第151話 浮遊宝物庫の情報収集です
晩ご飯を食べられなかったのは残念だが、泣きまくった疲れのおかげで、ぐっすりと眠れた。
もっともローラはいつでもどこでもぐっすり眠れるのだが、普段以上にぐっすり眠ったのだ。
そして学食で朝食を食べながら改めてアンナに謝罪し、シャーロットと一緒に自分たちの教室に行く。
着席したローラは、机の上ででんぐり返しをして遊ぶハクを眺めながら、どこから双剣を調達してこようかと悩む。
またギルド直営店で買っても、同じ結果になるのは目に見えている。
もっと頑丈な剣を買わないと意味がない。
ところが、質のいい剣は高いのだ。
普通の生徒ならこんな悩みを持つ必要はないのだが……ローラたち三人は普通の生徒とは言いがたい。
魔法学科のローラとシャーロットはいいのだ。強くなればそのまま戦闘力に結びつく。
しかし剣を主体に戦うアンナは、自分の実力に見合った武器が手に入らないという問題に直面していた。
それでも、今まで使っていた大剣なら、培った技術で力を受け流し、刃が折れないように立ち回ることができる。
これからも同じ戦い方を続けるのであれば、それで間に合う。
だが、アンナは新しいことに挑戦しようとしている。
なのに、武器が手に入らないから諦めろというのでは、可哀想すぎるだろう。
ローラが鉛筆を上唇で挟みながら悩んでいると、エミリアがやってきて、授業を始めた。
「今日は浮遊宝物庫の話をするわよ。ほら、ローラさん。いつまでも鉛筆で遊んでないで、真面目にやりなさい」
「はーい」
怒られてしまった。
確かに、授業中は授業に集中すべきだ。
ローラは不良生徒にはなりたくなかったので、大人しく鉛筆を手に取り、教科書とノートを机に広げる。
ハクはいまだに机の上でゴロゴロして遊んでいたが、邪魔だから頭の上に移動してもらった。
「有名だから知っている人もいると思うけど、浮遊宝物庫は古代文明の遺跡よ」
エミリアの言葉を聞き、ローラは首をひねった。
はて、確かにどこかで聞いた名前だ――と、悩んだのも束の間。すぐに思い出す。
文化祭で魔法学科の三年生が『世界の主な古代遺跡の発掘状況』という、信じがたいほど真面目なテーマの発表をしていたのだが、そこで浮遊宝物庫も紹介されていた。
確か、空飛ぶ島のイラストがパネルに描かれていた。
そして教科書にも、似たようなイラストが載っていた。
「私たちは未だ、古代文明のことはほとんど分かっていないわ。でも、この浮遊宝物庫はその中でも別格。なにせ普段はこの世界から姿を消していて、数年から数十年に一度、不定期に出現するの。そして数日に渡って空を飛んで、また姿を消す――だから発掘も調査も、ほとんど進んでいないのよ」
世界から姿を消すなんて次元倉庫みたいだなぁ、とローラは思った。
「そんなわけで、浮遊宝物庫という名前で呼ばれているけど、本当に宝物庫なのかどうかもちゃんとは分かっていないのよね。でも、色んなお宝が見つかっているわ。オリハルコンやミスリルのインゴット。美術品とか書物とか。こういうのが、当時の様子を知るための資料になるわけね」
お宝、と聞いて、ローラはピクリと反応する。
別にお金が欲しいわけではない。
欲しいのは、もっと別のもの。
「浮遊宝物庫には今まで何度も調査隊が送られてるわ。でも、いきなり現れるから、まともに準備もできないまま調査しないといけないの。それに数日で消えちゃうから、帰るタイミングを間違うと、そのまま浮遊宝物庫と一緒に、別の世界に連れて行かれてしまうの。白骨化した前の調査隊の死体が発見されることも、よくあるらしいわね」
白骨死体と聞いて、女子たちが短い悲鳴を上げた。
だがローラはひるまず、手を上げて質問しようとする。
ところが、前の席に座っているシャーロットに先を越されてしまった。
「エミリア先生。浮遊宝物庫には、古代の魔法剣などもあるのでしょうか?」
「あるみたいね。すでに何本か見つかってるみたいだし。まあ、私もあんまり詳しくないから、知りたい人は図書室で調べてみてね」
エミリアからその情報を引き出したシャーロットは、後ろを振り返り、ローラに向かってウインクし、親指を立てた。
ローラもビシッと親指を立てて返事をする。
やはり、古代文明の宝物庫と聞けば、同じことを考えてしまうのだ。
放課後は図書室にこもって情報収集だ。
もちろん、浮遊宝物庫はいつ現れるか分からないので、おそらくは無意味になるだろう。
しかし、どんな魔法剣が見つかったか調べるだけでも楽しいではないか。
それに世の中、何が起きるか分からない。
アンナの誕生日までに浮遊宝物庫が出現する可能性だって、ゼロではないのだ。
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