第3話


 「……もう朝かよ」


ベットの横の袖机の上にある目覚ましを止めてから俺は体を起こした。


カーテンを開くと目が焼けると思えるぐらいの日差しが差し込んできた。

こんな天気のいい金曜日の朝はサボりたい気持ちになる


「っていうかサボってもいいか」


カーテンを閉めて再び布団に入ろうとしたが……


「いつまで寝てるの! 学校に遅刻しちゃうよ!」


部屋のドアをバタンと勢いよく開けて、深愛が部屋の中に入ってきた。


部屋に入るとすぐに俺の布団をひっぺ返し、カーテンを開ける。

キラキラと輝く太陽の光が俺の顔に降り注いでいく。


「眩しい……」


「目が覚めた?」


深愛はイエーイと言わんばかりの表情をしてベッドでくの字になって横たわる俺を見ていた。


「朝ごはん冷めちゃうから、早く降りてきてね」


そう告げると深愛は俺の部屋から出ていった。


「ドアを開けっ放しにするなよ……」


俺はため息をつきながら体を起こし、あくびをしながら部屋から出ていった。


俺の父親と深愛の母親が再婚し、一緒に暮らすようになってから1週間が経とうとしていた。

特にこれといった出来事もなく、今までと変わらない生活を送っていた。

……基本的に俺は部屋に籠っているだけなんだけど。


「遅い! せっかく作ったのに冷めちゃったじゃん!」


リビングに行くと制服の上にエプロン姿の深愛が怒ったまま椅子に座っていた。


テーブルにはご飯に味噌汁に目玉焼きと、定番の朝食のメニューが置かれていた。


「どうする? 温め直す?」

「面倒だからいい……」


俺はテーブルに置いてあった自分の箸をとり、冷めた朝食を食べていった。


「美味しい?」


深愛は俺が食べている間、ずっと俺の顔を見ていた。俺は黙々と食べながら頷く。


「そういえば、カズさんからの伝言だけど」


カズさんというのは父親のことだ。

佐倉 和彦だから「カズさん」だとのこと。

どうやらまだ父親と呼ぶには抵抗があるようだ


…俺も深月さんのことは母さんと呼ぶには抵抗があるけど


「私と悠弥に話があるから早めに帰るって」


父親と深月さんの帰りはいつも遅い。

早くても日付が変わる30分前。

下手をしたら朝帰ってきてシャワーと着替えを済ませてまた会社に行くこともザラにある。


「だから今日の夜はどこにも出かけるな! だって」


深愛が話す内容に俺は小さくため息をついた。


何を話すのか知らないけど、肯定もしなければ否定もするつもりはないので、勝手に決めればと思っている。


その後、俺は洗面所で歯を磨いてから部屋に戻り制服に着替えた。


着ていたパジャマを洗面所に入れるため洗面所に行こうとすると学校指定のカバンをもった深愛が玄関に向かおうとしていた。


「帰ったらやるから、パジャマいれたら洗濯機回しといて! 洗剤は入ってるから!」


深愛は必要なことを俺に伝えるとドアを開けて外に出ていった。


俺は言われた通りに洗濯機のスイッチをつけて自動設定で洗濯を開始させた。


「……行くか」


筆記用具と財布しか入っていないカバンを持って、玄関のドアを開けた。



授業中にスマホでゲームをやるか寝るかの自堕落な学校生活を過ごし家に帰宅する。

どうやら一番最初に帰ってきたのが俺だったので家には誰もいなかった。


制服からパーカーとジーパンといったラフな私服に着替てからPCの電源をつける。


外部の音を遮断するためにヘッドフォンをつけてから長年プレイしているネットゲームを起動させた。


誰もいないこの空間が一番落ち着く

1人で好きなことをして楽しむことができる俺だけの空間。


ずっとこの空間が続けばいいと思っていたが、すぐにその思いは壊されることになる。


「もう! いるなら返事をしてよ! ママとカズさん帰ってきたよ!」


もちろん声の主は深愛。

部屋に入るなり、外部の音を遮断するためにつけていたヘッドフォンを外してきた。


俺はゲームの世界から強制的に現実に戻されてしまった。


俺はイライラを顔にだしながら椅子を回転させて深愛のいる方を向く。


「……何の用?」

「朝話したでしょ? カズさんが話があるって」

「俺はパス、好きにしてくれって話しといて」


それだけ伝え、再びゲームに戻ろうとするが

深愛が椅子を自分の方に向けて俺の手を無理矢理引っ張る。


「大事な話みたいだから聞かないとだーめ!」


つけていたヘッドフォンが首に引っかかり、PCごと落ちそうになったため

慌ててヘッドフォンを外す。


「引っ張るな! わかったよ! 行けばいいんだろ……」


俺はヘッドフォンを机の上にあるスタンドにひっかけて

深愛に聞こえるような大きなため息をつきながら彼女の後ろを歩いていった。

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