短編小説。 贖罪のような。

木田りも

贖罪のような。


うん。

うん。

どうして。

どうして?

でも、でも。

私は、


悪意。

悪意。

悪意に満ち溢れた。

行こう。

行こう。

もういいよ。

まだだめ。

もういいんだよ。

まだ。

ねーんねーんころーりーよ。

まだ。

おこーろーりーよー。

始まってた?

終わってる。

終わったら一緒にいてくれる?

ずっと一緒だよ。



衝撃音。終わりからはじまる。悪意に染まった私は泣いた。泣くことが出来てしまった。不思議な力とでも言おうか。手を繋いで一緒に帰る。私は後悔した。手に渡されたのは思い出のキーホルダー。


未来を見ていたら人生が終わってしまった。人生は今日一日のことを言うらしい。そんなことを考えていたら血が舞っていた。私の身体は動かない。凍っている。流氷が漂う。人も漂う。あのオホーツク海に。海は寒い。深い。暗い。暗黒世界が広がっている。水温は1℃。水圧は……すごい。知らない世界。孤独な世界。そんなところに住んでいる魚はどのように孤独と向き合っているのか。夢の中で1度だけ深海に行ったことがある。ホウライエソにお出迎えをされた。夢は人をどこまでも連れていく。天国も地獄も、近所のスーパーも。


また、現実に帰っている。現実への帰省ラッシュはだいたい朝の6時から7時。現実には良いことは一つもない。そう断言しなければ夢の世界が良いものにはならない。現実も夢も所詮は同じ。生活に占める割合が大きいか小さいかくらいの違い。かくして私は旅立つ。旅は必ず帰るために存在する。




HRが終わるチャイムが鳴っている。大人になった後に思う。あー俺まだ学生なんだなあって。放課後、自然といつものメンバーと自然と会話して部活に行く。もうそろそろその部活も無くなるから学校が終わったら友達と遊ぶことができる。先生からはひたすらに受験やオープンキャンパスについての話をされる。せっかく遊べるチャンスなのに世の中は本当に素直に喜べない喜びでいっぱいだ。

そんな不自由さが学生にはあって、多感になっていた時に、友達と浴びたイオンに向かう時の生暖かい風。自転車を漕いでいるのに暑くて大して良い思い出でもないがよく覚えている。丸亀製麺のぶっかけうどんにかしわ天を乗っけることができる贅沢さ。それがどうしようもなく好きだった。


お酒が飲めるようになりました。あー好きってなった瞬間だった。お酒が美味い。背伸びして飲んでいた頃や未成年が調子に乗って飲んでいた頃。そんなものではない。大人がお酒をおいしいと思う当たり前の日々がやってきた。それは幸せ。それは不幸せ。


私にとって、幸福とは閉鎖だ、とNは言った。僕からしてみれば幸福こそ閉鎖だ。こそ、と、とは、の違いなだけ。模倣している、されている。幸福を求めていきある程度手に入れると逃したくないのだろう。これは僕の父の解釈である。




困った。俺の好きな人が廊下を歩いてる。何を話すべきだろうか。無難に最近暑いねとか、昨日の逃げ恥見た?、とかそんなことで良いのだろうか。でも恋してるって思われたくないし、なによりそんな気持ちで行ったらバレるから嫌だ。何人か俺がその人を好きだって知っている人が冷やかす。なんなら声をかけようとするフリをする友達をなだめながら、軽ーく、好きな人に礼をする。友達と話していて気づかない。あのさ、と喋る。振り向いた。あー。


もうずいぶんとこうして座りながら作品を作っていた気がする。カップ式の自動販売機で買ったリアルゴールドを飲みながら、昔を思い出しながら、仕事の休憩をしながら、書いている。作品とは、日々の延長線上にあり、思いつきやそれまでの人生の豊かさが書く内容を決めている。そんな大層なことは言えない。書きたい人が書けばいい。人生においてやりたいことを出来る時間はこれからは減っていく一方なのだから。そうこうしていると休憩が終わりまた戻る。




あなたは人のことを恨んだり妬んだりしたことがあるだろうか。人生においてそれは必要な時間である。しかしながら精神的にいいものではない。ここから核心に触れていきたい。もしも私があなたを恨むのだとしたらあなたは私と仲良くしてくれますか?

そう、聞いてみたい。今から恨む、と宣言された相手とどう付き合っていくか。きっと僕は関係を断つだろう。断たなければ前に進めなくなるからだ。しかしそれが関係を断ちたくない、そんな相手ならどうなる。例えば、唯一無二の親友。自分の生みの親。そして、自分自身。僕は自分を恨む。こんな自分を恨んでいる。所詮現実から逃げているだけ。深海に行きたいと言いながら深海に行くのは怖いと思ってる。何かを始めたいと言いながら一向に始めようとしない。知っていれば話が盛り上がるようなことも知ろうとしないただの道化。偽物のように笑い、大した悪意もなく人を嫌いになる。そして自分自身が見えなくなり、やがて自分を恨み始めたのだ。





新しいスーツを買い、僕は大学生になった。今までより何もかも自由になった。朝一で学校に行かなくても良い日も出来た。朝はたくさん寝て、夜は趣味に生きる。家庭を蔑ろにしても何も言われない。少しのバイトをめんどくさいと言ってサボり、怒られたらまた違うバイトを探した。何もかもが自由で輝いてはいないけど楽しかった。でもその楽しさの中のどこにも君はいなかった。



テレビのニュースを見ていると自分はなんて無知なのだろうと思い知らされる。世の中には面白いことの他に悲しいことや怒りが湧いてくることなんかも、もっともっとある。心が荒んだ人が起こした犯罪には酷く同情してしまう。許されない行為をしてしまうほど追い詰められる人を人は庇わない。と隣なんだから、子供じゃないんだから、と言う。そんなもんか、人って。人ってそんなもんか。なんて思う。まあ、思うだけ。



僕はまあまあ、もどかしい。なんだか、変われない日々。間に合わない時間。なんかそういったものたちが待ち構えているように感じる。ここからいなくならないためにメモを残した。メモには待ち合わせ場所だけを書いた。僕は日付が変わった午前1時。午後の紅茶を飲むという罪な行為をしながら君をあれからずっと待ち続けている。




おわり。




あとがき

人生は常に何かが足りないという事がある意味完成しているのかも知れないと思った。足りてしまったら僕は死を選ぶと思う。死以外を全て経験してしまうと人生はきっとつまらない。でも人生は思ってる以上にやる事が多い。一回の人生じゃ足りない。最近になってやっと生まれ変わってもまた自分になりたいと思えるようになってきた。自分のことを本当に少しだけ前よりも好きになる事ができた気がする。いや、まだそこまでは行ってないかな?(笑)


読んでくれた皆様に感謝します。

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短編小説。 贖罪のような。 木田りも @kidarimo777

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