第162話 抱き枕自慢大会らしいです
二層の通路も、外見は一層と変わらなかった。
しかし、場を支配している雰囲気というか、圧力が違う。
一層では何も感じなかったのに、二層に足を踏み入れた瞬間、ここは危険な場所なのだと本能が訴えかけてくる。
「ぴぃ!」
「ハクも分かりますか? 二層にはきっと強敵が待ち受けています! ワクワクします! 学長先生はどうして前回、すぐに引き返しちゃったんですか?」
「そりゃ、こんな楽しそうな場所、我を忘れて進んじゃうでしょ。そうしたら帰れなくなるわ。だから我を忘れないうちに引き返したの」
「なるほど! 納得です!」
「我を忘れると言えば、ここまでハイテンションで来たけど、きっとそろそろ夜よ? 今日はここまでにしませんか、学長」
「言われてみればそうね。じゃあ、ここで休憩にしましょうか」
「これからというところでお預けですの……残念ですわ」
「でも、休憩は大切。この先に強敵がいるなら、なおさら」
「分かっていますわ。それでも先に進みたいのが人情というものですわぁ」
そう言いつつも、シャーロットは床に座りこんだ。
なにせ今日一日、ずっと未知の場所を回り、緊張状態にあったのだ。
いくら人情が先に進みたがっても、体が付いてこない。
シャーロットが座ったのを皮切りに、他の者もぺたりと腰を落とす。
皆、疲れがたまっている様子だ。
特にゴーレムと戦い続けたエミリアは、ぐったりと床に伸びてしまった。
平然としているのは大賢者くらいのものだろう。
「ぴー」
「あ、ハクも元気ですね」
神獣様はローラの頭の上でずっと観戦していただけなので、疲れる余地がない。
もっとも戦っていないという意味では、ローラとアンナも同じだが……知らない場所を歩き回るというのは、それだけで疲れるものなのだ。
「疲れているときは甘い物を食べるといいのよ。はい、チョコレート」
「わーい。こんなものまでリュックに入ってたんですか?」
「そうよー。あのメイドさん、本当に気が利くわね。私が雇いたいくらいだわ」
「あはは。陛下が本気で怒りそうですね」
大賢者は板チョコを全員に一枚ずつ配る。
ハクにはローラのを少し分けてやった。
それから大賢者は床にマットレスをいくつも敷き始めた。
流石にこれはリュックサックから出てきたのではない。
次元倉庫から取り出したのだ。
「学長先生、用意がいいですね」
「あなたたちと雑魚寝しようと思ってね。あとこのマットレスは、敵が近づいてきたらブルブル振動して教えてくれる機能があるのよ」
「素晴らしいですわ、尊敬いたしますわ。しかしローラさんの隣は渡しませんわ」
「私もローラの隣を断固として死守」
シャーロットとアンナは、寝転がる前からローラの両脇をガッチリ固めた。
だが、大賢者は少しも慌てない。
「いいわよー。私はエミリアを抱き枕にするから」
「え? 何を言い出すんですか、学長。私はもう大人ですよ。子供の頃ならともかく、今更……あ、ちょっと、生徒が見ています、ああ……いけません……!」
エミリアはかなり本気で嫌がっているが、大賢者は「よいではないか、よいではないか」と言いながらマットレスに押し倒してしまう。
「こっちも負けていられませんわ!」
「何の戦いですか!?」
「抱き枕自慢大会、かな?」
ローラも押し倒されてしまった。
いつもならゴロンと寝転んでからもしばらく遊んでいるのだが、しかし今日はよほど疲れがたまっていたのか、シャーロットとアンナはスヤスヤと寝息を立ててしまう。
「ふぇぇ……人のことを押し倒しておきながら先に寝るなんて、酷い人たちです……」
「あら、そっちも? 学長も先に寝ちゃったんだけど」
エミリアも笑いの混じった声で話しかけてきた。
「なんと。お互い抱き枕役は大変ですねぇ。それにしても、学長先生もお疲れだったんでしょうか?」
「さあ……学長は疲れてなくてもよく眠るから……」
「言われてみればそうでしたね。まあ、こうなってしまった以上、私たちが起きていても仕方がないので、大人しく眠りましょうか」
「そうね。私が一番疲れている自信があるわ……ふぁぁ……おやすみなさい……」
「はい、おやすみなさい。ハクもおやすみなさい」
「ぴー」
ハクはマットレスの上で丸くなり、まぶたを閉じる。
ローラもまぶたを閉じると、すとんと眠気がやってきた。
いつでもどこでも、たとえ両側から年上のお姉さんに挟まれて暑苦しかろうと眠れるのがローラの特技である。
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