第40話


 「いらっしゃい悠弥くん! いま開けるから」


次の日の放課後、俺は1年ぶりに唯香さんの家を訪れていた。


あれからすぐにLIMEで唯香さんにメッセージを送ると

すぐに返ってきて、今日会うことになった。


ガチャっと鍵を開ける音が聞こえるとすぐに玄関が開き

唯香さんが顔を出していた。


「いつもどおり汚れてるけど気にしないでね」


唯香さんは笑顔で俺を家に招き入れる


「おじゃまします」



約1年ぶりに入る唯香さんの家の中はあの時と

ほとんど変わっていなかった。


「空いているところに座ってて、コーヒーでいい?」

「大丈夫ですよ」


唯香さんはコーヒーメーカーの台座に俺が使っていたマグカップを置き

スイッチを押してコーヒーを淹れる。


コーヒーを俺の前に置くと唯香さんは俺の対面にある椅子に座った。


「この前は大丈夫だった?」


唯香さんは心配そうな表情で俺の顔をみていた。


「大丈夫ですよ、ご心配おかけしました」


マグカップを覆うように両手で持った唯香さんはホッとした様子で

中に入った飲み物を飲み始めた。


「あまりにも心配だったから昨日、家の方にもお邪魔したんだけどね」


深愛姉が話していた件か……

だが、それに関して俺は聞きたいことがあった。


「俺の家、どうやって知ったんですか? たしか教えてなかった気がしましたが」


「理人くんに聞いたの」


唯香さんは何も迷いもなく答えていた。

あいつ、明日会ったら覚えてろよ……


「悠弥くんが返った後、私もそうだけど理人くんがものすごい心配してたんだよ。 でも理人くんオフ会の後もバタバタしてたから私がお見舞いに行くって言って紙に書いてもらったんだよ」


あいつの頭の中にはプライバシーって言葉はないのかよ……

俺は思わずため息が出てしまっていた。


「ねえ……悠弥くん」


名前を呼ばれて俺は唯香さんの顔を見る

オフ会の時は気づかなかったが、少し痩せたように見えた。


「私ね……悠弥くんと会えなくなって本当に寂しかったんだよ」


唯香さんの言葉に俺の体にチクリと何かが刺さるような感覚がしていた。


「どれだけ連絡をとろうとしてもダメだったから、一度は忘れようとおもったんだよ。 だからゲームにもログインしなくなったの」


俺は何も言わず、コーヒーを飲む。


「でもね……忘れよう、忘れようと思えば思うほど、悠弥くんに会いたいって気持ちが強くなってきたの」


物悲しく語る唯香さんの話を聞いているうちに息苦しさを感じ始める。

唯香さんはさらに話を続ける。


「もしかしたら会えるかもしれないと思って久々にログインしたら理人くんがいて、悠弥くんについて色々聞いちゃったんだ」


そういや前に会ったとか言ってたな……

ってかすぐいなくなったとか言ってなかったか?


「それで、理人くんに悠弥くんに会いたいって話したらね」


予想がついた。

それもものすごく嫌な方向に……


「俺にまかせてください! って言ってくれたの! それで少し経った後にオフ会を開くって連絡が来て、悠弥くんも呼んだって」


予想的中。

だから執拗に俺をオフ会に呼ぼうとしてたのか……


「オフ会で悠弥くんの姿を見たら久々に嬉しかったよ」


いつの間にか唯香さんの表情が明るくなっていた。


「忘れなくてよかったと思ったし……久々に悠弥くんを見たときに思ったの」


俺は黙ったまま唯香さんの顔を見ていた。


「私、悠弥くんのことが好きなんだって。 どれだけ会えない日々が続いてもその気持ちがなくなることはなかったって!」


唯香さんは興奮気味になったのか、声のトーンが上がっていた。


「……だから、もう一度私のそばにいてほしいの」


それは唯香さんからの二度目の告白。

それを聞いた瞬間、俺の体に再度チクリと刺さる感覚を覚える。


あの時は勢いに負けてしまった感は否めないが

でも、あの時は俺も唯香さんのことが好きだった


——けど今は……


「……ごめんなさい」


俺は二度目の告白を受け入れることができなかった。


「なん……で……」


先ほどとはうって変わり、唯香さんの声のトーンは下がっていった。


「もしかして、あの時悠弥くんを無理矢理しようとしたのが原因なの……? それならもう——」


「……違います!」


俺は大声をあげていた。


「……あの時のは俺のことを好きだから起きたことだってことはわかっています!」


俺はマグカップにある冷えたコーヒーを飲み干す。


「あの時、唯香さんのことが好きだったことは嘘ではないですし

唯香さんのことは嫌いじゃないです……」


「それなら何で……!」


俺の頭の中には嬉しそうな顔、頬をふくらませた顔など

会ってから様々な表情を見せてきた……


深愛姉が写っていた。


「……傍にいたい人がいるんです!」


俺ははっきりと、力強く答える。


「……家にいた……あの子?」


唯香さんは目尻に涙を溜めながらも俺の顔を見ていた。


「はい……」


俺が短い言葉で返事をすると唯香さんは目を瞑る。

涙を堪えているのだろうか、だが無情にも涙は彼女の頬を伝って落ちていく。


「……悠弥くんにとってそんなに大事な人なの?」

「……えぇ、大事な人です」

「そう……なんだ」


俺が答えてから唯香さんは何も話さなくなった。


沈黙が続き、この場にいることが辛くなったので

俺は立ち上がると、財布から一枚のカードを取り出し

テーブルの上に置いた。


「……カードキー、お返しします」


それだけを告げると俺は唯香さんの家をでていった。









『……えぇ、大事な人です』


悠弥くんははっきり私にそう言った。

あの時の彼は出会った頃より全然違っていた。


初めて会った時は、口数も少ないおとなしかった。

だから可愛く見えた。

私は一人っ子だったから、弟がいたらこんな感じなのかなって思っていた。


最初はちょっと年の離れた姉みたいな感じで接するつもりでいた。

けど、いつしか私は悠弥くんを育てたいと思うようになっていた。

……自分の思い描く相手にするために。


だって悠弥くんが好きだから。


だから私は悠弥くんに色々なことを教えていった。

料理だったり、勉強だったり、女性への付き合い方も……


私は悠弥くんのことが好きを超えて愛しくなっていった。

ずっと一緒にいたい、抱きしめて温もりを感じたい……

体を重ねて悠弥くんのものがほしい……


でも、それは拒絶された。

そして、悠弥くんは私から離れていき、

悠弥くんは自分で大切な人を見つけていた。


当初は姉として接しようといたのだから

弟の成長を見れたのだから喜ばしいことかもしれない


けど、今の私にはそんな風に思うことはできなかった。


「いなくならないでよ……悠弥くん……」


私は彼が置いていったカードを見て一人大声で泣いていた。







「ただいま……」


玄関を開けて中に入る。

リビングからテレビの音が聞こえていた。

深愛姉は帰ってきているようだ。


いつもならすぐにリビングに行くところだが

今はそんな気分になれなかった。


部屋に行こうと階段を登ろうとするとリビングのドアが開き……


「あれ、悠弥おかえりー」


深愛姉がドアから顔をだしていた。


「……ただいま」


挨拶を済ませてすぐに階段を登ろうとするが


「悠弥、立ち向かうことできた?」


深愛姉の言葉に安心感を覚えたのと同時に

今まで溜め込んでいた感情があふれ出し……


自分でも気づかないうちに大量の涙が流れていた。


「深愛……ねえ……!」


俺は子供のように大声をあげていた。


「悠弥……」


そんな俺を深愛姉は抱きしめていた。

俺もそれに答えるように深愛姉に抱きついていた。


「おつかれさま……がんばったね」


深愛姉は子供をあやすように俺の頭を撫でていった。



『……いままでありがとう』



『唯香さん……』



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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「続きが気になる」

「応援する」


などと少しでも思っていただけましたら、


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