第39話
「はい、これでおしまい……」
俺は既に冷え切っていたコーヒーを飲み干す。
「……深愛姉?」
全く反応がないので、また寝たのかと思い自分の膝に目を向けると
深愛姉はウイッチを自分の膝の上に置き、目を瞑りながら腕を組んでいた。
「また寝たのか……」
「起きてるよー!」
深愛姉はパチっと目を開き、俺の顔をみていた。
俺は自分でもわからない達成感を感じてソファの背もたれに全体重の乗せ
天井を見上げて乾いた声で笑う。
「どうしたの?」
「あの時のことを思い出すたびに自分の情けなさがドッとくるから、笑うしかできないんだよ……」
俺の返答に深愛姉は不思議そうな顔をしていた。
「あのさ悠弥……」
「……なに?」
「悠弥にはキツい言葉になるかもしれないけど、私が思ったこと言っていい?」
深愛姉は真剣そのものの表情で俺を見ると
体を起こしていった。
「いいよ、何言われても覚悟はできてるから」
もちろん単なる強がりだ。場合によっては俺はそのまま
天に召される——
「——悠弥はずっと逃げてたんだね」
初手から致命傷を与えかねない言葉が飛んできた。
俺は自分の心臓の部分を押さえながら大きくため息をついていた。
「悠弥、どうしたの?」
「……何でもない」
深愛姉の言葉はごもっともで、俺もずっと思っていた。
……元母親から逃げるために唯香さんの家へ
そして、今度は唯香さんから逃げるために家に戻ってるわけだしな。
「でもね、逃げることは決して悪いことじゃないよ」
その言葉に俺は首をあげて深愛姉を見る。
深愛姉は微笑みながら俺を見ていた。
「自分が望んでもいないのに我慢して、身も心もボロボロになるぐらいなら、逃げた先で元気なほうがいいに決まってるから」
深愛姉の表情はいつも以上に真剣そのものだったが
少しもの悲しさがあるようにも感じとれた。
「だからって逃げっぱなしはよくないよー」
何かさっきから上げてきたと思ったら思いっきり下げてくるな
「悠弥はまだ成田さんから逃げてるだけだからね!」
「逃げてるか……」
あの一件以来、俺は唯香さんとの接触を避けてきた。
リアルはもとよりゲームでもアカウントを変えているわけで
……唯香さんからコンタクトがあってもそれを無視している。
改めて考えてみれば深愛姉の言うことはごもっともな意見だった。
「……深愛姉」
「なーにー?」
「……嫌なこと全てから逃げまくった俺はどうすればいいんだ?」
俺は今にもかき消されそうな声で問いかけていた。
それに対して深愛姉は力強く答える
「その時は逃げたなら、次は強くなって立ち向かえばいいと思うよ」
「随分と抽象的な答えだな……」
「こう言うのは自分で理解しないと意味ないんだよ?」
深愛姉の答えに俺は吹き出してしまう。
あの時もこの前のオフ会の時も結局は唯香さんから逃げ出した俺が
立ち向かうなんてことができるのだろうか。
「……まだ、立ち向かうことはできなさそう?」
どうやら俺の表情から察したようだ。
「それじゃ、お姉ちゃんがおまじないをかけてあげようか?」
深愛姉はウインクをしながら俺を見る。
「何だよ、その突然のお姉ちゃんキャラは?」
「キャラじゃないよー! 実際に姉でしょ!」
「義理だけどな」
「もー! すぐそういうこと言うんだから!」
俺の答えに深愛姉は頬を膨らませていた。
「……それじゃお願いするよ、何するかしらないけど」
「素直じゃないんだからー!」
そう言うと、深愛姉は俺の目の前に立ち俺と目線を合わせていた
そして目を瞑り少しずつ顔を近づけてきた
「み、みおねえ……!?」
思わず両手でおさようとしたが既に遅く深愛姉の顔は
俺のすぐそばまできていた。
こうなったらどうにでもなれ!
自棄気味に俺は目を瞑る
コツン……
軽い音が聞こえた。
何かがぶつかったようだが?
俺はゆっくりと目を開いていくと……
すぐそばに深愛姉の顔があったが…
右手で俺の前髪、左手で自分の前髪をあげて
お互いの額を重ねていた。
そして……
「悠弥には私がついてるから大丈夫だよ……」
と、微かな声でつぶやいていた。
俺は何も言わずというか、言うことができず
さらには動くこともできずにいた。
「どう? 立ち向かえそう?」
深愛姉は目を開けて俺に話しかけていた。
「……たぶん」
俺の答えに深愛姉は微笑んでいた。
「ねえ、悠弥」
「な、何?」
額を合わせてから、俺の心臓はバクバクと音を立てて振動していた。
「成田さんはね、悠弥のことが本当に好きなんだと思うよ」
「……なんだよそれ」
「いいから黙って聞く!」
納得できない状況に俺はため息をついていた。
「悠弥のことが好きだからこそ過剰になってしまったと思うの」
「……過剰って問題じゃないと思うけどな」
「私は、悠弥の姉として弟をそこまでなるぐらい好きになってくれたことは感謝しているよ」
「……つまり、よりを戻せって言いたいのか?」
俺の質問に深愛姉は小さく首を動かす。
「それを決めるのは私じゃなくて、悠弥だよ」
「……じゃあ何で言ったんだよ」
「悠弥は女の子の気持ちを全然理解できてなさそうだから、優しいお姉ちゃんからのアドバイスかなー」
深愛姉はふふっと不敵に笑う。
「はい、おまじない終わり!」
深愛姉はそう言うと俺から離れる。
「……どっから教わったんだよこんなの」
「前に琴葉が教えてくれたんだよ? 悠弥って意外とこういうの好きじゃないかって」
あのクソ女、勝手に妄想だけで決めつけただろ
「それで、どう? 立ち向かえそう?」
深愛姉は上げていた前髪を戻しながら聞いていた。
「……そうだな」
俺が答えると深愛姉は微笑んでいた。
「それじゃ、ご飯にしようか! お腹すいたよー」
深愛姉はキッチンに行こうとするがその場で立ち止まっていた。
「そういえばさ……」
俺の方を向いた深愛姉は左手を口元に置いてニヤニヤとした表情をしていた。
「さっき、おでこをくっつけようとした時、チューするかと思ったでしょ?」
「お、思うわけないだろ!」
平然なふりを装っていたが、どうやらバレていた。
「もしかしてそっちの方がよかったかな?」
深愛姉は鼻歌を歌いながら、エプロンをかけて冷蔵庫を開ける。
ため息をつきながら、俺は天井を見つめていた。
『決めるのは私じゃなくて、悠弥だよ』
頭の中で先ほどの深愛姉の言葉が巡っていた。
深愛姉の言う通り、どうするか決めるのは俺自信……
「……もちろん決まってるさ」
俺は自分のスマホを取り、LIMEを起動させてメッセージを送った。
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【あとがき】
▶当作はカクヨムコンに参加中です!!
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読者の皆様に作者から大切なお願いです。
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