第5話
「みてみて悠弥! あれってゲームのキャラクターだよね?」
深愛は俺の腕にしがみ付きながらもう片方の手で
人気ゲームのキャラクターが描かれた壁を指差していた。
「……そうだな」
「なんか適当に答えてない?」
そりゃそうだ、休みの日に始発に間に合うように叩き起こされ
挙句には興味もない散策に付き合わされているんだ
何も言わなくても察して欲しいが……
「あ、もしかしてお腹空いてる?」
深愛は俺の顔を覗き込むように見ていた。
たしかに朝から何も口にしていなかったので言われればお腹は空いていた
「お腹すいたからさっさと帰ろ——」
「それじゃまずはご飯食べようか!」
深愛は俺の言葉を遮るとつかんでいた俺の腕を放し
ニコニコとした表情で飲食店を探しにいってしまった。
「おーい! 悠弥こっちこっちー!」
ずらっと店舗が並んでいる区画で深愛が店の看板の前に立って
こちらに向かって大きく手を振っていた。
看板にはコーヒーとケーキの写真が載っていた。
「ねえねえ! このケーキ美味しそうじゃない?」
看板にかけられたメニューをみながら深愛は目をキラキラと輝かせながら
俺の方を見ていた。
「ってことでここでいいよね!」
「どうせ嫌だと言っても入るんだろ……」
俺は諦めの表情をしながら店の中に入っていった。
スタッフから席に案内されたのは2人席で俺が手前の席に座ると
深愛は奥の席に座る
すぐにメニューを開いた深愛は唸り声をあげていた。
「チョコムースケーキもいいけどこっちのこっちのトリプルパンケーキも食べたい」
どうやらメニューで揺らいでいるようだ。
「俺もメニューみたいんだけど……」
「あ、そうだ!」
俺の言葉で何かに気付いたのか、メニューを俺の方に向けていた
「チョコムースケーキとトリプルパンケーキどっち食べたい?」
「自分が食べたいものを選べばいいだろ」
ちなみに俺はコーヒーとサンドウイッチを注文するつもりだ
「両方頼んでシェアしようよ!」
「は?」
「さすがに2つ食べるのは無理だけど悠弥も食べるなら問題ないでしょ?」
「俺はこっちを頼むんだよ」
そう言いながら俺はメニューの注文しようとしているサンドウィッチを指差す
「それじゃ食後のデザートってことで」
深愛は1人で納得するとスタッフを呼び、チョコムースケーキとトリプルパンケーキ
モーニングサンドウィッチをセットメニューで注文をした。
「楽しみだね!」
「……俺は絶対に食べる気はないからな」
数分後俺の目の前のテーブルに注文したものが並べられた
すると深愛はバッグからスマホを取り出すと目を輝かせながら何度もシャッターを切っていた。
俺はその光景を見ながら自分が注文したサンドウイッチを黙々と食べていく。
「ねえねえ見て見て! この写真すごくよくない?」
深愛は興奮気味に自分のスマホを俺の顔に近づけた。
「そうだね」
「なんかすごく適当に答えてない?」
「いいから早く食べなよ」
俺は目についたチョコムースケーキを指差しながら話を流していった。
早く食べ終えてさっさと帰りたいんだよこっちは……
深愛はムッとした表情をしながらもチョコムースケーキにフォークをつけていく
それからお互いに何の会話もなく黙々食べていった。
俺はサンドウィッチを食べ終えるとセットでついてきたホットコーヒーを飲みながら
スマホを見ていた。
「うぅ……」
目の前からうめき声のような声が聞こえていた。
もちろん声の主は深愛である。
「これ以上はもう無理ー」
テーブルに置かれた皿をみるとチョコムースケーキもトリプルパンケーキも
半分近く残っていた。
「悠弥……食べたくなってこない?」
「全然」
俺はスマホの画面を見ながら答えた。
なんで食べれないのをわかって注文するんだか……
「あ、そうだ!」
何かいい方法が思いついたのか深愛の声に元気が戻っていた。
「悠弥、あーんして」
深愛の声と同時に口元に柔らかいものがあたった。
「な・・・・うぐ!?」
口をあけた拍子に口の中に何かが押し込められる
「どう? 美味しい?」
俺は必死に口の中に入っていったものを飲み込むと
ふわふわの食感とチョコの甘みが広がっていく
どうやらチョコムースケーキを押し込められたようだ
飲み込むとコーヒーを飲むと同時に口の周りについたチョコをおしぼりで拭く
「何するんだよ……」
「悠弥にも美味しさをシェアしようかと思って」
「しなくて結構だ……!」
怒り混じりの声をあげると俺はテーブルに置いてあったフォークを取り
チョコムースケーキを食べていく。
このままではいつまで立っても帰れないし、さっきみたいなことを
されるのはごめんだ!
「もうちょっとゆっくり食べればいいのに……」
深愛の言葉を無視して俺は食べていった。
俺は早く帰りたいんだよ!
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