第6話 本音
「……こんなところかな」
ふうと溜息を付く。
倒れているのは、幼馴染みの千ヶ崎千草。
女の子みたいな名前だけれど、立派な男の子である。
中身は少しアレだけど……大切な友達だ。
まさか、この街で再会してあまつさえ同じ学校、同じクラスだったなんて夢にも思わなかったけど。
しかしそれも今の状況に比べれば些細な問題だ。
こいつはあたしの秘密を知ってしまった――またしても。
千草の記憶を飛ばしたのはこれが初めてではなく、通算三回目だ。
あたしが迂闊なのか、それとも千草の勘が異様に鋭いのか――多分両方な気がする
別に千草が嫌いなわけじゃない。
お昼に誘ってくれたは踊り出したくなるくらい嬉しかったし、声をかけられただけでも頭のネジが吹き飛びそうになる。
昔みたいに一緒にいられたらいいなあ、と思ってしまう。
「……だからこそダメなんだよ、千草」
一緒にいたら、千草をどうしても危険にさらしてしまう。
あたしは対魔師――人の世を犯す異形を狩るのを生業にする人間だ。
そんな、安全とはかけ離れた仕事に千草を巻き込む訳にはいかない。
いくら逆行時計という規格外の能力があっても、だ。
だからあたしは、千草に正体がバレる度に記憶を封じてきたし、関わらないように常に突き放したような態度をとり続けた。
そのはずなのに、
「なんで、いつもバレちゃうのかな……」
千草の勘は屍肉を探すハイエナのように鋭い。
その言い方だとあたしが屍肉になってしまうのだが。
いっそのこと、千草の記憶からあたしに関する記憶をごっそり消せれば一番確実なのだが、携帯電話に仕込んである即席の忘却術式で消せるのは、最大でも三日分の記憶しか消す事はできない。
ちゃんとした術式を使えば不可能ではない。
けどそれを実行すると、千草のパーソナリティーに大きな影響を与えることになると、あたしをバックアップしてくれる使用人が言っていた。
最悪、今とはまったく違う性格になってしまう可能性がある、と。
つまり、千草にとって、あたしはそれだけ大きな存在であると言う訳で……あ、やばい、口元がにやついてきた。
「いかんいかん。緊張感が足りないぞあたし」
溜息を付いて、千草の体を担ぎ上げた。
ずっしりと思い。
昔はもっと軽かったんだけどなと思ったけど、5年も経てばこれくらいは成長するか。
それなのに中身はまるで変わってないのが謎だ。
少しは成長しなさいよと思う反面、でもそれはそれで千草らしいと思うあたしなのだった。
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