第41話


 「ゆうやー! 遊ぼうよー!」


土曜のお昼過ぎ。

私はいつものように悠弥の部屋のドアを開けると同時に

大きな声で呼びかけていた。


悠弥は相変わらず、PC用の椅子に全体重を乗せ、大きなヘッドフォンをかけて

パソコンの画面を凝視していた。


私の声に気づいたのか悠弥はヘッドフォンを外して

椅子を回転させて私の方を向くと不機嫌そうに私の顔を見ていた。


まるで『ノックをしてから入ってくれ』と言いたそうな顔をしていた。


「……出かけてたんじゃないの?」

「今さっき帰ってきたんだよー」


午前中は雑誌の撮影があったがいつもより撮影の枚数が

少なかったので早く終わっていた。


「早く帰ってきたからさ、ウイッチで遊ぼうよ!」


相変わらず悠弥はため息をついていた。

……毎度思うけど、幸せがなくなってもしらないよ?


「わかったよ、クエスト終わらせるから下で待ってて」


そう言って悠弥は椅子を机の前に戻していった。


「うん、まってるよー!」





「……おまたせ」


リビングに入ってきた悠弥はテレビの横にある接続機器に

自分のウイッチをつなげるとコントローラーを持ってソファに座る。

私もいつものようにソファに座って悠弥の肩に背中を預けていた。


「……で、今日は何をするの?」

「私の島に遊園地をつくりたいんだ!」

「そんじゃ材料集めからか……」

「うん! お願いしまーす!」


ゲームを始めてから1時間ほどが経っていた。

必要な材料が集まり、ちょっと休憩を取ろうかと思い悠弥に声をかけようと思ったけど


「寝ちゃってる?」


悠弥はコントローラーを持ったまま目を瞑っていた。

頭だけは船を漕いでるかのごとく、一定のリズムで揺れていた。


「そっか……今週は色々あって疲れちゃったんだね」


起こさないように悠弥のてからコントローラーを取り

セーブをしてウイッチの電源を切った。


悠弥の体を横に倒すと上からブランケットをかける。




キッチンに行き、ハーブティを淹れてからダイニングテーブルの椅子に座る。


ハーブティを飲みながらいつも見ているSNS『さえずりったー』を一通り見終わると

自分のを更新するため、載せる写真を選んでいた。


写真アプリには自分でも驚くほどの写真が載っていた。


横にスライドしながら載せようとする写真を選定していくと

ある1枚の写真で指が止まる。


「懐かしいなぁ、悠弥と初めて撮ったやつだ」


画面にはバイクのシートに座ってポーズをとる私と

いつもの仏頂面の悠弥が映っていた。


懐かしいと思ってしまったが、よく考えたら

半年も経っていないんじゃないかな……?


「この日まで色々あったなぁ……」


私は手を止めて、『佐倉 深愛』となった日までのことを思い返していた。


たしか、去年の夏の終わり頃だった気がする



ある日の夕飯時、めずらしく早く帰ってきたママから


「食べながらでいいんだけど、聞いてほしいことがあるの」


私お手製のペペロンチーノを食べながらママが俯きながら話しかけてきた。


「どうしたの?」


ママは去年の頭に離婚した。

ママは離婚が成立するまでに色々あったことは私はよく覚えている。

そして成立した時は私もママも大泣きするぐらい喜んだことも……


そんなママが俯いている姿を見て、また何か起きたのかと心配になっていた。


「再婚するって言ったらどうする?」


ママはまるで初恋相手がみつかった少女のように頬が若干赤くなっていた。


「相手はどんな人なの!?」


私は食い気味になって聞いていた。


「会社の代表よ、年齢も私よりも少し上ぐらいだったかな」


ママの顔はますます赤くなっていた。


再婚相手ってことは……つまり私の父親にもなる


私は父親ってものに関して嫌悪感を抱いていた。

原因はママと離婚したあの元父親。

思い出すだけで吐き気がしてくる……


「ママはその人と再婚したいの?」

「うん、そうよ」


ママは顔全体が真っ赤に染まっていた。


「でも、深愛が嫌だっていうならやめておくけど」


もう、リンゴのように顔を真っ赤にしていうセリフじゃないのに……


「私はママがいいなら賛成だよ、けど……」

「けど?」

「私も会ってみたい!」


ママが好きになった人がどんな人なのか見てみたかったのもあるが、

ママの相手として……そして私の新しい父親として

問題ないか確かめたかった。



「今週末なら時間とれそうだから、ランチでもどうだって?」


ママはすぐに相手の人に電話をしていた。

……うん、声がこっちまで聞こえていた。

元から声が大きい人なのか、ママと電話できて嬉しかったのはわからないけど


「うん、ありがとうママ!」





約束の日、私はママに連れられて相手の人が住んでいる最寄り駅まで

電車で向かっていた。

今、住んでいるところから急行で3駅目と思っていたよりも近い場所だった。


20分ほどで駅に着き、改札をでると


「おーい、袖ヶ浦くん!」


苗字を呼ばれたので辺りを見渡すと改札の先にある切符売り場で

背の高い男性が何度も呼びながら大きく手を振っていた。


隣でママが恥ずかしそうに小さく手を振っていた。

どうやら、あの人がママの再婚相手のようだ。


「どうも、はじめまして佐倉 和彦です たしか深愛さんだよね?」


ピシッとした白のシャツに紺のジャケット、カーキ色のスラックスをはいた

ママの再婚相手、佐倉さんは私の顔を見るとすぐに自己紹介をはじめた。


「はい、袖ヶ浦深愛です。いつも母がお世話になっております」


すぐに私も自己紹介をすると同時に頭を下げる。


「いやいや、お世話になってるのは僕のほうだよ! 彼女がいなかったら会社は破綻してても——」

「——娘の前でやめてください、恥ずかしいですから!」


ママは顔を真っ赤にして下を向いていた。

うわぁ……今日のママ、すごく可愛いんだけど!?



「予約した佐倉ですが」

「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」


佐倉さんに連れられてきたのはショッピングモール内の上の階にある

スカイラウンジと呼ばれる高級感あふれる場所だった。


ウェイターに案内されたのは、窓際の席だった。

窓からはこの辺りを見渡すことができ、奥には頭が若干白くなっている

富士山の姿も見えた。


私は窓側、ママは私の隣、佐倉さんはママの真正面と

それぞれ座ると、佐倉さんは私に話しかけてきた。


「本当なら息子を連れてこようと思ったんだけどね、朝になったらバイクで

 でかけちゃったみたいでね」


佐倉さんは申し訳なさそうな顔で話す。


スポーツ刈りの髪型に真四角な顔をしているせいか強面な感じにもとれる

単なる思い違いのようで、物腰が柔らかい人のようだ


「息子さんがいらっしゃるんですか?」

「そうだよ、今年の4月に高校に入ったばかりだけどね」


ということは私の1個下になる。


……あの子もそれぐらいになるのか。


「深愛?」


私が急に黙ったことで心配になったのだろうか?

私の顔を下から覗き込むようにみていた。


「ごめん! ちょっと考え事してただけ」

「もう、ちゃんとしなさい!」

「もー! こんな時まで怒らないでよー! そんな顔してたら佐倉さんドン引きしちゃうよ?」

「深愛!」


私とママのやりとりを聞いていた佐倉さんは思わず声にだして笑っていた。


「大丈夫だよ、仕事中の袖ヶ浦くんはもっと怖い顔してるから、僕も思わず泣きたくなっちゃうよ」

「さーくーらさん!」


ママは顔を真っ赤にして怒っていた。


私は2人のやりとりを見て笑うと同時に少し安心していた。

ママがものすごく楽しそうだったから。



それからはコースで次々と料理が運ばれてきた。

食べながらも楽しく、時にはお腹が痛くなるぐらい笑っていた。

メインディッシュが終わり、残すはデザートのみ。


「お待たせいたしました、デザートになります」


運ばれてきたのはチョコケーキ。

それを見た瞬間私は目を輝かせていた。


「あ、あの……写メ撮っていいですか?」


美味しそうなデザートを見るとついつい撮りたくなってしまう


「もう……深愛ったらこんな時まで」

「まあまあ怒らなくてもいいじゃないか、せっかくだし僕も撮っておこうかな」


そう言って佐倉さんはジャケットの内ポケットからスマホを取り出していた。

カシャカシャと2つのシャッター音が店内に響き渡っていた。


「もう! 佐倉さんまで!」


隣でママが再び顔を真っ赤にして怒っていた。

そんなママの顔を見て私は安心していた。


うん、この人ならママを任せられるかもしれない……と



==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


などと少しでも思っていただけましたら、


【フォロー】や【★星評価】をしていただけますと大喜びします!


★ひとつでも、★★★みっつでも、

思った評価をいただけると嬉しいです!

最新話or目次下部の広告下にございますので、応援のほどよろしくお願いします


また、本日は第7回カクヨムコンの読者選考最終日です!

残りわずかですが、最後までどうぞ、宜しくお願いいたします!






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る