第231話 コタツは絶望的な敵です!
山にはいくつか坑道が掘られていたが、アーサーの地図のおかげで、目的の坑道はすぐに分かった。
ローラたちは大岩の陰に隠れ、坑道の様子をうかがう。
その入り口の近くで、五個のコタツが飛んでいた。
だが、見えているのが五個だからといって油断はできない。
ローラたちがそうしているように、コタツもどこかに隠れている可能性がある。
「どうしましょう? 正面突破で行きますか?」
「……危険すぎない?」
「危険は確かですが、入り口はあれ一つ。悩んだところで正面から行くしかありませんわ」
「……私が囮になってコタツたちの注意を引きつけて、その間に皆が坑道に入っていくとか」
「危険すぎますわ! それではアンナさんが確実にコタツの餌食になってしまいますわ」
「そうだけど……皆がコタツを止める方法を見つければ、万事解決」
そう呟いてアンナは勝手に出て行こうとした。
が、大賢者がその後ろ髪を引っ張って岩陰に戻す。
「……学長先生、痛い」
「ごめんごめん。でも引っ張らないと囮になるつもりだったでしょ」
「でも、ほかに引っ張るべき場所があったと思う。ハゲたら学長先生の責任」
アンナは後頭部をさすりながら、不満そうに言う。
「そのくらいじゃハゲないわよー。それより、一人だけ出るなら、それは私の役目でしょ?」
「学長先生が囮になるんですか!?」
「そうそう。私が全てのコタツを引きつけて、それで全て倒しちゃうから。あなたたちは安全になったら、ゆっくり来てね」
「おおっ、学長先生ならではの大胆な作戦!」
「……その手があったか」
ローラとアンナは、その完璧な作戦に深く頷く。
だが、シャーロットはいまいち納得できないといった顔だ。
「いくらなんでも学長先生におんぶに抱っこ過ぎますわ。ここは一つ、わたくしが――」
「シャーロットさん。今はそういう向上心はいりませんから」
「そう。意地を張るのは、もうちょっと余裕があるときにやるべき。今は本格的な危機だから」
「ぴ!」
ハクにも厳しい口調で止められ、シャーロットはようやく観念した。
「分りましたわ……では学長先生。お任せしますわ……」
「任せておきなさーい」
大賢者は颯爽と大岩から飛び出していく。
それに気づいたコタツたちは、一斉に大賢者に向かっていく。
やはり五個だけではなかった。
その辺の岩の陰から、次々とコタツが現われる。
更に坑道の奥からもわらわらと飛び出してきた。
ザッと百個はいるだろうか。
それだけのコタツが大賢者を取り囲み旋回する光景は、不気味の一言。
大賢者は攻撃魔法でコタツの数を減らしながら、走ってローラたちから距離を取る。
そして炎の精霊を召喚。
大きさは人間と同じサイズだが、そこに込められた魔力は極めて膨大だ。
エミリアよりも強いかもしれない。
そんな精霊が、コタツと同じ数だけ現われ、一斉に体当たりを仕掛ける。
コタツたちは逃げ惑うが、精霊の追尾を振り切れず、瞬く間に燃え上がった。
「凄い……一瞬で全てのコタツが消し炭に! 私も練習しないと!」
「毎度のことですが、学長先生の魔法は素晴らしいですわ。魔力が凄いだけでなく、コントロールの精度が神業ですわ!」
「凄すぎて私にはよく分らなかった」
「ぴー」
大賢者の技を見て、それぞれが感想を口にする。
「うふふ。これで大丈夫かしら? でも、念には念を入れて、精霊たちは実体化したままにしておきましょう。一体だけ坑道の中に連れて行って、あとはここで見張りを――」
そう語りつつも、大賢者は周囲への警戒を怠っていなかった。
ローラたちだって、どこからコタツが現われてもいいように身構えていた。
なのに。
完全に予想外のところから。
地面を割って、大賢者の真下からコタツが現われたのだ。
「「「学長先生っ!」」」
ローラたちは叫ぶ。
これが普通の攻撃だったら、いかに不意打ちであろうと、そして直撃であろうと心配することはない。
だが、コタツに包まれるというのは、攻撃とはまた違うのだ。
傷つけてくるどころか、誰もが恍惚とした顔になり眠ってしまう。
ある意味、攻撃の真逆。
大賢者はそんなコタツに飲み込まれ――次の瞬間、炎の精霊が全て消えてしまった。
「ああ~~コタツって気持ちいいわぁ~~」
そしてコタツの中から、幸せそうな大賢者の声がした。
人類は希望を失った。
かつてない絶望が押し寄せる。
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