第236話 いよいよ冬休みの宿題です

 冬休み二日目。

 マザーコタツは、自分の力をコントロールするための練習を王宮の庭で行っていた。

 ローラたちはそれと冬休みの宿題を組み合わせて、一石二鳥を図った。


 コタツに入った者は健康になるだけでなく、とてつもなくハイテンションになる。

 動きたくて動きたくてたまらなくなる。


 そこでローラたちは、コタツに潜り込み、エネルギーを充填し、それを宿題にぶつけることによって、通常よりも早く終わらせることができるのではと考えたのだ。


「コタツに入ってから三十分ほど立ちましたね……」


「相変わらず、自力で抜け出すのは難しいですわぁ……」


「女王陛下。メイドさん。今だよ、引っこ抜いて」


「分かったのじゃ!」


「かしこまりました」


 女王陛下とメイドさんは素早い動きでローラ、シャーロット、アンナをコタツから引っこ抜く。

 抜かれたローラたちはコタツの隣に用意した普通の机に向かい、「うぉぉぉぉっ!」とハイテンションで宿題を進める。

 そのハイテンションは三十分程度しか保たなかった。


 だから、また三十分コタツに潜り、女王陛下に引っこ抜いてもらい、三十分宿題をやるというルーチンワークだ。


「それにしても……どうしてそなたらの宿題を妾が手伝っているんじゃ? こういうのは大賢者にやらせるものではないのか?」


「何を言っているんですか陛下。学長先生が一部の生徒の宿題だけ手伝ったら、不公平じゃないですか」


「なるほど。それは正しい理屈じゃな。しかし、妾がやらねばならぬ理屈には繋がらぬぞ」


 そう文句を言いつつ、さっきからずっと女王陛下は付き合ってくれている。

 なにせ、これは冬休み宿題であると同時に、古代文明の遺物の意思でもあるのだ。

 一国の女王が手伝うに値するイベントだ。


 そもそも、どうして女王陛下が手伝うことになったかといえば。

 きっかけは、三時間ほど前のこと。

 コタツを利用して宿題のスピードアップ作戦を実行しようとしたローラたち三人だが、自力でコタツから抜け出せず、「たすけてー」と叫ぶ羽目になっていた。

 ハクが引っ張って助けようとしてくれたが、力が弱すぎて無理だった。

 そこに散歩中の女王陛下とメイドさんがやってきて、引っ張り出してくれたのだ。


 朝の九時頃から初めて、そろそろお昼。

 女王陛下もメイドさんも、ずっと手伝ってくれている。

 何て親切な人たちだろうか。

 と、ローラが感動していると。


「あ、いかんいかん。流石にもう付き合っていられんぞ。妾とてやることがあるのじゃからな」


「えー。じゃあ午後はどうやって宿題をやったらいいんですかー?」


「午後はコタツに頼らず、普通にやればいいじゃろうが。本来、宿題とはそういうものじゃ」


 女王陛下は正論を残して去って行った。


「うーん……手伝ってくれる人がいなきゃダメですね。陛下が言うとおり、午後はシャーロットさんの家にでも言って、普通にやるしかないです」


「その前に、お昼ご飯を食べにラン亭に行きたいですわ」


「ラン亭、賛成。ところでマザーコタツは午後どうするの?」


 アンナが尋ねると、


「我はここでひなたぼっこだ。ずっと土の下に眠っていたから、空が見えるだけでも嬉しいものだ」


 マザーコタツはそんなことを言い出した。

 意外とのんびりした性格らしい。

 大賢者と気が合いそうだ。


「……色々大変だったんだね」


「トラブルもありましたが、地上に出ることができてよかったですわ~~」


「マザーコタツが発掘されたのはガザード家のおかげですからね。やはりガザード家は凄いです」


「おーっほっほっ。今にわたくしが、ガザード家を再び最強の魔法使いの家系にしてみせますわー!」


 高笑いするシャーロットを先頭にして、ラン亭に向かう。

 ラーメンを食べて、午後はシャーロットの家でのんびりと宿題だ。

 宿題をしていたらシャーロットの母クリスティーナが、昨日と同じくカフェオレを持ってきてくれた。


「お父様はまた鉱山ざます。コタツがいなくなったから、工事の遅れを取り戻すざます。シャロちゃまたちも宿題を頑張るざます」


「「「はーい」」」


「ぴー」


「何なら、わたくしが宿題頑張れ踊りを踊ってあげるざます」


「お母様。邪魔しないでくださいまし」


「……シャロちゃまが反抗期ざます!」


 クリスティーナはふてくされて部屋を出て行った。

 しかしクリスティーナがいようといまいと、宿題の進みが遅いのは変わらない。


 一問解いてはハクと遊び、一問解いてはだらっとし、一問解いてはお菓子を食べる。

 そうしているうちに、外が茜色になってきた。


「凄い! 私たち、朝から夕方まで宿題していましたよ! いやぁ、真面目ですねぇ」


「午前はともかく、午後は半分以上遊んでたと思うんだけど……」


 アンナの指摘通り、半分以上遊んでいた。

 だが勉強しようという気持ちだけはあった。

 気持ちだけでも宿題に向かっていたことを褒めて欲しい。

 ローラは褒められて伸びる子なのだ。きっと。

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