【改良版】十七年前の夏休み

久坂裕介

第一話

 颯真そうま幽霊ゆうれいは突然、さけんだ。

希星きらら! 頼むから、お前も死んでくれ~!」


 キレた私は、「何、言ってんのよ颯真! ふざけんな、バカーー!」と颯真の幽霊の顔面に、右ストレートをたたき込んだ。


   ●


 話は三十分前に、さかのぼる。私は夏休みの初日の夜、なかなか寝付けないでいた。しょうがないので、ベットからい出た。スマホの時計を見ると、〇時二十分だった。


 起きてはみたものの高校一年生が行うべき、夏休みの宿題の初日分は終わっている。友達の朝倉優里奈あさくらゆりなにLINEでもしてみようかなとも一瞬、考えたが深夜しんやなのでめた。


 何気なにげなく部屋の入り口から見て、左側に置いてある本棚ほんだなとテレビ、右側に置いてある机とベットを見回した。


 さて、どうしようか? と考えていると目の前にいきなり『すぅ』と誰かが現れた。


 髪はオールバックで銀縁眼鏡ぎんぶちめがねで、黒い上下のスーツを着ていた。しかし人間ではないことは、すぐに分かった。ゆかから二十センチほど、浮いていたからだ。私が混乱こんらんしていると、その誰かは落ち着いた声で自己紹介をした。

「初めまして。私はレストと申します。死神です……」

「え? し、死神?!」

「はい……」


 でも私はレストの言葉を、すぐに信じてしまった。目の前にいきなり『すぅ』と現れたし、床から二十センチほど浮いているし、深い漆黒しっこくの瞳は、とても人間のものとは思えなかったからだ。


 私は疑問を、聞いてみた。

「あ、あの、その死神さんが私に何か、用ですか?」

「はい、その前に一つ確認したいことがあります……」

「はい、何でしょうか?」

「あなたは佐久間さくま希星さんで、間違いないでしょうか?」

「はい、そうですが……」


 するとレストは満足そうにうなづいて、続けた。

「実は会っていただきたい方が、いるのです……」

「会っていただきたい方?」

「はい……」とレストが答えると同時に、レストの後ろから男の子が、ひょっこりと顔を出した。それは幼馴染おさななじみ秋葉あきば颯真だった。


 私は、おどろいた。

「な、そ、颯真! あんた、死んだんじゃなかったの?!」


 颯真はななめ前方を見上げて、頭をポリポリとかき、言った。

「あはは、俺、けて出てきちゃった……」

「え? 化けて出てきたって、あんた幽霊なの?!」

「ああ、そうなんだ。へへへ……」


   ●


 私は昨日きのうの、一学期終業式のホームルームを思い出した。男性担任だんせいたんにんが、悲痛ひつうな表情で告げた。昨日の夕方、颯真は男友達と川で遊んでいておぼれてくなったと。明日から夏休みだが、くれぐれも川の事故には気を付けるようにと、付け加えた。


 ホームルームが終わると、男子女子だんしじょし口々くちぐちに言った。

「あいつ、バカだと思っていたけど、まさかこんな死に方をするとは……」

「本当ね。最後までバカだったわね、あいつ……」


   ●


 そして現在。颯真の幽霊は突然、叫んだ。

「希星! 頼むから、お前も死んでくれ~!」


 キレた私は、「何、言ってんのよ颯真! ふざけんなバカーー!」と颯真の幽霊の顔面に、右ストレートを叩き込んだ。


 そして、当然の疑問を聞いた。

「私も死んでくれって、一体どういうことよ?!」

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