第149話 短剣を二本買いました
そしてローラ、シャーロット、アンナの三人は放課後、冒険者ギルドに通い詰めた。
ギルドレア冒険者学園には生徒の安全を守るため、在学中はDランク以下のモンスターとしか戦ってはならないという校則がある。
おまけにローラたちが猛威を振るったせいで、弱いモンスターが恐れをなし、王都近辺から逃げ出してしまった。
ローラたちはDランク以下のモンスターを探し求め、西へ東へと飛び回る。
やがて一週間経ったとき、お目当ての短剣二本を買えるくらいの金額になった。
実のところ、短剣二本分くらいの金なら、シャーロットのお小遣いですぐに買えたはずだ。
しかし、それをあえて、友達三人で協力して稼いだ。
金額の大小よりも、もっと大切な価値があるだろう。
「ローラ、シャーロット……ありがとう。これなら何とか、結構いい短剣が二本買えるはず」
冒険者ギルドの前でアンナは、コインの詰まった革袋を両手で持ち、ぺこりと頭を下げた。
「礼には及びませんわ。アンナさんは仲間なのですから、その新しい武器を買うために協力するのは、冒険者としても友人としても当然のことですわ!」
「それにしてもアンナさんの誕生日まで随分と余裕があります。Dランク以下しか狩れないのに、こんなに上手くいくとは思いませんでした。私たち三人は無敵ですね!」
「ぴー」
「おっと、ハクを入れて三人と一匹です!」
「ぴぃ」
ハクはローラの頭の上で満足そうに鳴く。
まあ、ハクは基本的にローラの頭の上でくつろいでいるか二の腕にしがみついているかで、さほど役に立っていなかった。
たまに思い出したようにモンスターへ炎を吐いてくれたが、火力が強すぎて、高く売れる部位まで燃やしてしまうことが多々あった。
しかし、それでも、一緒に戦った仲間である。
「では早速、短剣を買いに行きましょう!」
「行きますわ!」
「れっつごー」
「ぴー!」
ローラたちは冒険者ギルド直営の武器屋に向かって、シュパッパと素早く走って行った。
直営店は高級な武器を扱っていない代わり、大量生産品を安く買えるのだ。
大量生産品といっても使い物にならないほど低品質ではない。
ちゃんとギルドの担当の人が、それなりの品物を選んで、安く仕入れてくれている。
ベテランになれば、もっと特別な武器や防具を欲しくなるのだろうが、駆け出し冒険者は直営店で買うのが一般的だ。
「あった、あった。これが欲しかった奴」
アンナは剣のコーナーで立ち止まり、壁に飾られた双剣を指さした。
「おお、ちゃんと二本セットで並んでますね」
「短剣というからダガーのようなものを想像していましたが、思っていたよりも長いですわ」
シャーロットの言うとおり、その刃渡りは、成人男性の肘から拳までよりまだ長い。
短剣と呼べるかどうか、ギリギリの長さだ。
もっとも、アンナが今使っている剣が途方もなく大きいので、それに比べたら間違いなく短剣だろう。
「このくらいなら、二刀流でもブンブン振り回せそうですね!」
「うん。それに、鉄じゃなくて鋼でできている。肉厚が薄くても頑丈なはず」
「早速、買うのですわ!」
アンナはこくりと頷き、双剣を持って、カウンターに向かった。
すると店のオジサンが「おお、そろそろ買いに来る頃だと思ってたぞ」と笑いながら言った。
「どうして来る頃だと思ったんですか? オジサンは占い師さんですか?」
ローラが尋ねると、オジサンはアハハと更に笑う。
「そうじゃない。そっちの赤毛の子が、ちょくちょく来て、双剣を物欲しそうな顔で見つめていてな。それからこの一週間ほど、冒険者学園の制服を着た三人の女の子が、モンスターを狩りまくっているという噂を聞いたんだ。その中に赤毛の子もいると聞いて、オジサンはピンと来たわけだ」
「ははあ、なるほど。ナイス推理です。というわけで、くださいな!」
「くださいまし!」
ローラとシャーロットは、左右からアンナの持つ双剣を指さす。
そしてハクがパタパタ飛んで、コインの詰まった革袋をカウンターの上にドンと下ろす。
オジサンはその中身を確認し、満足そうに頷いた。
「おお、足りてるな。頑張ったなぁ。少しオマケして、安くしてやろう。余った分で、美味しい物でも食べてきな!」
「オジサン、ありがとう」
アンナは深々と頭を下げる。
それに続いてローラとシャーロットも頭を下げた。
「「ありがとうございます!」」
「ぴー」
ハクもカウンターの上でお辞儀している。
「ハッハッハ。いいってことよ。その代わり、また買いに来てくれよ。ところで、今背負ってる大剣はどうする? 下取りに出すか?」
「この剣はまだ持ってる。双剣に慣れるまで、こっちが主力」
「なるほどな。じゃあ頑張れよ!」
ローラたちは改めてオジサンに礼を言ってから、店をあとにする。
そして、余ったお金でラン亭にラーメンを食べに行くことにした。
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