第214話 秘密の作戦会議

「ローラさんの誕生日パーティーの計画を立てるので、ローラさん抜きですわ。今日から一週間、ローラさんは仲間はずれですわ!」


「なんと。こんな友情たっぷりの仲間はずれ宣言をされるとは。では楽しみにしています!」


 ローラの了解を取ったシャーロットは、放課後、アンナとミサキを連れてラン亭に行き、ラーメンをすすりながら作戦会議を始めた。


「やはりパーティーはゴージャスなのがよろしいですわ。大きな会場を借りて、沢山の人を呼ぶのですわ」


「ゴージャスなのはいいけど……関係ない人を呼んでもローラが困るだけだよ?」


「無関係な人は呼びませんわ。クラスメイトにアンナさん、ミサキさん。ニーナさんにランさん。ローラさんのご両親。エミリア先生に学長先生。それと……」


「オイセ村の獣人も呼ぶであります!」


「孤児院の子たちも呼んでいい?」


「もちろんですわ! ほら、これだけでも結構な大所帯ですわ。会場選びが大変ですわ」


「確かに。数百人規模になってしまった。教会でも教室でも狭い」


 アンナはチャーシューを箸でつかみながら呟く。


「もっと少人数ならラン亭を貸してもよかったアルが。その規模だと入りきらないアルなぁ」


「って言うか、私も呼んでくれるんだ……友達の誕生パーティーとか、初めてなんだけど……」


 ニーナは赤面し、モジモジしながら語る。


「ニーナさんもわたくしたちの立派な友達。呼ばないわけがありませんわ」


「そ、そうなんだ……ありがとう……」


 友達と言われ、ニーナは戸惑いがちに、しかし、とても嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべる。

 それが狂おしいほどに愛らしくて――シャーロットの理性は破壊された。


「あああああああっ! ニーナさんお可愛らしいですわぁぁぁぁぁ!」


「わっ! ちょっとやめてよ! そういうのはローラだけにしておきなさいよ!」


「おお、シャーロット殿が獣のような速さでニーナ殿に抱きついたであります」


「獣人のミサキちゃんがそう言うなら、本当に獣並の速さアルなぁ」


「呑気なこと言ってないで助けてよ!」


 ニーナは嫌がっているが、シャーロットは構わず頬ずりする。

 嫌よ嫌よも好きのうち、という言葉がある。

 こうして拒絶するふりをしていても、ニーナだって本当は嬉しいはずだ。


「シャーロット。ニーナが本気で嫌そうな顔をしてるから、やめてあげて」


「なっ! 本気で嫌でしたの!?」


「最初から、そう言ってるじゃない!」


 ニーナは両腕を使い、シャーロットをぐいっと突き放す。

 照れ隠しではない。

 精神的にも突き放された。


「そ、そんな……ニーナさん、わたくしをお嫌いにならないでくださいまし……」


「いや、嫌いとかじゃなくて……」


「シャーロット。そんなほっぺスリスリとかムニムニとかに付き合ってくれるのは、ローラくらいだよ。普通は本気で嫌がるから」


「やはりローラさんは偉大ですわぁ」


「……私が偉大じゃなくて悪かったわね」


 ニーナはムスッとした顔でテーブルに頬杖をつく。


「べ、別にニーナさんを下げているわけではありませんわ……そのツンとした表情も……お可愛らしいですわぁぁ!」


「シャーロット。落ち着いて。シャーロット」


「はっ! またしても我を忘れるところでしたわ」


「……私、席を外そっか? そのほうが話が進むと思うんだけど」


 ニーナが呆れた声を出す。


「いけませんわ。ローラさんの誕生日パーティーは、皆さんで企画するのですわ。特にニーナさんは友達の誕生日パーティーに初めて出るのでしょう? なら、妥協してはいけませんわ! わたくし、ニーナさんに抱きつくのを我慢いたします! ですから!」


「そこまで決意を固めなくてもいいと思うんだけど……分かったわ」


「アンナさん。もしわたくしがまた正気を失ったら……電撃を!」


「分かった。雷の魔法剣ケラウノスでしびれさせる」


 アンナはテーブルに立てかけていた魔法剣の片方に手を添える。

 すると剣から「ブゥゥゥゥン」と低音が響く。

 古代文明の魔法剣であるケラウノスは、自分の意思を持っており、たまにこうして音を出す。

 それはマスターであるアンナには、意味のある声として聞こえるらしい。


「大電流をお見舞いするってケラウノスが張り切ってる」


「……ドンとこいですわ!」


「いやいや。大げさすぎるでしょ、あなたたち。いっつもこんなノリなの? ローラも大変ね……」


「ロラえもん殿は起きてる間だけでなく、寝てるときもシャーロット殿の抱き枕になっているでありますからなぁ。ご苦労様であります」


「抱き枕かぁ……暑苦しそう……」


「ふふ。ニーナさんはお可愛らしいですが、抱き枕適性はローラさんに劣るようですわね」


「特に欲しくもない適性ね」


 ニーナは冷たく言い放つ。

 何でもノッてくれるローラとは大違いだ。

 ローラが太陽なら、ニーナは月。

 そのクールな感じが、それはそれで素晴らしい――。


「ニーナが危ない。ケラウノス!」


「あばばばばばばばば!」


 シャーロットが行動を起こすより早く、激しい電撃がシャーロットを襲う。


「ちょ! 火花が出てるんですけど!?」


「ご心配には及びませんわニーナさん……この程度の電撃……ギルドレア冒険者学園では日常茶飯事ですわ!」


「ほんとに!?」


「冒険者学園は凄いところアル!」


 ラーメン屋の二人は目を丸くして感心した声を上げる。

 それに気をよくしたシャーロットは、ふふんと胸を反らす。


「言うほど日常茶飯事でありますか?」


「多分、私たちだけだと思う」


「そんなことはありませんわ。わたくしも詳しくはありませんが、皆さん、電撃やら氷撃やらを飛ばして、激しく自主練しているはずですわ。まあ、それはさておき。随分と脱線してしまいましたが、ローラさんの誕生日パーティーの会場をどうするか考えるのですわ」


「シャーロットの実家は使えない?」


「わたくしの実家は学長先生の家と同じくらいの大きさですわ。いくら何でも、オイセ村の獣人全てを入れることはできませんわ」


「シャーロット殿。オイセ村の獣人を無理に呼ばなくてもいいでありますよ。私が代表して出席するであります。皆にはオイセ村から祝福してもらうであります」


「駄目ですわ! ローラさんの生誕祭……それも記念すべき十歳の誕生日なのですから、縁とゆかりがある人は片っ端からですわ!」


「そう言えば、大賢者さんに相談したアルか? あの人なら、色んなコネを使って広い会場を用意してくれそうアル」


「困ったときの学長先生。いつものパターンになってきた」


「いつものパターンですと、目的を達成するためにドタバタ劇が始まりますわ」


「シャーロット殿がドタバタしているのはいつものことであります。それに大賢者殿が起こす騒動に、私はなかなか参加できないであります。いい機会なので参加してみたいであります」


「ミサキさん。そんな軽い気持ちで学長先生に近づいて、ヤケドしても知りませんわよ?」


「獣人ミサキはそんなことでは臆さないでありますよ!」


 ミサキの瞳で気合いの炎が燃えていた。

 一方、ラーメン屋コンビは難しい顔になり、「うーん」と唸る。


「自分で提案しておいて何アルが、ヤケドは嫌アルよ……」


「言っておくけど、ランさんは正真正銘、普通の人間なのよ。あなたたちのノリにはついていけないんだからね」


 と、吸血鬼のニーナが苦言をていする。


「だ、大丈夫ですわ。学長先生は常識外れの方ですが……一般の方にケガをさせたりはしないはずですわ」


「分かったアル……シャーロットちゃんを信じて、大賢者さんに相談アル!」


 これで方針が固まった。

 他力本願だが、社会的な力を持たないメンバーで語り合ってもラチがあかない。

 もちろん、ローラは小さなパーティーでも喜んでくれるだろう。

 だが、ローラは必ずスケールの大きな冒険者になる人間だ。

 今の時点でもスケールの大きな抱き枕だ。

 体は小さいが、内に秘めた可能性は、まさに宇宙。

 ならば、スケールが大きくてゴージャスな誕生日パーティーを開くのが当然。


 ――ふふふ。ローラさんの度肝を抜くようなパーティーにしてみせますわ。

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