第20話

 「すごーい! 見てみて雪だよ! 真っ白!」


リビングのカーテンを開けて大はしゃぎする水玉模様のパジャマ姿の深愛姉


3月も中頃になろうとしており、春の足音が聞こえてもいい頃なのに

窓の外ではしんしんと鳴っているかどうかはさておき、雪が降っていた。


俺たちが住んでいるのは都心から離れてるとはいえ

一応都心部になるんだが……


「夜空の中で降り注ぐ雪ってなんかものすごくエモいよね〜」


前からずっと聞きたいがエモいってなんだよ……


「全然」


肯定すると深愛姉のペースに巻き込まれそうなので

適当に否定することにした。


「えー! なんでよー!」

「寒いのは嫌なんだよ」


これ以上話しているとこっちが疲れそうなので話を切り替えることにした。


「で、ゲームやるの?」

「やるー!」


勢いよくカーテンを閉めた深愛姉はウイッチを持ってソファに座った。


本来であれば夕飯を食べたら部屋に戻ろうと思ったが

今日夕飯の当番であることをすっかり忘れてしまい

深愛姉が代わりに作っていた。


『罰としてご飯食べたら一緒にゲームやって!』


と言われてしまったので現在に至る。


やるゲームは前にもやった島を開拓するゲーム


どうやら深愛姉はずっと続けていたらしく、何もなかった島には

住民の姿や色々な建物が立ち並んでいた。


「……まぁ! なんと言うことでしょう」


思わず出たのが、テレビで聞いたナレーションの台詞だった。


「悠弥……全然似てないよ」

「似せるつもりで言ったわけじゃないんだけど」


キャラクターが自分の島に降り立つとそこは


「……すごーい! こっちでも雪降ってる!」


島にもしんしんという効果音と共に真っ白な雪が降っていた。



「深愛姉……」

「なーにー?」

「重いんだけど」

「そんなこと女の子に言っちゃダメだよー」


深愛姉の頭は俺の膝の上にあった。

俗にいう膝枕というやつだ。


さっきまではいつものようにソファの上で体育座りをしていたが

そのまま横に倒れて今の状態になっている。


「悠弥の膝あったかいからこのまま寝ちゃいそう」

「……頼むからその台詞、フラグにするなよ」

「フラグ?」


深愛姉は仰向けの状態になり、俺の顔を下から見上げていた。


「何でもない……」




そして数分しないうちに見事にフラグが立ってしまっていた。


「……だから言ったのに」


深愛姉はウイッチを抱えながら俺の膝の上で穏やかな寝息をたてながら熟睡していた。


抱えているウイッチをとり、セーブをしてから電源を切った。


「深愛姉、寝るなら自分のベットで寝なよ」


声をかけるも反応なし。

軽く肩を叩くも微動だにせず。


「ちゃんと寝ないと風邪ひくぞ……」


仕方なく深愛姉の頬を軽くつねる


「むぅ……いらいよぉ」


そこそこ効果はあるようだ。


「ほら、寝るならちゃんと自分の部屋に行く」


「ふぁーい」


間の抜けた声で返事をした深愛姉はゆっくりと体を起こす。


……で、何故かそのまま俺に抱きついてきた。


「……おーい」

「だっこー」


すぐにまた寝てしまった。


この前もそうだが、深愛姉は寝ぼけると幼児退行するようだ……


「眠くなると幼児になるギャルなんて聞いたことないな……」


これ以上は動きそうにもないし、流石に苦しくなったので

背中と足を両手で支えるようにして抱き上げた。


俗に言うお姫様抱っこというものをまさかすることになるとは

思わなかった。しかも義理とはいえ姉に。


リビングをでてゆっくりと階段を上がっていく

……深愛姉が軽かったのが何よりも救いだった。


深愛姉の部屋は俺の部屋を超えた置くにある。

部屋のドアをあけて中に入り、そのままベッドに下ろした。


布団をかけ、戻ろうと思ったが


「悠弥もいっしょにねるのー」


何時ぞやのごとく裾を引っ張られた。


振り向くと深愛姉が布団を捲り上げていた。


「寝ないよ……」

「やーだー」


幼児かよ……


「悠弥も早く寝て、明日は一緒に雪遊びするのー!」

「やだよ寒いし」

「やーるーのー!」


駄々っ子のような口調で力強く引っ張られベッドに倒れ込んでしまう。

上から布団をかぶせられ、深愛姉と向き合うように布団の中へ


「おやすみー」


先ほどのように穏やかな寝息と共に夢の中へと旅立った深愛姉


「……まったく無防備すぎにもほどがあるだろ」


深愛姉の寝顔を見ながら小さくため息をつく。



「そろそろ戻るか」


完全に寝たのを確認して出ようとするが……


深愛姉は寝ても裾をガッチリ掴んでいた。


「……マジかよ」


何度も抜け出そうとするが、うまく放すことができず苦戦

その攻防を続けているうちにだんだんと意識が遠のいて……




「悠弥、起きてー!」


名前を呼ばれて目を開けると目の前にニコニコと微笑む深愛姉の顔が


「うわあああああ!」


叫び声と同時に体を起こし、周りを見ると見慣れた自分の部屋ではなく

人形やら、ドレッサーなどが置いてあるテレビでみるような女性の部屋だった。


「悠弥って寝てる時はものすごく可愛い顔なんだね」


隣で深愛姉がふふっと笑っていた。


「それじゃリビングに行って朝ごはん食べようか!」


深愛姉はご機嫌なのか、鼻歌を歌いながら部屋から出ていった。


「……何もしてないよな?」


しばし胸の高鳴りがおさまることはなかったのはここだけの話だ




「じゃーん! いいでしょこれ!」


朝食を食べ終えてから自分の部屋に戻り、コーヒーを飲みながらPCを立ち上げようとすると、毎度の如くドアを勢いよく開ける深愛姉


「頼むから入るときはノックぐらいしてくれ……」

「そんなことよりも、この洋服見てよ!」


大事なことだろと言いたい気持ちをグッと堪えて

深愛姉の方を向く。


「……今からスキーでもやるの?」


ニット帽に白のスノーウェア、スノーグローブを着て

両手を大きく挙げていた。


「昨日言ったじゃん、雪遊びするって!」

「嫌だよ、誰が好き好んで雪遊びしなきゃいけないんだよ!」


ってか寝言じゃなかったのよ!?


「たまにはいいじゃーん! いっつも家に籠ってばかりだとそのうち体にカビが生えちゃうよ!」

「んなわけあるか……」

「それに悠弥のスノーウェアもほら!」


そう言って後ろから大きめのウェアを俺に見せてきた。


オレンジが基調となっていて、雪に埋もれてもすぐに

見つかりそうな色だった。


「……用意したっていつの間に」

「ないしょー それよりも着てみてよ!」


勢いに負け、流されるままウェアを着せられていく。


「うん、ぴったりだし似合うよ!」


深愛姉は笑顔で親指を立てていた。


「……そうか?」

「うーん、ちょっとこっち来て」


腕を掴まれてそのまま深愛姉の部屋に連れてこられ……


「ほらよーく見て!」


深愛姉はドレッサーの鏡を開くと目の前に立つ自分の姿が

映し出されていた。


「……良いのか悪いのかさっぱりだ」

「似合ってるのになあ」


ファッションセンスが皆無な俺には理解できなかった。


「それじゃ着替え終わったことだし……雪遊びしよ!」


再び手を掴まれるとそのまま雪の降る外へと連れ出されてしまったのだった。


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


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「続きが気になる」

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