第212話 神獣サンドイッチの完成です
お昼休みのうちに、アンナとミサキにもハクの寝床問題を話しておいた。
問題解決のためのプランを授業中に考え、放課後に食堂で語り合うのだ。
もっとも授業中は授業を受けているので、それほど沢山のアイデアは出てこない。
「結局のところ、ハク専用のベッドが必要だと思う」
「まあ、それしかないですよね」
「そうなると、ハク様専用の布団も必要であります。ハク様はしばらく小さいままだと思うので、おおげさな物は必要ないであります」
「なるほど。シャーロットさんの実家に、赤ん坊ドラゴン用のベッドが余ってたりしませんか?」
「ローラさん……わたくしの実家を何だと思っていますの……?」
「お金持ち!」
「確かに裕福なほうですが、だからといって何でもあるわけではありませんわ!」
「お金持ちも意外と普通なんですね」
「まあ、神獣を頭に乗せているローラさんよりは普通ですわ」
「ぴー」
ローラの頭の上で、ハクが翼を広げた。
そんな仕草をされても、まったく重くない。やはりスリムなのはいいことだ。
「ハクのベッドは、カゴとかがいいと思う。木で編んでるやつ」
アンナがぽつりと提案した。
「脱衣場にあるアレみたいなのですか?」
「そう、それ」
「確かに、ハク様に丁度よさそうであります」
「文字通り、羽を広げる余裕もありそうですわ」
満場一致でベッドが決まった。早速、雑貨屋さんに買いに行く。
前に着ぐるみパジャマを買った店だ。
パジャレンジャー発祥の地である。
「脱衣カゴなので、お風呂用品のコーナーを探すであります」
「あ、見てください。お風呂に浮かべるアヒルさんのおもちゃが売ってます。これを沢山買って、大浴場に浮かべてアヒルさんレースを――」
「今はハクのベッドが先ですわよ、ローラさん」
「それに大浴場でそんなことしたら、皆の邪魔になる」
「……分かりました。じゃあ、アヒルさんは一つだけにします」
「一つは買うでありますか……」
ローラはどのアヒルさんがいいか悩む。
どれも似たようなものだが、木彫りな上、一つ一つ手作業で色を塗っているので、微妙な違いがあるのだ。
「ぴー、ぴー」
「おや。ハクが選ぶんですか?」
「ぴ!」
「では、お願いします」
ハクはローラの頭から飛び立ち、アヒルさんの棚の前でパタパタ浮遊。
キョロキョロと首を動かし、物色している。
「ぴぃ!」
「それに決定ですか。なるほど、ハクが選んだだけあって、どことなく神秘的な表情のアヒルさんです」
ハクが前足で抱きかかえたアヒルに対し、ローラは感想を述べてみた。
他のアヒルよりも鮮やかな黄色をしている。目つきに威厳がある。ような気がする。
「ロラえもん殿。アヒルよりもカゴであります。こっちに来て、一緒に選ぶでありますよ」
「はーい」
ミサキに呼ばれて行くと、そこには様々な脱衣カゴが並んでいた。
とはいっても、手編みだから形がいびつになっているだけで、意図して種類を増やしたわけではないのだろう。
商品分類としては、大、中、小の三種類だ。
「大は小をかねます。ハクだって広いほうがいいでしょう。というわけで大きいカゴです!」
「試しに、ハクをカゴに入れるのですわ」
「了解です!」
ローラは近くを飛び回っていたハクをキャッチして、カゴに寝かせた。
「ぴ」
カゴを気に入ったらしく、ハクはだらりと四肢を伸ばしうつ伏せになる。
この上なくリラックス状態だ。
心なしか、一緒にカゴに入っているアヒルさんもリラックスしているように見えた。
「ハクが気に入ったみたいです。このカゴに決定です」
「布団は赤ちゃん用のがいいと思う」
「アンナさん。ナイスアイデアです!」
雑貨屋に布団がなかったので、カゴとアヒルの会計をして、布団屋に向かう。
「赤ちゃん用の布団をくださいな」
そう布団屋のおばさんに話しかけると、
「あら。妹でも生まれたのかい?」
と尋ねられた。
「違います。この子の布団にするんです」
「ぴー」
ローラが手に持つカゴの中で、ハクが声を上げ自己アピールをした。
「おや。最近、小さいドラゴンを連れている子がいるって聞いてたけど、あんたのことだったんだねぇ」
「なんと。噂になっていましたか。この子は暴れたりしないから大丈夫ですよー」
「そうみたいだねぇ。可愛いねぇ」
ハクの可愛らしさが分かるということは、この布団屋のおばさんは善人に違いない。
「布団代はわたくしが払いますわ」
「え、いいんですか、シャーロットさん」
「ハクはわたくしのルームメイトでもあるのです。わたくしにも協力させてくださいまし」
「なるほど。ありがとうございます!」
「ぴー」
値札を見て驚いたが、布団というのはなかなか高価なものだった。
ローラのお小遣いでは厳しい。
シャーロットが払ってくれて助かった。
「早速、ハク様を寝かせてみるであります!」
ミサキが興奮した声を上げる。
言われずとも、ローラだって早く試してみたい。
シュパパパと素早い動きで女子寮に戻り、カゴに布団を敷く。
測って買ったわけでもないのに、ピッタリな大きさだった。
「敷き布団の上にハクを載せ、その上に掛け布団! これで神獣サンドイッチの完成です!」
「ぴぃ」
サンドイッチになったハクは、新品の布団にくるまれ、幸せそうな声を出す。
「温かいですか、ハク?」
「ぴ!」
「おお。めでたし、めでたしです」
ダイエット問題に引き続き、ベッド問題も解決だ。
こう立て続けに問題を解決すると、何だって解決できるような気分になってくる。
何でもお任せ、解決ローラだ。
「ふふ。このベッド、ローラさんも使えるのではありませんこと?」
「む。いくら私でも、そこまで小さくないですよ!」
「ローラのほっぺが膨らんだ。可愛い。つんつん」
「まあ、アンナさん。わたくしが膨らませたのに先につんつんするなんてズルいですわ」
「つんつん、であります」
「ああ、ミサキさんにも先を越されましたわ……左右とも取られてしまいましたわぁ!」
「……私のほっぺで遊ばないでください!」
ローラがぷんすか起こると、つんつんだけでなくムニムニまでされてしまった。
何て酷い人たちだろうかと憤慨したローラは、気分転換のため、ハクを連れて大浴場に行くことにした。
買ってきたアヒルさんで遊ぶためだ。
しかしハクがアヒルさんを気に入ってしまい、どうしても手放してくれなかった。
「ハク……アヒルさんは私のですよ。ハクには新しいベッドがあるからいいじゃないですか」
「ぴー」
何でも解決できる解決ローラは、神獣にネゴシエイションを挑んだ。
が、入浴中どころか、眠る時間になってもアヒルさんは帰ってこなかった。
「アヒルさんがハクの抱き枕になってしまいました……」
「ふふふ。そしてローラさんは再びわたくしの抱き枕……めでたしめでたし、ですわ」
「むー、納得がいきません!」
「ぴゅぃ……」
カゴの中で、ハクが寝息を立てている。
それがとても幸せそうだったので、ローラは「むー」と唸りつつもアヒルさんをハクに託すことにした。
しかし、悲しさは消えない。
今日はもう眠れないかもしれない。
などと思いつつ、三分後には熟睡するローラであった。
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