第四話

 少しすると颯真そうま幽霊ゆうれいななめ前方を見上げて頭をポリポリと、かいてから静かに言った。

「決めた。俺、霊界れいかいに行くよ」

「え?」

「誰がどう考えたって、おかしいって! 世界の未来のためにがんばっている希星きららに、死んでほしいって考えるのって!」

「颯真……」


 そして颯真の幽霊は、何かを決心した表情で語った。

「俺、霊界に行って生まれ変わってくるよ。そして、希星の手伝いをするよ……」

「え?」


 颯真の幽霊は、またしても叫んだ。

「おーい、レスト! 出てきてくれ! 俺は霊界に行くことに決めたから!」


 すると颯真の幽霊の左隣にレストが、『すぅ』と現れた。そして確認した。

「本当に、霊界に行ってもいいんですか? 『心残こころのこり』は、無くなりましたか?」

「ああ、無くなったよ。だから霊界に行くよ」

「そうですか……」とレストはスーツの内側から、タブレットPCを出して操作そうさした。見ていると颯真の幽霊の後ろに、直径二メートルほどの光のうずが出てきた。


 颯真の幽霊は、「それじゃあな、希星。生まれ変わってきたら、また会おうぜ!」と言い残して光の渦に入って行った。そしてレストに聞いていた。

「なあ、レスト。生まれ変わってくることって、出来んの?」


 レストは、冷静に答えていた。

「『生まれ変わり』ですか……。確かに霊界には、『生まれ変わり』の制度もございます。ですが、そのためにはまず霊界で一年間、善行ぜんこう、つまりおこないをしていただきます。そしてそれが認められれば、『生まれ変わり希望書』を提出していただき……、まあ、詳しい説明は霊界でさせていただきます……」


 レストも光の渦に飲み込まれそうになった時、振り向いて告げた。

「あ、そうそう。一つ言い忘れていました。私、死神に関する記憶きおくは、消させていただきます。それが霊界のルールなので。ですが颯真様の幽霊とごしたことは、忘れません。どうか颯真様のことを、忘れないでいて下さい……」


 そして白い渦も、消えていった。


   ●


 十七年後、私は三十三歳になった。そしてハンバーガーを販売はんばいする、キッチンカーの中にいた。私は高校を卒業して農業大学に入学して、本格的に大豆だいずミートのハンバーグの作り方を研究した。更に大学を卒業すると大手ハンバーガーチェーンに入社して、ハンバーガーの作り方を覚えた。そして去年、会社を退職して故郷ふるさとにUターンして独立した。退職金で、キッチンカーを買って。


 売るのはもちろん、県産の大豆ミートのハンバーグを使った、ダイエット・ハンバーガーだ。パンも、県産の米粉こめこを使って作っている。レタス等も、県産の物を使った。


 更に、ポテトのジャガイモも県産。野菜ジュースの材料の、リンゴ、ニンジン、トマトも県産にして地産地消ちさんちしょうに、こだわった。また、有機栽培ゆうきさいばい、つまりオーガニックの作物を使った。もちろんハンバーガーの値段は高くなるが、薄利多売はくりたばいでがんばっている。


 こうしたこだわりがウケたのか、業績ぎょうせきは少しづつだが上がっていった。そしてちょっと一人でハンバーガーを売るのは大変になり、アルバイトをやとうことにした。


 キッチンカーのメニューの隣に、『アルバイト募集ぼしゅう』のチラシをると早速さっそく、次の日に応募があった。


 取りあえず、キッチンカーの中で面接をすることにした。だがその応募者を見て、おどろいた。週に三日はハンバーガーを買いにきてくれる、常連じょうれんさんだったからだ。履歴書を見ながら、私は聞いた。

「ふうん、君、磯村大翔いそむらひろと君っていうんだ。いつも買いにきてくれるよね、ありがとう」


 大翔君は、れくさそうに答えた。

「いや、あんたが作るハンバーガーが、美味おいしいから……」

「そう、ありがとう。で、十六歳なんだ、高校一年生なんだ?」

「はい……」


 十六歳にしては、たくましい顔つきをしているな、と思いながらも私は聞いてみた。

「ってことは今は夏休みだから、夏休みの間だけアルバイトをしたいっていうことかな?」


 大翔君は斜め前方を見上げて頭をポリポリと、かきながら答えた。

「いや、出来れば、ずっと働きたいと思っています。それは……」

「それは?」


 大翔君は私の顔を真っすぐに見つめて、答えた。

「あんたの左手のこうに、傷があるだろ?」


 私は、右手で傷をさえて聞いた。

「ええ、そうね。それが何か?」

「俺、その傷を見た時に、押さえ切れない感情がきあがったんだ。あんたの、手伝いをしたいって」と大翔君は、再び斜め前方を見上げて頭をポリポリと、かいた。


 私はそれを見て、思わず叫んでしまった。

「え? そのクセ、颯真そうまなの?! 本当に生まれ変わってきたの?!」


 大翔君はポカンとした表情で、聞いてきた。

「え? 颯真? 生まれ変わり? 一体、何のこと?」


 私は、意気込いきごんで話し出した。

「ちょっと話が長くなるけど、聞いてね。十七年前……」



                            完結

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【改良版】十七年前の夏休み 久坂裕介 @cbrate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ