弐ノ話 カイイの沼
第八話 迎える朝
お天道様が顔を出し、木々の間から差し込んだ温かな光が大地を照らし始める。
いく筋の柱となって降り注ぐ光に頬を擽ぐられ、地面から隆起した木の根に頭を預けて眠っていた満輝は目を覚ます。
数度瞬きする内に覚醒していく意識。
合い始めた焦点が最初に捉えたのは焚き火の燃え滓だった。
ぼんやり眺めながら、昨夜のことを思い出す。
生まれ育った擁村を出て、明李や勝由と合流し、鬼神様や生贄の話を聞いて、夕食を食べて眠った。
(ああそうか、俺今外で寝てるんだ)
どうりで胴体が寂しいわけだ。上にかける物なんて何ひとつ持ってきていない。
あれこれ思い出したり考えているうちに、さすがに木の根に預けていた頭が痛くなってきて、起きることにする。
慣れない体勢で寝たせいか。はたまた硬い地面で寝たせいか、体中が痛い。慎重に節々を伸ばしほぐす。
「お。起きたな」
不意に声を掛けられて、満輝はくるりと振り返る。
「あ、勝くん。おはよう」
「おはよう。初めての野宿はどうだった?」
尋ねる勝由の顔が心なしかウキウキしている気がして、満輝は苦笑を浮かべる。
「体中痛いし全身がちょっと寂しい」
「寂しい……ああ、布団無いもんな」
睡眠が、布団が無いだけでこうも違うとは思わなかった。布団とは偉大な物であると満輝は胸に刻む。
「にしても初めての野宿であれだけぐーすか寝れんのはすげーよ。オレなんて寝れるようになるまで結構かかったぜ」
「もしかして村出てってからずっと野宿してたの!?」
「ずっと……ではねーな。ほら、この見た目だから見つかると『子供が一人で危ないぞ』って連れてかれるんだよ。で、その家にしばらく世話になったりしてたからな」
「良かったあ……」
「不老不死の特権だよな」と勝由は笑う。良いのか悪いのか、なにはさておき能力は思わぬところで役立ったようだった。勝由が村を出てから今までずっと野宿だったらあまりにも酷すぎる。
勝由が村からいなくなったのはだいたい六年前だ。満輝は六年という長い月日を思い返す。
「勝くんが出てってから色々あったんだ」
「ああ、その辺の話聞きたいな。あいつらどうしてるかとか」
「そう! みんなの伝えなきゃいけないこといっぱいあるんだ! ……ただその前に、俺勝くんもそういう能力を持ってたってこと全然気づけなくて。ごめん。知ってたら俺も一緒に行ったのに」
「あ……! いや、それは、お、オレも言わなかったし!? つーか飯にしようぜ! 明李ももうすぐ来るだろうし!」
あれ? 今はぐらかされた?
勝由は満輝に背を向けていて、顔を見せようとはしない。
何か言いたくないことがあるんだろうか。
だったら追求するのは悪いというもの。満輝は「そうだね」と答え、立ち上がる。
体はすっかりほぐれていた。
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