第19話

 「で、話は戻すけど!」

「理人、口元に何かついてる」

「ホントだ、サンキュー」


テーブルに置いてあるペーパーで口元を拭く理人


「で、話をもど……」

「テーブルぬれてるぞ」

「そんなわけってホントだ、何でだよ!?」


理人はくしゃくしゃに置いてあったお手拭きでテーブルを拭いていく


「今度こそ大丈夫だな、それでだな……」

「理人……」

「今度は何!?」

「うるさい」

「うへえ……!!」


お笑いでよくみるようなズルッと滑る仕草をして

机に突っ伏す理人


流石にこれ以上やると暴れそうなので仕方なく

こいつの話を聞くことにした。


「で、何を話したかったんだ?」

「お、やっと聞いてくれる気になったか!」

「いいから早く言えよ……」


理人はコホンとわざとらしい咳払いをすると

口元で手を組み、真剣な眼差しで俺を見ていた。


「悠弥もそろそろ新しい彼女を作った方がいいと思うんだよ」

「いらない。 これでいいか?」

「終わっちまったよ!?」


理人はテーブルをドンドンと叩きながら「うわーん」と泣いているように見せかけていた。


「なあ悠弥……」

「……なんだよ」


再び口元で腕を組み俺を顔を見ていた。


「おまえ、唯さんと何があったんだよ?」


理人が口にした名前に俺はドキっと心臓が跳ね上がりそうになっていた。

何でここでその名前を出すんだよ……。


「……想像にお任せする」

「おまえそればっかじゃねーかよー」


言いたくないんだよ……察してくれ。


「唯さんめちゃくちゃ可愛かったのになあ……しかも胸も大きいし」


羨ましそうな声で独り言を言いながら理人はコップに入った果汁100%オレンジを飲み干していた。


「あ、そうだ唯さんで思い出した」

「何だよ……」

「この前久々にインしてたんだよ」

「は?」


自分でも驚くぐらいの声がでていた。


「いやさ、寝つきが悪かったからインしたらさ、チームハウスにいたんだよ」

「……で?」

「『久しぶりですねっ』って言ったら返事くれたんだけど……」

「だけど……?」

「『ゆうねるくんは最近インしてなんだね……』とだけ言ってすぐに落ちちゃったんだよ」


ちなみに『ゆうねる』というのは俺のゲームのプレイヤーネームだ

……今は別のアカウントでプレイをしているが。


「寂しいなら俺が慰めてあげるのになぁ〜。 もちろんリアルでな!」


理人はニヤニヤとした表情をしながら両手で何かを揉むような動きをしていた。


「……ヨダレでてるぞ、あとその手つきはやめろ」

「悠弥はもちろん堪能したんだよな? あの爆乳を」

「……いい加減殴るぞ」


呆れ返ってため息しか出なかった。


「前にも話したと思うが、俺が別アカウントでプレイしていることは

絶対に話すなよ」

「わかってるけどさ……」

「……何だよ?」

「この前の唯さんみてたら、可哀想になってきたんだけど」


ホント、コイツは素直というべきか単純すぎると言った方が

本人のためにいいのやら……


「何があっても俺の今のアカウントは言うなよ」

「わかりやしたよ」



「それじゃそろそろ帰るよ」

「早くないか?」

「……おまえと違って家事があるんだよ」

「そっか、親父さん再婚してすぐに出張になったんだっけ?」

「そう、だからおまえみたいにのんびりはできないんだよ」

「ま! 失礼しちゃうわ! ワタシもこうみえて忙しいのですよ」


突然理人がオネエ口調になっていた。


「キモい」

「ストレートすぎだろ! 流石の俺も傷つくぞ?!」

「おまえの場合、少しは傷ついた方がいいと思うけどな」


どうしようもない話をしながら会計を済ませて外にでた。



「相変わらずバイクかっこいいなぁ」


駐輪場につくなり俺のバイクを見つけると理人の羨む声が聞こえた。


「だったら免許とればいいだろ?」

「学校以外でも勉強するなんて嫌じゃね?」

「あっそ……」

「それに免許取ってもバイク買う金なんてないし」

「ゲームへの課金やめればいけると思うが」

「課金は食事と同じだから無理っすわ」


理人の言葉に呆れながらもヘルメットロックからヘルメットを外して

被るとすぐにシートに跨る。


イグニッションキーを差し込みクラッチレバーを握りながらセルを押すとすぐにエンジンがかかった。


冬で冷え込んでいるため少しエンジンの音が安定しなかったため

アクセルをまわして蒸す


「随分手間がかかるな?」

「冬場は仕方ないんだよ。それにこのバイク古いし」


このバイクは元々父親が乗っていたものだ。


俺が中型免許をとったのを機に父親が大型バイクを

買ったので、そのまま譲り受けることになった。


時期がきたら俺も大型免許取りに行こうかと思ってはいる。


「それじゃ帰る、またゲームでな」

「あいよー! 気をつけて帰れよー」


ギアをローに入れて発進させ、駐輪場を後にする

サイドミラーで後ろを見ると理人は両手を振っていた。



「……何であの人の名前を出すんだよ」


信号が赤になったので、停止線の前で止まる。


ファミレスで理人が名前をだしてからというもの

気分がものすごく重くなっていた。


二度と思い出したくなかったのにな……


正直顔を思い出したくない。

どこかで消せるというのであればお願いしたいぐらいだ。


信号が青になったので、再びギアをローに入れて発進させる。


このまま真っ直ぐ帰ってもよかったが、この気分を家の中まで

持ち込みたくなかったのでスピードを出せる大通りに行くことにした


大通りに入ると、トップギアまでいれて法定速度ギリギリまで

スピードをあげていく。


ものすごい勢いで風がぶつかってくる。

身を低くしながらもただひたすら真っ直ぐにバイクを走らせていった。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


先ほどの気分の重さはなくなり、気分は最高潮に達し

思わず声をあげてしまっていた。





「……つ、つかれた」


ずっと冷たい風がぶつかっていたせいか、トイレ休憩のために

コンビニに寄り、バイクから降りると疲れが押し寄せてきた。


トイレを済ませたついでに缶コーヒーを買ってバイクのシートに

座り、コーヒーを飲みながらボーッと空を見ていた。


空には雲ひとつない青空が広がっていた。



「帰ったら何するかな……」


掃除機は行く前にかけたし、洗濯物も干してある


「ゲームでもしながら深愛姉を待つとするか……」


コーヒーを一気に飲んでから、再びヘルメットをかぶる。


バイクのエンジンをかけようとしたが……


「あれ、悠弥??」


後ろから声をかけられて振り向いた先には

デニムジャケットとジーンズ姿の深愛姉の姿があった。


「珍しい、出かけてたんだ」

「それじゃまるで俺が引き籠もって……」

「いつも引き籠もってるでしょ!」

「……ソウデスネ」


言い返すことができなかった。


「これから帰るの?」

「そうだよ……」

「私も! じゃあさバイクに乗っけてよー」

「ヘルメットがないから無理」

「えー!」


この前はヘルメットを持っていたから仕方なく乗せたが

流石にノーヘルはいろんな意味で危ない。


深愛姉は不満そうに頬を膨らませていたが

すぐにニコッとした表情に戻り


「それじゃ一緒に帰ろうよ!」

「あいよ……」


俺はバイクをゆっくりと押しながら深愛姉と歩いていた。

なぜか深愛姉は俺のヘルメットをかぶっている。


「……髪ボサボサになるよ」

「別にいいよー。 見られるの悠弥だけだし」

「あっそ……」

「今日はどこにいってたの?」

「友達に呼び出されてた」

「意外ー! 悠弥……友達いたんだね」


ヘルメットを被っているため顔は見えないが

声からしてかなり驚いてるのがわかった。


「いくらなんでも失礼だろ……」

「だってー! 家でゲームばっかで友達と話してるところみたことないし!」


他愛もない話をしているうちに家に到着した。


「バイクとめてくるから、先に入ってて」

「わかったよー」


深愛姉はずっと俺のヘルメットをかぶったまま

ドアを開けるが……


「いたっ!?」


被っていることを忘れていたのでドアがヘルメットに当たっていた。


その光景を駐車場からみていた俺は思わず吹き出してしまう。


「まったく……」


気がつけば重苦しかった気分も先ほどみた青空のように

晴れ渡っていた。


==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


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