第174話 雲から意外なものが現れました
そして次の日。
ローラたち三人と一匹は、放課後に校門の前に集合し、草原を目指して飛び立った。
これまではアンナが空を飛ぼうと思ったら、ローラかシャーロットの背中に乗るしかなかった。
しかし今は、風の魔法剣を使うことにより、一人で飛ぶことができるのだ。
それも、鞘に収めたままの状態で。
とはいえ、まだコントロール仕切れていない。
なかなか一定の速度で飛ぶことができず、ローラとシャーロットを追い越してしまったり、あるいは遅すぎて遅れたりと不安定だ。
仕方がないので、ローラたちがアンナの速度に合わせて飛ぶ。
「ごめん。まだ練習が必要みたい……」
「謝ることはないですよ! 真っ直ぐ飛べるだけでも大したものです!」
ローラはアンナを励ますが、別にお世辞で言っているのではなく、本当に大したものだと思っている。
魔法剣から抽出した魔力で空を飛ぶというのは、自分の魔力を使うより遙かに制御が難しいに違いない。
「草原に行く前に、飛行の練習をしたほうがいいかもしれませんわね。さあアンナさん。わたくしの動きに付いてくるのですわ!」
そう語ってからシャーロットはギューンと加速し、宙返りしたり、ジグザグに曲がったりと、アクロバットな動きをする。
「いきなりの高難易度……でもやってみる」
「流石はアンナさん。チャレンジャーですね!」
シャーロットを追いかけるアンナを、ローラは後ろから見守った。
ハクは途中まで自分の翼で飛んでいたのだが、スピードに付いてくるのに疲れたらしく、ローラの頭に降りて休み始める。
「ぐぬぬ……シャーロット速い……追いつけない」
「おほほほほ! これでもまだ本気ではありませんわよ、アンナさん!」
「シャーロットさんが悪役みたいなことを言ってます! もう、駄目ですよ。アンナさんは空の初心者なんですから。もっとゆっくり飛んであげないと」
「スパルタ教育がわたくしの流儀ですわ!」
シャーロットは更に加速して、ギューンと雲の上に行ってしまった。
これではアンナが追いつけるわけがない。
スパルタというより、たんにシャーロットが調子に乗っているだけである。
「シャーロットさんは放置して、先に草原に行きましょう」
「私も早くあのくらい飛べるようになりたい……」
アンナは雲を見上げながら、羨ましそうに呟いた。
が、次の瞬間。
雲からシャーロットが真っ逆さまに墜落してきた。
「「ええ!?」」
ローラとアンナが驚いて硬直していると、更に驚いたことに、雲の中から大賢者が現われた。
大賢者はシャーロットを追いかけ、地面に落ちる前にキャッチする。
「がくちょーせんせー」
「あら、ローラちゃんに、アンナちゃん」
「ぴー」
「ハクも奇遇ねぇ」
「ぴぃ」
「……学長先生、何で雲の中から現われたの?」
アンナが質問すると、大賢者は「実はねぇ」と切り出した。
「雲の上でお昼寝してたらね。急に背中にゴツンと衝撃が来て。びっくりして目を覚ましたら、シャーロットちゃんが落ちて行くじゃない? もうビックリしちゃったわ」
「なるほど、やっぱり昼寝してたんですね」
ローラはこの上なく納得した。
大賢者は隙あらば昼寝してしまう。昼寝のために生きているのではないかと疑ってしまうほど寝ている。
ローラにとってオムレツが大切なことのように、大賢者にとっては昼寝が大切なのだろう。
「ほら、シャーロットちゃん。起きなさい。私の昼寝を邪魔しておきながら、自分はのんびり寝るなんてズルいわよ」
大賢者はシャーロットを抱き上げ、その頬をぺしぺし叩いた。
「う、うーん……あら? どうして学長先生が……」
「気持ちよく寝ていた私の背骨に頭突きをしておきながら『どうして』もないでしょ。私だって怒るときは怒るのよー」
「ああっ、頬を引っ張らないでくださいましー!」
大賢者にほっぺを抓られたシャーロットは悲鳴を上げる。
「うーん……やっぱりローラちゃんのほっぺほど引っ張り心地がよくないわね……ローラちゃん、ちょっと引っ張らせてよ」
「い、嫌ですよ! 私、何も悪いことしてないじゃないですか!」
何もしていないのに頬を引っ張られたら、それはもう虐待だろう。
女王陛下に告げ口しに行くしかない。
「そうねぇ……ま、ローラちゃんのことだし。そのうち、ほっぺを引っ張る口実が出てくるでしょ。草原に行くのよね? 私も同行するわぁ」
「ほっぺは引っ張らせませんが、学長先生が一緒なら、気の利いたアドバイスをアンナさんにしてくれるかもしれませんね。ぜひ一緒に行きましょう!」
「剣は専門外だけど、魔法剣は魔法の道具だものね。指摘できるところがあるかもしれないわ」
「ありがたいお話。よろしくお願いします」
アンナは空中で器用にぺこりと頭を下げた。
というわけで、大賢者も一緒に草原に行くことになった。
とても心強い。
もっとも、油断していると彼女は昼寝してしまうので、そうならないよう派手な修行にしないと。
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