第219話 花火が凄いです

「おお、ついに! それにしても、エミリア先生も私の誕生日をお祝いしてくれるんですね」


「シャーロットさんに招待状をもらったからね。それにしても……凄いところを会場に選んだものね……」


「エミリア先生! 会場はまたローラさんに秘密ですわ!」


「あ、そうだったわね。ごめんなさい」


 エミリアがシャーロットに怒られて謝るという、世にも珍しいことが起きた。


「まだ秘密なんですかぁ?」


「これから案内いたしますわ。さあ、わたくしに付いてくるがいいですわ。おーっほっほっほっ!」


「またしてもシャーロットさんが悪役に!」


 ローラは高笑いするシャーロットの後ろを追いかける。

 するとエミリアやクラスメイトたちもゾロゾロとくっついてきた。

 これだけの人数が入る会場を用意するだけでも大変だっただろうに。

 この一週間、シャーロットたちがしてきた努力を想像し、ローラはニヤニヤする。


「あれ。ところでアンナさんや他の皆さんは?」


「アンナさんたちとは会場で合流予定ですわ。皆さん、会場でローラさんを待っているはずですわ」


「そうなんですか! えへへ、去年まではお父さんとお母さんだけだったので、友達にお祝いしてもらうのは初めてです」


 そしてローラたちは王都の中心部に向かっていく。

 中心部というか、本当の中心に来てしまった。

 それは地理的な意味だけでなく、この国の行政の中心でもある。

 すなわち、王宮。


「……はて。王宮と私の誕生日に何の関係が」


「うふふ。ここが会場ですわぁ」


 シャーロットは門の前で自慢げに宣言した。


「え」


 しかしローラはすぐに意味を飲み込むことができず、口をポカンと開けてしまう。


「素敵な反応ですわ、ローラさん。頑張ったかいがありますわ。ですが、まだまだこれからですわ!」


 門番はローラたちを見て止めるどころか、門を開いてくれた。

 どうやら、本気でローラの誕生日パーティーを王宮でやるらしい。

 派手になるだろうとは予想していたが、まさかこうくるとは。


「ローラちゃんは、ここでシャーロットと一緒に待っててねー」


 クラスメイトのケイトがそう言って、エミリアや他のクラスメイトを引き連れて、一足先に門の奥に進んでいく。


 ローラはいまだ、どう反応してよいか分からず「ほへぇ……」と間の抜けた声を出し、シャーロットの横に突っ立っていた。


「……さて。そろそろですわ。行きますわよ、ローラさん」


「は、はい!」


 シャーロットに手を引かれたローラは、王宮の敷地に足を踏み入れた。

 その瞬間。

 青かった空が、星空に変化した。

 それと同時に、王宮の上空からバンッバンッと音が響いた。

 花火だ。

 一発や二発ではない。

 色とりどりの花火が、次から次へと王宮の庭から夜空に向かって打ち上げられているのだ。


「うわぁ……綺麗です……」


「ぴー!」


 ローラはつい立ち止まって見とれてしまう。ハクもローラの頭の上で興奮した声を出している。

 だが、変だ。

 時間はまだ四時にもなっていない。現に、さっきまでは空は青かった。

 なのに王宮の敷地に一歩入った瞬間、夜になったのだ。


「これは魔法……でも昼を夜にしちゃうような魔法を使えるのは……さては学長先生の仕業ですね!」


「そうですわ。そしてあの花火は、魔法学科の皆さんがこの一週間、練習してきた魔法ですわ! ローラさんのために千発連続発射ですわ!」


「おおっ! 早く帰っていると思ったら、これを練習していたんですね……凄く嬉しいです!」


「あとで皆さんにお礼を言って差し上げるといいですわ。さあ、この花火の中を、大ホールまで歩いて行きますわよ」


「はい!」


 空を埋め尽くすように広がる花火の下、ローラはシャーロットと一緒に歩く。

 まだパーティーが始まってもいないのにこんなにも驚かされてしまった。

 実際のパーティーは、どれほど凄いのだろう。


「あちらが大ホールですわ」


 大ホールは、いつも使っている正面玄関とは別の入り口が付いていて、直接入ることができるようだ。

 入り口の前には、クラスメイトが勢揃いしており、空に向かって魔法で花火を打ちまくっていた。


「あ、ローラちゃんが来たわ」


 と、学級委員長が最初にこちらに気づいた。


「みんな、打ち方やめー」


 ケイトが合図して、花火を止める。

 そしてポケットからクラッカーを取り出し、一斉にパーンと鳴らした。


「ローラちゃん、お誕生日おめでとー!」


 クラスメイトたちが一斉に叫ぶ。

 よく見ると、その中にアンナも混ざっていた。

 更に、ローラの真横でもクラッカーが鳴った。

 シャーロットだ。


「誕生日、おめでとうございます、ローラさん!」


「あ、ちょっとシャーロット、ズルくなーい? 一人だけタイミングずらして目立ってるー!」


 ケイトが文句を言うが、シャーロットは涼しい顔だ。


「うふふ。わざとではありませんわ。たまたまですわ」


「いや。今のは絶対にわざと。ケラウノス……やれ」


 アンナが目を細め、雷の魔法剣に命令する。

 するとシャーロットに雷が落ちてきた。


「あばばばばばば!」


 感電したシャーロットは、ぷすぷすと煙を上げながら倒れる。


「アンナちゃん、すごーい。戦士学科なのに、攻撃魔法使えるんだー」


 ケイトはシャーロットを心配する素振りも見せない。

 他の生徒たちも同じだ。

 魔法学科一年の生徒にとって、シャーロットがこんな感じになるのは日常なのだ。

 それよりも全員、アンナの魔法剣に興味津々だった。


「……この剣のおかげ」


「浮遊宝物庫で手に入れたんだよね? いいなー、見たいなー」


「……今度ね」


 魔法学科の生徒に取り囲まれたアンナは、照れくさそうに頬をポリポリかく。

 なかなか親しげだ。

 ローラの誕生日の準備を通じて、仲良くなったのだろうか。


「ひ、酷いですわ! いきなり雷を落とすなんて……わたくしでなければ死んでいましたわ!」


 シャーロットはむくりと起き上がるなり、目をつり上げて怒り出す。


「シャーロットなら大丈夫だって信頼してたからやった」


「アンナさん……ふふ……確かにわたくしなら不意の雷でも、無意識に張り巡らせている防御結界で致命傷を防ぐことができますわ。それを見抜くとは、流石はアンナさんですわ!」


 怒っていたはずのシャーロットは一瞬にして機嫌が直り、むしろ嬉しそうに頬を赤くした。

 相変わらず、ちょろい人である。


「ローラ。中に入ろう。皆が待ちわびてる」


「はい! 私、すでに嬉しくてたまらないんですが、まだ何かあるんですね!?」


「あるある。沢山ある」


 アンナは手招きしながら言う。

 どうやら誕生日パーティーは、まだまだ序章らしい。

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