第六話 明李便

 カサリ、と木の葉の擦れる音がして、満輝は顔を向けた。

 人の気配は……しない。

 風で葉が揺れただけのようだ。

 はあ、と満輝にしては珍しく落胆して溜め息を吐いた。


 両親と別れ村を出て勝由と明李を探して歩き出した満輝だったが、なかなかどうして二人の姿が見つからない。

 村の入り口には言わずもがな、周囲にもおらず、村の回りを捜索してみるものの気配を感じられず。試しに名前を呼んでみたが当然のように返事はなかった。


 まさか置いていかれた?遅すぎた?と不安に思ったが、明李の口振りからして生贄である自分を一人置いていくとは考えられない。

 どこかで入れ違ったのかもしれない。満輝はだんだんと捜索する距離を広げながら二人を探した。


 辺りは完全に闇に包まれている。夜目のきかない満輝は手元の提灯に頼るしかない。それで照らせる範囲しか捜索できないのだ。外に出たのはこれで二回目の満輝一人では限界がある。


「勝くーん! 明李ー! どこだー?」


 どんなに探しても見つからないなら向こうに見つけてもらうしかない。

 二人が満輝を置いて先に進んでいないことを願って名前を呼び続けた。

 すると、背後からガサガサと音がする。

 また風だろうか。訝しみながら振り返る満輝の三歩先くらいにすとんと人影が着地した。


「わあ!?」


 驚いて後退する満輝。

 その行動を目にした人影は肩を竦める。


「この程度でビビんな」

「その声……明李?」


 恐る恐る提灯を掲げれば、照らされた場所に見覚えのある少女が立っている。


「日が沈んでから出てくるお前の度胸には恐れ入った。……もっと早く来れなかったのか」


 じんわり向けられる不機嫌に、満輝は罪悪感に「う」と言葉を詰まらせる。何せ自分でも思っていたことだ。痛いところを付かれた。


「ご、ごめん」

「……まあ、村に留まる選択をしなくて良かった。勝由が待ってる。行くぞ」

「あ、うん……え?」


 さも当然というように肩に担がれる満輝。

 しぱしぱと目を瞬かせている間に明李は次の挙動に入る。


「荷物落とさねえようにしっかり持っておけよ」


 明李が腰を低くしたところで満輝はこれまずいなと思った。この後何が起きるかはなんとなく想像が付く。


「ちょっ、まっ……!」


 明李の足が地を蹴る。まるでバネのような跳躍力で地面から高く上がる。

 一瞬で遠ざかっていく地面に目を見開く満輝だったが、その後は明李が一息つく間もなく枝から枝へ飛び移っていくものだから、もう情けない悲鳴を上げるしかなかった。

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