第17話
「今から行く店ってどんなのお店?」
「スペイン系だったかな、学校帰りにちょこっとみたんだけど中がすごくイケてる感じ!」
深愛姉は毎度のごとく俺の腕に組んでいた。
……そしていつものように柔らかい感触が腕に伝ってくるのはいうまでもなく。
狙ってやってるのか、それとも全く自覚がないのか
それは本人のみぞ知るってところか。
「ため息ついてるけど、どうかした?」
「別に……」
「なんか気になるじゃん!」
深愛姉が行きたがっている店は最寄り駅の西口にあった。
東口はショッピングモールや映画館など繁華街となっているが
西口は最近になって再開発が進んでいるためか、高層マンションや
オフィスビルなどが立ち並んでいた。
「あそこだよ!」
深愛姉が指を指したのは商業ビルに立てかけられた看板。
大きな文字で「スペインバル」と書かれていた。
エレベーターに乗り、店がある階に行ったすぐ隣に目的の店があった。
店の中は10人ほどが座れるカウンター席と4人のテーブル席が並んでいた。
深愛姉のイケてるがどんなものかわからないが、BGMや店の雰囲気が落ち着いており、大人が行くような感じに見えた。
自分達が場違いじゃないと思いながら店の中に入ると赤いネクタイが特徴的な女性スタッフに席まで案内された。
どうやら考えすぎだったようだ。
席につくとすぐにメニューを開くが、値段の高さに驚いていた。
「深愛姉……?」
俺は小声で深愛姉を呼ぶ。
「どうしたの?」
「……大丈夫?」
「何が?」
「…値段」
メニューを開いて目についたメニューを指差した。
ファミレスとは比べられないぐらいの価格だった。
「ふっふっふ……今日は私に任せなさい。悠弥は安心して好きなものを食べて」
深愛姉は自信満々な表情だった。
「大丈夫……なんだよな?」
「どれも美味しそうだよねー」
目を輝かせながらメニューを見る深愛姉。
「……先に言っておくが、シェアはなしだからな」
「えー!」
残念そうな顔をしていた
「あ、いいのがあった!」
深愛姉は意気揚々とメニューをテーブルに置いて、メニューを開き
食べたい物を指差していた。
大きなフライパンの中に敷き詰められたライス。その上にはエビやイカ
香草が飾られた、スペイン料理なら誰でもしっている料理だった。
「パエリアか……」
「うん! 美味しそうじゃない?」
2〜3人用と書いてあるから…まあ深愛姉が食べれなくなったとしても何とかなるだろう。
それに本人は頼む気になっているので他のメニューを言っても聞く耳もたないだろう
「それでいいよ」
するとすぐにスタッフを呼び、先ほどのメニューにあったパエリアを
注文をしていくが、それだけではおわらず
「あと、チュロスもお願いします!」
ちゃっかり食後のデザートも頼んでいた。
……絶対にそっちがメインだろ
「それにしても何があったの?」
「……どういうこと?」
「一緒に来てくれるなんて珍しいなって」
「……家にないから仕方なくだ」
「本当にそれだけー?」
深愛姉はアイスレモンティをストローで吸いながらニヤニヤとした表情で俺を見ていた。
「そうだよ。一体何があると思っているんだよ」
「うーん……彼女ができたとか?」
「……家に籠ってゲームしてるのに?」
「でも、悠弥がやってるゲームって『ねとげー』ってやつでしょ?」
「よくご存知で」
「琴葉から聞いたんだけどね」
たしかにあの女なら知っててもおかしくはないな
「最近だとそういったゲームで彼女作る人もいるとも言ってたよ!」
「……そうだな」
「だから悠弥もゲーム通じて彼女でもできたのかなーって」
「それはない」
飲もうとしていたコーヒーをテーブルに置いて力強く否定をする。
「俺にゲームにそんなものは求めてないので」
「なんかよくわからないけど、そうなんだ?」
深愛姉は理解できたような口調で話すが表情からして理解できてはなさそうだった。
「おまたせしました 地中海パエリアです」
テーブルの真ん中に大きなフライパンに盛り付けられたパエリアが置かれると
すかさず深愛姉はバッグからスマホを取り出し
撮影会が始まっていた。
「早くしないと冷めるぞ……」
「もう1枚だけとらせてよー!」
1枚だけ撮ったのを確認するとスプーンを渡して俺は端っこから食べていった。
「お皿とかによそわないの?」
「パエリアはこうやって食べるんだよ」
「何で知ってるの?」
「そこに書いてあるよ」
壁にかけられた紙を指す。
実をいうと俺もさっき見て知ったことである。
2人で端からライスの陸地を削るように食べていくが深愛姉は半分以上残してリタイア
「私はもう無理! あとは全部食べていいよ!」
「……やっぱりこうなるのかよ」
前回と違ってこうなることは予測できていたのでそこまで苦しくはない。
その時の俺はそう思っていた——
「——ごちそうさまでした」
数分後、俺はテーブルに突っ伏していた。
「……もう無理」
食べ物を残したくない一心でなんとかフライパンの中を空にすることができた。
だが、その代償として当分動くことが不可能になった。
「すみませーん、チュロスお願いします!」
テーブルに倒れ込む俺を尻目に深愛姉は食後のデザートを頼んでいた。
「ってか食べれないんじゃないの?」
「デザートは別腹に決まってるじゃん」
なんだそりゃ……
すぐにチュロスとホットチョコレートが置かれ、再び深愛姉の撮影会が始まった。
「これはバズりそうな気がする!」
「何を言ってるのかわからないけど、よかったことで」
チュロスにたっぷりとホットチョコレートをつけて食べる深愛姉
よほど嬉しかったのか、笑みがこぼれおちていた。
「悠弥も食べる?」
「この状態を見てもそれを言うか?」
「はい、あーん!」
俺の目の前にはたっぷりとチョコがつけられたチュロスが
「きいてねーし」
「美味しいものはシェアしないとね」
全く理解できないんだが……
どうにでもなれと自棄になって口を開けると
口の中に甘ったるいチョコの香りが広がっていく
「美味しいでしょ?」
深愛姉の問いに咀嚼しながら無言で首を縦に降る
チュロスに関してはほとんどを深愛姉が食べていた。
パエリアの時にもそれぐらい頑張って食べて欲しかったんだが
俺のお腹の方も落ち着いたので会計を済ませようとするが
値段がどうみても軽く出せるような金額ではなかった。
「あ、これ使えますか?」
レジの前で深愛姉がスタッフに半額クーポンと書かれた画面を見せていた。
「大丈夫ですよー。 お手数ですがボタンをタップしていただけますでしょうか」
『使用する』のボタンをタップすると画面に映っている画像がモノクロになり
上から大きな赤文字で『使用済み』と表示された。
「前に見た時にちょうどLIME会員募集してて登録したら貰えたんだよ!」
だから、さっき安心しろっていったのか……
とはいえ、半額になったとしても簡単に出せる額ではないが。
会計を済ませるとスタッフに見送られながら店をあとにした。
そして深愛姉は決まって俺の腕を組んでいた。
「そうだ、食料品買いに行きたいんだけど平気?」
「はいはい、どこへでも行きますよ……」
腕に当たる感触に耐えながら東口にあるショッピングモールの食料品売り場で買い物をしていった。
見せを出る時には俺の両手には大量の食料品が入った袋。
深愛姉の片方の手にも大きく膨らんだ袋が1つ
「いくらなんでも買いすぎじゃないのか?」
「だってまだまだ休みがあるし、どうせ悠弥は外にいかないでしょ?」
「……たぶん」
こんなことがなければ出ることはないだろうな
「そういう深愛姉はどうなんだ?」
「私は悠弥と違ってアウトドア派だからね!」
その割にはよく家にいるのを見るのは気のせいなんだろうか……
2人で他愛もない話をしているうちに家に到着した。
家を出た時には太陽が燦々と輝いていたのに、今じゃもう陰に隠れてしまっていた。
「ただいまー」
玄関を開けて最初に入った深愛姉が元気よく声をかけていた。
それに続いて俺も家に入っていった。
そのままリビングに行ってダイニングテーブルの上に
持っていた袋を置いた。
「疲れた……」
そのまま椅子に座り込んでいた。
「あ、悠弥」
ぐったりとした顔のまま深愛姉の方を向くと
「今日はありがとね」
と、深愛姉の表情は前にも見た。混じり気のない笑顔だった。
「どういたしまして」
その笑顔をみてなんか疲れがとれたような感覚になっていた。
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【あとがき】
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読者の皆様に作者から大切なお願いです。
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