第16話

 「深愛姉、おはよう……」

「あ、おはよう悠弥」


と、普通に弟である悠弥に挨拶を返したものの

違和感を感じていた。


「……悠弥から挨拶してきてる!?」


私は思わず大声をあげた。


「……挨拶しちゃ悪い?」


悠弥はコップにウォーターサーバーの水を汲むとそのまま一気に水を飲んでいた。


「悪くはないよ! むしろ嬉しい!」


私は嬉しさのあまり寝癖だらけの悠弥の髪をグシャグシャとかき乱す。


「……髪がボサボサになるだろ」

「寝癖だらけだからいいじゃん!」


更に髪の毛をグシャグシャにかき乱していった。


つい最近までの悠弥なら無言で手を振り払って部屋に戻っていったが今日は不服そうな顔で私の顔を睨みながらも、抵抗することはなかった。



そう、昨日の夜から悠弥の様子がおかしい

……うん、おかしいっていうと不平があるかもしれない。


これまではすぐに部屋に籠って1人になりたがっていたけど、昨日、私が帰ってからやけに私の側にいることが多くなった。


夕食も気がついたらお盆に乗せて部屋で食べていたのが昨日は珍しく私と一緒に食べていた。


その後も私と一緒に寝る直前までウイッチで遊んでくれていた。


嬉しいことなんだけど急なことなので、ちょっと戸惑いがあるかな。


「ねえ悠弥?」

「……なに?」

「何かいいことあったでしょ?」

「それ昨日も聞いてなかった?」

「私は悠弥のお姉ちゃんだからね! 弟が嬉しそうな顔していれば気になるのは当たりでしょ?」


私の問いかけに対して悠弥はため息をつきながら


「何にもない……」


と、一言だけ残してリビングから出ていってしまった。


「もー! 何かあるでしょ! 笑わないから教えてよー!」



それ以降、悠弥はリビングに来ることはなく

私は買ってきた雑誌を見たり、録画した番組を見たりと変わらない休日を過ごしていた。


番組を見終わり、スマホを見ると正午になろうとしていた。


「お昼どうしようかな…」


冷蔵庫を開けて中を見るが、ほとんど残っていなかった。


「私も悠弥も休みに入ってほとんど家にいるから減りが早いんだ」


残っている材料で献立を考えてみたものの

レパートリーも少なかったので諦めること


「あ、そうだ! 駅前にできたお店!」


学校行く時に気になっていた店を思い出す。

ずっと行こうと思って気になっていたんだった。


お昼はそこで食べて、帰りはスーパーで食料品を買って帰ろう!


「悠弥も行くかなー」



「悠弥お昼たべにいかないー?」


部屋のドアを開け、正面にある机をみるが

悠弥の姿はなかった。


「あれ? 出かけちゃった?」


朝、からかったから機嫌悪くしてバイクでどこか行ったのかと思ったが……


「あ……」


視線を正面から横にずらした先にある

ベッドに悠弥の姿があった。


パジャマ姿のまま静かな寝息をたてて眠っていた。


「寝てたんだ……」


いつもは仏頂面でいるのに寝てる時は穏やかというか、優しい顔つきになっていた。


「悠弥もこんな顔の時があるんだ」


私はベッドに腰掛けて、悠弥の髪を撫でるが

反応はなかったのでほっぺたを突っついていた。


思っていた以上に弾力があり、何度も突きたくなるほどだった。



そう言えば、昔もこんなことしてたなぁ……


寝てるあの子のほっぺたを突っついて

最初は喜んでいたけど、いつの間にか泣きだして


頭を撫でてあげると泣き止んで笑っていたっけ。



自分でも気づかないうちにつっつくのをやめて悠弥の頭の方へ

もう少しで髪の毛に触れそうになったが……


自分の手がガシッと腕を掴まれてしまい思わずハッとなってしまう。


「……何してんだよ」


声のするほうへ向くといつもみる仏頂面になっていた悠弥が

寝ぼけた顔のまま私を睨んでいた。


「悠弥の寝顔が可愛かったからついつい」


私の言ったことに悠弥はため息をついていた。


もー! ため息つくと幸せが逃げていくよ!


「まさかとは思うけど……それだけ?」

「あ、ううん! 冷蔵庫の中空っぽで何も作れないからお昼食べに行かないかなって」


まだ完全に起きていないようでボーっとした表情のままだった。


これは無理かなぁ…

それなら琴葉でも誘って行こうかな


「いいよ……」

「え?」

「……いいよって言ったんだけど?」

「ほ、ホント!?」


予想外の答えに驚いていた。

ホント、何があったんだろう?

嬉しいんだけど……。


悠弥は布団からでると着替えるからと言って

私は部屋から追い出されてしまった。


自分の部屋に戻り、コートとバッグを取り、

リビングで悠弥を待っていた。


「……久々に昔のこと思い出しちゃったな」


忘れちゃいけないんだけど、思い出すと心が苦しくなってくる

次第に目頭が熱くなってきていた。


涙を流さないようにするためにグッと堪えたけど

決壊したダムのように涙が溢れ出ていた。


(……ダメ!泣いちゃダメだよ私!)


心の中で自分に言い聞かせるが、涙が止まることがなかった。


「深愛姉?」


声をかけられて顔を上げると白のパーカーにジーパン姿の

悠弥が立っていた。


(あれ……なんだろこの安心な感じ)


「……大丈夫?」


先ほどまで溢れ出ていた涙がピタッととまっていた。

目頭にたまった涙を持っていたハンカチで拭くと

悠弥の顔をみて元気に答える。


「大丈夫だよ! ほらこの通り!」


元気であることを見せるために悠弥の顔に向けて

ピースサインを見せる。


「ならいいけど……それじゃさっさと行くよ」


悠弥は椅子にかけたダウンコートを着るとすぐに玄関に向かって行った。


「もう! おいていかないでよー!」


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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