第15話

 『おはよう弟クン、今日もいい天気だね』

『やあ、弟クン今日はどうお過ごしかな?』

『今日もお疲れ様、弟クン。 夜更かしなんてしないで早く寝るんだよ』


自分のLIMEが深愛姉の友人である琴葉にバレてから毎日のように送られてくるようになった。


最低でも1日3回、ひどい時は5回以上送られてくることもある。


ブロックしようと思ったが、深愛姉に知られたら更にややこしくなりそうなので既読スルーで切り抜けている。


『おはよう弟クン、相手してくれないと流石のわたしも泣いちゃうぞ☆』


このLIMEの通知で叩き起こされる。

しかも時刻は学校がある日でも起きていない時間。

窓から外を見ると外はまだうっすらと暗く太陽がようやく頭をだしたぐらいだ。


「……何考えてんだあのクソ女」


これまでと同じように返信せずにスマホを机に置き、再び眠りへとついていった。



再び目を覚ますと、午前が終わりを迎える時刻だった。


ベッドから降りて机に置いてあるスマホを見ると琴葉からスタンプが送られていた。しかもボイス付き。

みた瞬間、麗しい声で挨拶された。


「……なんで寝起きでイケボを聞かなきゃいけないんだ」


もちろん悪いのはイケボの男性声優ではない

あの女である。


スマホを机に置き、そのまま下に降りて行った。


いつものように歯磨きと洗顔を済まし、朝食と飲み物を取りにリビングにいくと白のダウンコートに膝下までのスカートを履いた深愛姉の姿があった。


トートバッグを肩にかけ、手には空港のショッピングモールの紙袋をもっていた。


「あれ、悠弥おは……っておはようじゃないよ! 何時だとおもってるの!」


壁掛け時計を見ると正午を過ぎたあたりだった。

寝たのが良い子も悪い子もとっくに寝る時間だったので仕方ない。

あのLIMEさえ来なければもっと早く起きれたかもしれないが


「あ、そうそう! 今日は琴葉の家に泊まるから」

「……あっそ」

「悠弥も誘おうかとおもったんだけど、琴葉が今日は女子会だからダメだって、ごめんね」


むしろ大いに結構だ。


つまりは今日一日家にいるのは俺1人だけ。

これで誰にも邪魔されず1人を謳歌することができる!


ついでに深愛姉と遊んでいるのであれば、あの女から面倒なLIMEも来ることはない!


「1人だからってインスタントとか適当なものじゃなくてちゃんとした物を食べてよ!」


玄関でロングブーツを履きながら深愛姉はまるで母親のようなセリフを残していった。


深愛姉が出たのを確認して、玄関の鍵をかける。


冷蔵庫から飲み物を取って心地よい気分で自分の部屋に戻って行った。


ヘッドフォンを装着していざ自分の世界へ!


今日は俺を遮るものは誰もいない……ッ!





「……さすがに疲れたな」


体をほぐすために腕を伸ばすと両腕の関節からボキボキと骨がなる音がしていた。

さらに首を右回転、左回転するたびにバキバキと音が鳴っていた。


「すごい音がしたな……」


深愛姉が出かけたのが正午過ぎだったが、外はすっかり真っ暗だった。

何時間も同じ姿勢でやっていれば体も凝り固まるだろう。


しかも最近は夕飯だったり、ウイッチに付き合わされたりと、こんなに長い時間ゲームに没頭するのは久々だったな。


「……とりあえず風呂に入ってからメシにするか」


PCをスリープモードにしてから部屋をでて階段を降りていく。


1階全体が真っ暗だった。

いつもは深愛姉が寝る直前までリビングにいるので

廊下に灯りが漏れているが、今日に限ってはそれはなかった。


「……なんか変な感じだな」


いつもとは違う感覚になりながらも洗面所に向かい、風呂場に入っていく。


「……やっちまった」


風呂場に入り、浴槽の蓋をあけるが中にお湯が張られておらず

もぬけの殻だった。


いつもは深愛姉がお湯張りをやっていたのだった。

それが当たり前になっていた。


「……シャワーだけにするか」


寒さで体を震わせながらシャワーをつけていった。



「……シャワーだけってここまで疲れがとれないものかな」


風呂場からでて体を拭きながら俺は一人で呟いていた。


父親と2人で暮らしていた時はお湯張りをすることは

ほとんどなく、基本的にシャワーで過ごしていたが

今日のように感じることはほとんどなかった。


「慣れって怖いな……」


寝巻きに着替えると洗濯機に着ていたものを詰め込んだ


夕飯(時間的には夜食か?)を食べるためにリビングへ


ドアを開けるともちろん中は真っ暗

少し前まではそれが普通だったが、今日に限っては

ここでも違和感を感じていた。


『あれ? 悠弥起きてたの? ごはん食べようよ!』


ここ数日は何かと理由とつけられて深愛姉とリビングで

食べることが多かった。


あるもので何か作ろうとか思い、冷蔵庫をあけると

いつもは見ることのないタッパーが目についた。


手にとって中を見ると、野菜やお肉などよくネットで見る

バランスのよい食事が並べられていた。


タッパーの蓋には

『作っておいたから温めて食べてね 深愛』

と書かれた付箋が貼られていた。


「……母親かよ」


ため息をつきながらタッパーをレンジで温めてから

ダイニングテーブルに座って食べることにした。


静かすぎるのでテレビをつけると

何人のお笑い芸人が騒いでいた。


落ちつかなかったのでチャンネルを変えると

バスがメインの旅番組がやっていた。


これなら落ち着けるので

ほとんど見ることなく黙々と食べていった。


「ごちそうさま……」


コップに残ったお茶を飲んでから

タッパーや箸を洗い部屋に戻った。


部屋に戻ってからはPCをつけてゲームをしていたが

あまり気分が乗らず、すぐにやめてしまった。


「何か落ち着かないな……」


今日1日自分しかいないから楽しもうと思っていたのにな


そのままベッドの上に大の字になって倒れた。


「今日は早く寝て早起きするのもありか……」


そう思って布団に入ろうとするとスマホが鳴り出した

画面を見るとLIMEでKO★TO☆HAと表示されていた


「今日は女子会じゃないのかよ……」


だが、送られてきたのは毎度の迷惑極まりないメッセージではなく

画像のようだった。


LIMEを開くと全て深愛姉が写っている写真が貼り付けられていた。


いつもの様にギャル特有のポーズや琴葉と2人で撮っている写真

胸元を強調した服装など、様々な写真が起きられていた。


そして最後に送られたのはパジャマ姿でスヤスヤと寝ている

深愛姉の写真だった。


「……何で俺に送るんだよ」


と、言いつつも送られた写真をずっと見てしまっていた。


 『返事がないってことは……さては弟クン深愛っちに会えなくて寂しがってるな!?』


突如メッセージが送られてハッと我にかえる。


スマホを布団の上に放り、どこかにいるのかと周りをキョロキョロとみてしまう。

普通は思うことはないが、この女の場合ありえそうで怖い……。


見られてないことを確認するとスマホを手に取り


『黙れクソビッチ』


と短いメッセージを送るとすぐに返事が返ってきた。


『言葉が悪いなぁ 未遂で終わっただろ? それに私はタイガきゅん以外の男を抱く気も抱かれる気もしないので安心してくれ』


そんなこと知ったこっちゃない。


『いつも既読スルーするのに反応するってことは図星のようだね』


絶対に画面の向こうでニヤついているだろこの女


『今日の深愛っち、君のことしか話してなかったよ』

『その時の深愛っちの表情といったら見てるこっちが恥ずかしくなってきたよ』


何で俺の話をするんだ、他に話すことないのか……


『まあ、明日の午前中には帰るって言ってるから、それまで写真で我慢してくれないかな?』 


『それじゃタイガきゅんが待ってるので私は失礼させてもらうよ』


最後に「アデュー」と書かれたイケボのボイススタンプが

送られてきた。


……だから誰なんだよタイガきゅんって


わけのわからない状況に呆れ返っていると

スマホが鳴り出したので画面を見ると……


『追伸:深愛っちの写真をやましいことに使わないように』


返信する気が失せたので既読スルーをすることにした。



それ以降琴葉からLIMEが来ることはなかったので

スマホを枕元置いてから再びベッドで大の字になった。


そのまま寝ようと思ったがモヤモヤした気分が抜けず

ダラダラと時間が過ぎていく。


ふと気になって、置いたスマホを手に取り

保存された画像を表示させていた


画面に映し出されたのは

深愛姉と最初にあった日に撮った写真だった。


写真にはギャル特有のポーズを取る深愛姉と仏頂面の俺。


「……寂しい……か」


これまでは1人でゲームができればよかったのに

今日に限ってはゲームをする気など起きなかった。


深愛姉がいないだけなのに……


ことある事に構ってきて、気がつけば俺を巻き込んで……


心底ウザいと思っていたのに……


「……二度とそんな感情出ないと思ったのにな」


あれ以来、もうごめんだと思っていたのに……


俺はため息をついた後、何故か乾いた笑いがでていた。






「悠弥! 起きなさい!」


聞き覚えのある声がすると

カーテンの隙間から日が差し込み、俺の顔を直撃していた。

あまりの眩しさに目を覚ます。

どうやらいつの間にか寝ていた様だ。


「もう、何時だと思っているの! お昼だよ!」


ゆっくり目を開けると目の前には深愛姉が立っていた。


「また遅くまでゲームやってたんでしょ?」


何か返そうと思ったが、脳が完全に動いていないのか

言葉がでてこなかった。


「お昼買ってきたから、一緒に食べよ」


そう告げると深愛姉は部屋をでていった。


……なんか気分が落ち着いていた。




「やっときた! ほら座ってー」


洗面所で洗顔、歯磨き、着替えといつもの流れを終えて

リビングに行くと、深愛姉がテーブルの上に買ってきたパンを皿の上に置いていた。


「駅前のパン屋さん行ったら焼き立てっていうから買ってきたよ」


皿の上には生クリームたっぷりなものや見た目からサクサクと音がしそうなカレーパンなどがあった。


「飲み物はどうする?」

「……コーヒーで」

「はーい! 先に食べてて」


深愛姉はコーヒーメーカーの電源を入れ

エスプレッソのカプセルをセットしてボタンを押す。


「できたよー」


そう言ってタンブラーを渡す深愛姉は俺の顔をみて不思議そうな顔をしていた。


「なに?」

「何かいいことあったの?」

「何で?」

「いつもと違って今日は笑っているから!」


深愛姉に言われて驚いていた。


「……気のせいだろ」



==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。


読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「続きが気になる」

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