第218話 十二月二十五日です

 いよいよ、十二月二十五日になった。

 シャーロットが誕生日パーティーを開くと言ってくれた日から、ローラは少々寂しい一週間を過ごしてきた。

 皆が誕生日パーティーの準備をしているのが分かっていても、放課後に遊んでもらえないのは辛かった。


 シャーロットだけでなく、アンナもミサキも放課後になるとどこかに行ってしまう。

 仕方がないのでハクと一緒にラン亭に行ったら、これまた『十二月二十五日までは昼だけ営業』という張り紙があった。

 どうやらランとニーナも、ローラの誕生日パーティーを手伝ってくれているらしい。

 そのこと自体はとても嬉しい。

 張り紙を見て、ローラはニヤニヤしてしまった。


 ニヤニヤしつつ、やはり遊び相手がいないのは悲しい。

 ハクと空中散歩したり、図書室で本を読んだり、剣の素振りをしたりと、頑張って時間を潰す。

 たまには別の人たちと遊ぶのもいいかもしれないと、クラスメイトに声をかけようとしたが、放課後になると全員、アッという間に教室から消えてしまった。

 もしかしたら、クラスの皆がローラの誕生日に向けて準備しているのかもしれない。

 そう思ったローラは、またニヤニヤした。


 シャーロットが主催しているからには、きっと豪華な誕生日パーティーなのだろう。

 別に豪華なパーティーを望んだわけではないが、それでもどんなパーティーなのか楽しみになってくる。


「そういうことなら、私もこの孤独に耐えましょう。孤独を乗り越えた先に、楽しいことが待っていると分かれば、耐えるのは簡単な話です」


「ぴー」


「ハクが一緒なので、耐えるのは楽ちんです」


「ぴ!」


 というわけでローラは、十二月二十五日まで、ハクと二人で過ごした。

 もっとも、夜になればシャーロットもアンナも寮に帰ってきて、一緒にお風呂に入るから、孤独な時間はほんの数時間でしかないのだが。


「シャーロットさん。どんなパーティーになるんですか?」


「うふふ。それは内緒ですわ」


「むむ……アンナさん。こっそり教えてください」


「秘密」


「むー。気になります!」


 大浴場で聞いてみても、こんな調子だった。

 そんな気になる誕生日パーティーの詳細が、いよいよ分かるのだ。

 ローラは目覚めた瞬間から、シャーロットに「誕生日ですよ、誕生日ですよ」と語りかける。


「分かっていますわ。パーティー会場には放課後に案内いたしますから、それまで我慢してくださいまし」


「むむむ。まだ引っ張るんですね。さては、よほどパーティーに自信がありますね!」


「うふふ。絶対にローラさんの度肝を抜きますわ」


「なんと。いいんですか、そんなこと言って。ハードル上がっちゃいましたよ?」


「どんどん上げるがよろしいですわ。放課後まで色々想像してワクワクするがいいですわ! おーっほっほっほっ!」


「シャーロットさんが悪役みたいなことを言っています……!」


「ぴー」


 そして学食で朝食を食べてから教室に行く。

 今日は二学期最後の日なので、通常の授業は午前中だけだ。

 午後はまず、エミリアが皆に宿題の問題集を配るところから始まる。


「楽しい誕生日なのに、どうして冬休みの宿題なんて渡されるんでしょうか……」


「別にローラさんの誕生日だから配ってるんじゃないわ。終業式だからよ。夏休みのときみたいに最後にまとめてやるんじゃなくて、ちゃんと計画的にやってね?」


「はーい……」


 ローラは問題集を見つめながら、大きなため息をついた。


「ふふ。落ち込むローラさんもお可愛らしいですわ」


「ちょっとシャーロットさん。人ごとみたいに言ってるけど、あなたも夏休み、宿題を忘れていたでしょう」


「も、もちろん、冬休みはしっかりとやりますわ!」


「えへへ。慌てるシャーロットさんがお可愛らしいです」


 宿題を受け取ってから、全生徒が体育館に集合する。

 そして学長である大賢者のお言葉を聞く。


「明日から冬休み。どう過ごしてもいいけど、あなたたちは若いんだから、三日連続で寝たりしたら時間がもったいないわよ。いっぱい遊び回ってねー」


 三日連続で寝るのは大賢者くらいだ。

 言われるまでもなく、遊びまくるつもりだ。

 それにしても、そんなに遊んで欲しいなら、宿題なんて出さなければいいのに。

 学長先生が直々に遊べと言っていたので宿題には手をつけませんでした――という論法で学校側と対決しようかとローラは一瞬企んだ。

 しかし、あまり勝ち目がなさそうな論法なので、やめることにした。


 それから教室に帰り、担任のエミリアの挨拶で二学期を終える。


「くれぐれも羽目を外しすぎないですね。分かってるわよね? ローラさん、シャーロットさん。分かってるわよね?」


「分かってますってば! 私たちに言わないで、クラス全体に言ってください!」


「差別はよろしくありませんわよ、エミリア先生」


「冬休みの間、一つもトラブルを起こすこともなく、巻き込まれることもなく過ごせたら、考えてあげるわ」


「それは……」


「難しいですわ……」


「何でよ!」


 何で、と言われても。

 トラブルのほうからやってくるのだから仕方ない。

 そもそも、大賢者が学長をやっている学校で働いているくせに、心の平穏を求めようとしているエミリアのほうが間違っているのではないか?


 とはいえ、夏休みの宿題をやらなかったのはローラたちが百パーセント悪いし、訓練場が木っ端微塵になったのもローラたちのせいだ。

 トラブルのほうからやってくるのは確かだが、こうして考えると、回避できたトラブルも結構あったのだなぁと今更ながら反省するローラであった。


「それじゃあ、お疲れ様。学校はお終い。次は……ローラさんの誕生日パーティーの会場に移動するわよ」


 エミリアがそう言うと、クラスメイトたちが「いえーい!」とテンション高めに立ち上がった。

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