第二話

 なぐられた左頬ひだりほほを、さすりながら颯真そうま幽霊ゆうれいは答えた。

「俺が死んだ時、そこの死神のレストって奴が現れて言ったんだ。俺は死んだから、霊界れいかいっていう場所に行かなきゃならないって。でも霊界に行く前に『心残こころのこり』があったら、それをさせてくれるとも言ったんだ……」

「あんたの『心残り』って何よ?」


 颯真の幽霊は、情けないが必死の表情でうったえた。

「それは希星きらら、お前も死ぬことだよ!」

「え? だから、何で私も死ななきゃならないのよ!」

「それは俺一人で霊界とやらに行くのが、怖いからだ! だから頼む希星! お前も死んで、俺と一緒に霊界とやらに行ってくれーー!」


 それを聞いてマジギレした私は、「だーかーらー、ふざけんなって言ってるでしょうーー!」と再び颯真の幽霊の顔面に、右ストレートをたたき込んだ。


 そして、言い放った。

「とにかく私は死ぬ気なんて、これっぽっちもないから! さっさと出て行けーー!」


 レストは、やれやれという表情をして颯真の幽霊を説得した。

「颯真さん、やはり希星さんは死んでいただけないようです。今夜は一旦いったん、引きましょう」

「え? それじゃあ、俺一人で霊界とやらに行くの? やだよー! 怖いよー! 希星、頼むから死んでくれよーー!」


 レストは、「それでは今夜は、これで失礼いたします。おさわがせしました」と、颯真の幽霊と共に『すぅ』と消えた。


 変な疲れ方をした私は、そのままベットに入り深い眠りに落ちた。


   ●


 次に日の朝。起きるとやはり、変な疲れが残っているような気がした。それでも、トーストパンとハムエッグと牛乳の朝食をすませると、学校へ行った。


 私は地元の県立高校の普通科に入学して、料理研究部に入部した。理由は食べることが大好きで、自分でも料理をしてみたいと思ったからだ。


 そして最近は、大豆だいずミートにハマっている。大豆ミートとは、しぼって油分をいた大豆を加工して肉の食感を再現した、加工食品だ。大豆が主成分なので高たんぱく質で、油分を抜いてあり低カロリーなので、ダイエット食品としても人気である。


 またグルテンフリーでビタミンやミネラル、食物繊維しょくもつせんいも豊富である。更に大豆ミートは、環境にも優しい。牛などの家畜かちくの、げっぷには温室効果ガスの一つであるメタンが含まれている。当然、大豆はメタンを発生させない。そして家畜を育てるには大量の水を使う。そのため大豆ミートは、水資源の節約にもなる。


 それで私は、大豆ミートを使ったハンバーグを作ることに熱中していた。現在、大豆ミートを使ったハンバーグもスーパー等で売られている。しかしやはり、自分好みのハンバーグを作りたいと思っているからだ。


 私が『調理実習室』に入るとすでに、数人の部員がいた。その中には料理研究部で友達になった、髪がセミロングの優里奈ゆりなもいた。私は、ポニーテールにしていた。


「おはよう、優里奈」

「おはよう、希星ちゃん。あれ? 今朝は何か、疲れていない?」


 私は、ため息をついて答えた。

「うん、疲れているっていうか、変なものにかれているっていうか……」


 優里奈は、心配そうな表情で聞いてきた。

「え? 憑かれている? 何それ? 大丈夫なの?」


 私は、から元気を出した。

「うん、まあね……。でも大丈夫! さあ、今日もがんばって、大豆ミートを使ったハンバーグを作るぞーー!」

「ねえ、本当に大丈夫?……」


   ●


 部活が終わった私は、家に帰りリビングで昼食を一人で食べた。両親は共働きで、私は一人っ子だからだ。二階の自分の部屋へ行くと、今日の分の夏休みの宿題をやった。


 そして夕食後、大豆ミートの作り方の本を読んだ。三十分くらい読んで少し疲れたのでユーチューブで、巡音めぐりねルカと初音はつねミクの『Jump for Joy』等を聞きながらリラックスしていた。


 すると颯真の幽霊が、『すぅ』と現れた。そして、やはり叫んだ。

「希星ーー! 今日こそ、今日こそ死んでくれーー! そして一緒に霊界へ行こうよーー!」


 私は、あきれて答えた。

「だから私は、死ぬ気は無いって言っているでしょう?」

「そんなこと言うなよーー! 死んでから三十日経つと、『心残り』があっても強制的に霊界に連れていかれるんだよーー!」

「いいんじゃない? それで?」

「もう、そんな冷たいことを言うなよーー!」


 そんなやり取りをしていると、またしてもレストが現れて、颯真の幽霊と共に『すぅ』と消えていった。

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