第230話 油断できません
「このコタツ。壊しちゃダメなの?」
アンナが疑問を口にする。
「私も破壊を試みたが、力加減が難しい。半端な力では傷一つつかないし、あまり強い攻撃魔法を使うと、取り込まれた者まで傷つけてしまいそうで……」
「なるほど。でも剣ならいけるかもしれない」
アンナは背負っていた二本の魔法剣――
そして同時にコタツへと振り下ろす。
見とれるほど美しい斬撃だった。だがコタツに跳ね返されてしまう。
「……本当に堅い。もっと強い斬撃だと中の人まで斬っちゃいそうだし」
「学長先生。何かいいアイデアはありませんか?」
「うーん……これって町の人全員が取り込まれてるんでしょ? 助ける方法を見つけても、一人ずつやってたら時間がかかりすぎるわ。アーサーさん。コタツがどこから現われたか分かるかしら?」
「ええ。新しく掘った坑道の奥からです。案内しましょう」
アーサーがそう言った瞬間。
山のほうから、コタツが飛来してきた。
その数、二十個。
「迎撃です!」
「お任せですわ!」
ローラたちは攻撃魔法を放つ。アンナもケラウノスから電撃を飛ばしてコタツを攻撃する。
今回は中に人がいない。手加減せず、思いっきり攻撃できる。
大賢者は魔力の放出が桁違いに素早く、光の弾で十個のコタツを消し飛ばしてしまった。
ローラも負けじと火球で六個のコタツを爆散させた。
そして残る四個には、シャーロットとアーサーの攻撃魔法。アンナの電撃。そしてハクの炎の息が襲いかかる。
どれも強力な一撃だった。
だが、四個のコタツは表面を焦がしながらも、速度を保ったまま向かってくるではないか。
「そんな、わたくしの魔法が効かないなんて……!」
「へえっ、流石は古代文明の遺物ね!」
大賢者は十発の強力な攻撃魔法を放ったばかりなのに、更に続けて四発撃った。
それで全てのコタツを撃墜したかに思えた。が、一つのコタツが回避行動を取り、突き進んでくる。
「てりゃっ!」
大賢者が撃ち漏らしたコタツに、ローラが火球を放つ。
直撃。爆散。
「ローラちゃん、ナイスフォローよ。ありがとう」
「えへへー。でも私が間に合わなくても、学長先生はもう一発撃てましたよね?」
「撃てたけど、疲れちゃうから」
それはそうだろう。
せっかく大人数で来たのだから、大賢者にばかり働かせないで、ローラたちで負担を軽減してあげるのだ。
「シャーロット、危ない!」
コタツの一団を倒し、気が緩んだそのとき。
アーサーが叫んでシャーロットを突き飛ばした。
瞬間、さっきのコタツとは別方向からコタツが一つ飛来し、アーサーを包み込んでしまった。
「なっ! お父様……お父様!」
シャーロットはコタツにすがりつく。
その様子をローラたちは愕然と見つめるしかない。
ここが敵陣のまっただ中だというのに。
見えている敵を倒しただけで安心してしまった。
完全にローラたちのミス。
そんな中、アーサーだけが新たなコタツに気づき、娘を守ったのだ。
「シャーロット……私はもうダメだ……この地図をお前に託す……」
「そんな……お父様、コタツから這い出してくださいまし!」
「無理だ……気持ちよすぎてあらがえない……こうやって腕を出すのも本当は嫌なんだ……さあ、早く地図を……」
「うぅ……お父様……」
シャーロットは涙を流しながら差し出された地図を受け取る。
するとアーサーはすぐに腕を引っ込め、とろーんと幸せそうな顔になる。
「ああ……コタツとはこんなにも素晴らしいものなのか……シャーロット……お前も早くコタツに取り込まれるといい……恐れることは何もない」
「お父様!? 何を仰いますの! わたくしたちはコタツに取り込まれた人々を救いに来たというのに……!」
シャーロットは泣き叫ぶ。
しかしアーサーはもう何も答えない。
静かにまぶたを閉じ、すやぁと眠るだけだ。
「ごめんなさいシャーロットちゃん……私がもっとしっかりしていれば……」
「私もです……コタツの気配をまるで感じることができませんでした……」
「モンスターなら殺気があるのに。コタツは気配もなく忍び寄ってくる……でもシャーロットのお父さんだけは気がついた」
「わたくしたちが油断していた中、お父様だけは周囲を見回していたのですわ……お父様のためにも、コタツを止める方法を見つけるのですわ……!」
シャーロットは涙を拭って立ち上がる。
その表情に悲壮感はなかった。絶対に父親を助けるのだという決意だけがあった。
それを見てローラたちも気を引き締める。
まずはアーサーから託された地図に従い、コタツが現われたという坑道に向かうのだ。
「あのコタツがもし全世界に広まったら……人類は破滅です!」
もう一瞬たりとも油断は許されない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます