第222話 皆にありがとうです
「えーっと……ローラ・エドモンズです。今日は私の十歳の誕生日に集まってくれて、本当にありがとうございます。シャーロットさんに誕生日パーティーをやって欲しいとお願いしたら、こんな豪華なパーティーになっちゃいました。
パーティーを準備してくれた皆さん……どのくらいの人数が関わってくれたのか分かりませんが、ありがとうございます。
クラスの皆が放課後になるとすぐいなくなっていたのは、今日のためだったんですよね? 私は皆の誕生日に何もしていないのに……ありがとうございます! 来年は私にも何かさせてください。流石にここまで豪華にできないと思いますが……。
女王陛下もこの場所を貸してくれて、ありがとうございます。こんな凄い誕生日は初めてです。陛下は早く元の姿に戻れるといいですね。でも私としては、ちっちゃいもの仲間として、もう少しそのままの陛下でいて欲しいです。
お父さん、お母さん。わざわざミーレベルンの町から来てくれてありがとう。お父さんとお母さんが私を産んで育ててくれたから、私は今ここに立っています。お父さんとお母さんが私の親で本当によかったです。冬休みにまた遊びに行くね。でも夏休みみたいなことにならないよう、宿題を終わらせてからにします。
学長先生とエミリア先生は、いつも色々なことを教えてくれてありがとうございます。いつも心配をかけてますが、もう十歳になったので、九歳のときよりは落ち着くと思います。大丈夫です、はい。
ミサキさんたち獣人の皆も、私にハクを託してくれてありがとうございます。私とハクは仲良しです。立派な神獣に育ててみせるので安心してください。あとミサキさんの尻尾をいつもモフモフしてごめんなさい。今後は控えるつもりなので、ミサキさんも尻尾で私を誘惑しないよう気をつけてください。
ランさんとニーナさん、いつも美味しいラーメンを作ってくれてありがとうございます。冒険者ラーメンを食べると元気百倍になります。でも全部マシマシを食べると太ってしまうので、次にエミリア先生が全部マシマシを注文しても断ってあげてください。
孤児院の人たちも来てくれてありがとうございます。ワイン造り、来年はちゃんとできるといいですね。私はまだお酒は飲めませんが、大人になったらぜひ飲んでみたいです。
貴族の皆さんは、今日がはじめましての人ばかりなのに、温かい言葉をかけてくれてありがとうございます。これからもっと仲良くなりましょう。このパーティーをきっかけに、皆が友達になれたらいいと思います。
ハク。私のところに流れ着いて来てくれて、ありがとうございます。川で拾った卵からハクが出てきて私から離れなくなったときはどうなっちゃうのかと心配でしたが、今はハクがいない生活は考えられません。私の頭の上がすっかり定位置ですね。でも、ちゃんと自分で飛ばないとまた太っちゃいますよ?
そしてシャーロットさん。アンナさん。
王都に来てから沢山の友達ができました。皆、大切な友達です。でもやっぱり、二人が一番の親友です。シャーロットさんとアンナさんがいるおかげで、とても楽しい学園生活です。これからもずっと仲良くしてください! そして卒業したら三人で……いえ、ハクも入れて三人と一匹で冒険者をしましょう!」
ローラは皆の顔を見ながら、浮かんできた言葉を並べた。
そして最後はやはりシャーロットとアンナだ。
ここにいる全員がローラの誕生日を祝うために集まってくれたのに、どうしても他の人たちに向けた言葉よりも力が入ってしまった。
これはあまりよくないことかもしれない。
けれど、非難めいた視線は誰も向けてこなかった。
それどころか、大きな拍手が巻き起こる。
皆が笑顔だった。
ただ、ブルーノとシャーロットは、大粒の涙を流しながら拍手している。
ドーラとアンナも少し涙ぐんでいた。
別に悲しくて泣いているわけではないだろうから、ローラの言葉に何か感じ入るものがあったのだろう。
いつもお世話になっているから、皆にありがとうを言っただけなのだが。
しかし泣いている四人を見ていたら、ローラも何だか、涙が溢れてきた。
「えっと、その……お父さんとお母さんには、いくら感謝してもしたりないし……シャーロットさんとアンナさんも……私、皆のことが大好きで……ずっと皆と一緒にいたいです……う、うぇぇぇぇん!」
「ローラ! 皆の前でこんなにしっかりした挨拶ができるなんて……立派になったなローラ! お父さんは嬉しいぞ……うぉぉぉぉんっ!」
「ローラさん、わたくしもローラさんと未来永劫ずっと一緒にいたいですわ! ああ、ローラさん、ローラさぁぁぁんっ!」
三人で大声を上げ、わんわんと泣きじゃくる。
ブルーノをドーラが、シャーロットをアンナが慰めている。
しかしローラのそばにはハクしかいなかった。ハクがいくら「ぴー」と鳴いても、何を言っているのか分からないし、小さすぎてしがみつくわけにもいかない。
「どうしてそなたら泣いておるのじゃ……収集がつかなくなってきたから、とりあえず乾杯じゃ。みな、グラスを持ったか? ほれ、ローラ。ブドウジュースじゃ。泣き止むのじゃ」
見かねた女王陛下が壇に登り、ローラにグラスを手渡してきた。
他の皆にも、メイドさんたちがグラスを配り歩いている。
きっと子供はブドウジュースで、大人はワインなのだろう。
「うむ。グラスが行き渡ったな。では、ローラの十歳の誕生日に乾杯じゃ!」
「か、かんぱーいっ!」
女王陛下が合図をしてくれたので、ローラは涙を拭ってグラスを掲げた。
すると。
「「「「乾杯!」」」」
皆も一斉にグラスを掲げてくれた。
そしてグラスの中身を飲む。
ごくごく。
ブドウジュースが大変美味しい。
ローラは泣いていたはずだが、ついニッコリしてしまう。
「ぴー」
「あ、ハクも飲みたいですか? どうぞ」
グラスを高い位置まで持ち上げると、頭上のハクが首を伸ばしてブドウジュースをペロペロ舐めた。
「ぴ!」
「美味しいですよねぇ」
「本当にブドウジュースで泣き止んでしまったのじゃ……素直な奴じゃなぁ。さて、あとは適当に飲み食いするがよい。シャーロットたちが用意した料理の他に、妾もささやかながら提供させてもらったぞ」
「おお、ありがとうございます。オムレツはありますか?」
「そなたの誕生日じゃ。オムレツがないわけがなかろう。立食パーティーじゃ。好きなだけ食べてよいぞ」
「わーい」
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