第6話


 「……気持ちわる」


展望デッキで自分のお腹をさすりながらベンチに座っていた。


早く帰りたいがために深愛が残した食べ物を全て食べたのはいいが

胃の許容量を越えてしまったのか動けなくなってしまった。

それで外の空気を吸えば楽になるかと思い展望デッキに来たのである。


「はい、お水買ってきたよ」


声がする方に顔をあげるとダウンコート、ニットセーターに

ミニスカート姿の深愛が立っていた。


俺は無言で水を受け取るとすぐに水を飲む。

胃の中に溜まっていた甘みがなくなったような気分になる


「無理して全部食べなくてもよかったのに」


「食べ物を残すのは好きじゃないんだよ」


そういうことには特に元母親が煩かったため基本的には食べ物は残さないようにしている

今考えて見れば習慣って怖いな……。


「なんか意外かも」


深愛は不思議そうな表情で俺を見ていた。

どんな風に俺をみているんだこの女は……


「それじゃこれからは作りすぎても大丈夫ってことだね!」


「人を残飯整理に使うな!」


ため息しかでてこなかった。


「あ、ママからLIME来てた!」


自分のスマホを見ると家族のグループチャットに

深月さんがメッセージを送っていた。


「いまさっき宿泊先に着いたって」


そう言うと深愛はスマホを画面を軽快にフリックしていく。


『おつかれー! 今、悠弥と一緒に空港散策中♪』


深愛が送信するとすぐに


『朝早くて悠弥君も疲れているんだから無理して連れ回さないようにね』


自分のスマホで見ていた俺は心の中で深月さんに感謝をしていた。


『大丈夫だよ! ご飯食べたから元気一杯だと思うし!』


「そんなわけあるか!」


思わず声に出していた。


「それだけ大声が出せれば回復だよー。 それじゃ次は第二ターミナルにレッツゴー!」


深愛は俺の意見を無視してターミナルの中に戻っていった。


「……まだ行くところがあるのかよ」


俺はため息をつきながらターミナルに戻ろうとすると

ポケットに入れたスマホが震えたのに気づく。


画面を見ると父親からダイレクトメッセージが届いていた。


ロック解除して中を見ると……


『深愛ちゃんと仲良くな』

と一言だけ送られていた。


『気が向いたら』


短い一文を送るとスマホをポケットにしまうと

ターミナルに向かって歩き出した。



「ただいまぁー!」


深愛が元気な声を出すと同時に家の玄関を開ける。


「……やっと帰ってこれた」


家の中に入るとすぐにリビングに行き、両手を塞いでいた

大量の荷物をテーブルの上に置く。


ちなみにこの荷物は全て深愛が買ったものだ。


第二ターミナルには各種様々なお土産を扱う店が並んでおり

ほぼ全ての店の前を通っては立ち止まり、何かしら買っていた。


おかげで家に着いたのは日はとっくに沈み

辺りは真っ暗になっていた。


ほぼ丸1日空港にいるハメになってしまったというわけだ。


「こんな時間になっちゃっけど……夕飯どうする?」

「疲れたからいらない……」


疲れ混じりの声を出しながら俺はリビングを出て

重い足をゆっくりあげながら階段を登っていった。


部屋に入ると安心感に包まれていった。

そのままベッドに倒れ込んでいく……。



「——さすがに寝過ぎた」


目が覚めて枕の横に置いてあったスマホを見ると

日付を跨いだ直後だった。

本来であれば2時間ぐらい寝て、夕飯と風呂を済ませて

ゲームでもしようと思っていたのだが……


「とりあえず風呂入るか……」

大きくあくびしながら階段降りる。


降りると微かにリビングから明かりが漏れていた。

どうやら深愛がリビングにいるようだが

話すこともないのでそのまま風呂場に向かい

ドアを開ける。


「ひゃっ!?」


「うわっ!?」


ドアを開けた先にはバスタオルで体を覆っただけの

深愛の姿があった。


俺は勢いよくドアを閉めた。


「ゆ、悠弥……! お、おきてたの!?」


「い、今起きたんだ!」


「い、い、いまからパジャマ着るからちょっと待ってて!!!」


「わかったよ……」


俺は仕方なくリビングに行くことにした。


それから5分ほどでパジャマ姿の深愛がリビングに来たので

入れ違いで風呂場に向った。


風呂からあがり、飲み物を部屋に持っていくために

リビングへ向かうと深愛がダイニングテーブルの椅子に座り

鼻歌混じりにスマホを見ていた。


話すことがないので用を済ませて部屋に戻ろうと思っていたが

冷蔵庫を開ける音で気づかれてしまった。


「あ、もうお風呂でたんだ。ってか早くない?」

「長風呂は好きじゃないんだよ」


さっきのハプニングのせいか、なんか気まずい。


「さっきはごめんね」

俺の表情から察したのか深愛から謝られた


「別に気にしてない」

「ホントに?」

「姉の裸をみたところで騒ぐことじゃないだろ」

「そうなんだけど、なんか微妙な気分!」

「そんなこと俺に言われてもな……」


冷蔵庫から飲み物を取って、部屋に戻ろうとするが……


「見てみて! 今日撮った写メ何だけど、すごくよくない?」


深愛が腕を伸ばしてスマホを俺の顔に近づけくる

画面にはカフェで食べたチョコムースケーキとトリプルパンケーキが映っていた。

見ただけで胃の中が重くなってきた。


「あとはこれとかコレも!」


次々と写真をスライドしていくため何が映っていたのか

正直わからなかった。


「あとはこれかな!」


そう言って見せてきたのは深愛と俺が映っている写真だった。


空港を出る間際になって深愛が記念写真とってないと騒ぎ始め

スタッフにお願いして撮ってもらったものだ。


写真を撮ることに慣れている深愛はギャル特有のポーズで

そんなことに慣れていない俺は無表情だった。


「悠弥にも送っておこうか?」

「いらない」


淡々と返事をして上に上がろうとすると


「あ、悠弥!」


後ろから声をかけられて足を止めて

そのまま深愛の方に振り向いた。


「なに?」

「今日は付き合ってくれてありがとう! とても楽しかった!」


「はいはい……」


社交辞令的なものだろうと思って適当に流そうとしたが

深愛の顔を見た瞬間そうではないことが理解できた。


深愛は心の奥から楽しかったと言わんばかりの笑顔だった。


それをみた途端、何故かもやもやした気持ちがでていた。

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