ」


そう言って深愛姉はスマホをカバンにしまうと再び俺の腕を組むと同時に

引っ張るようにカフェがある方へ進んでいった。



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は3/16(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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