第140話 文化祭当日です
そして、文化祭の初日を迎えた。
ローラは文化祭そのものが初体験だったが、思っていたよりも賑わっている。
校舎の中を生徒でも教師でもない人たちがウロウロしているというのは、新鮮な光景だった。
「ふっふっふ……こんなに人が来たのも、わたくしがメイド喫茶を思いついたからですわ」
一緒に廊下を歩いていたシャーロットが自慢げに呟いた。
「いやいや。メイド喫茶一つで学園祭の入場者数が変わったりしないでしょう。もともとギルドレア冒険者学園が有名だからですよ」
「ローラさんは夢がないのですわね」
「シャーロットさんが夢見がちなだけだと思いますよ」
おそらくシャーロットも冗談で言っているのだろうとは思うが、彼女の妄想は際限なく広がっていくので、たまに釘を刺しておく必要があるのだ。
ちなみにローラとシャーロットは、メイド服のまま校舎を歩いていた。
女子は二十人もいるので、交代で休憩を取っている。
いちいち制服に着替えるのも面倒だし、メイド喫茶の宣伝にもなるので、メイド服のまま行脚しているわけだ。
戦士学科の三年生は、教室ではなく訓練場を使って、演舞を見せていた。
更に三年生で一番強い生徒が挑戦者を募っており、彼に剣で勝てたら、ミノタウロスの角で作った首飾りをくれるらしい。
よしきた、とローラが参戦しようとしたら『ローラちゃんはお断り』と立て札があった。
残念である。
魔法学科の三年生は教室で、『世界の主な古代遺跡の発掘状況』という真面目なテーマをパネルで発表していた。
手書きのイラストと文字なのだが、とても見やすい。
シャーロットの描いたイラストとは大違いだ。
二十種類ほどの遺跡が紹介されていたが、そのうち三つは『発見した人:大賢者カルロッテ・ギルドレア』になっていた。
やはり、この学園の学長は、お昼寝しているだけでなく、実際に凄い人なのだ。
「シャーロットさん。この浮遊宝物庫って知ってますか?」
ローラは一枚のパネルの前で足を止める。
そこには空飛ぶ島のイラストがあった。
説明文によると、『普段は姿を現さないが、数年から数十年に一度、不定期に出現する。そして数日に渡って滞空したのち、また姿を消す古代文明の宝物庫』であるらしい。
「名前だけは知っていますわ。滅多に現れないので、ほとんど調査も行なわれていないとか」
「へえ……古代文明は謎だらけですねぇ」
それからオイセ村のパネルもあった。
オイセ村は古代文明の遺跡ではない。しかし王都から最も近い神獣の住み家として、特別に紹介しているようだ。
「ふむふむ。神獣ハクはかつて大賢者とともに魔神と戦い、王都を守った偉大な神獣――」
「ぴー」
偉大と言われたハクは、ローラの頭の上で嬉しそうに鳴き声を出す。
「今では世代交代し、子供の姿になっている。一説にはオイセ村ではなく、某少女の頭の上を住み家としているという情報もある――」
「あら。ローラさんのことまで書いてありますわぁ」
「実名が出ていない辺り、プライバシーに配慮されていますね!」
「ぴぃ」
素晴らしいパネルだった。
しかし、オイセ村の獣人たちがいかにモフモフであるかまで説明していれば、百点満点だったのに。実に惜しい。
戦士学科の二年は、人形劇をやっていた。
史上最大の大魔神が現れ、世界が闇に閉ざされたとき、伝説の戦士『パジャレンジャー』が降臨し、大魔神を倒すという物語だ。
一回が十分程度と短い代わりに、一日に六回も上演しているらしい。
大人にもちびっこにも大人気だ。
「パジャレンジャー三人のぬいぐるみが可愛かったですね」
「しかし実物のローラさんのほうがお可愛らしいですわ」
「いや、パジャレンジャーと私たちは無関係ですよ?」
「ふふ、そうでしたわね」
どこで誰が聞いているか分からない。
変身ヒーローは正体を隠すものなのだ。
最近、というか最初から、あまり隠せていないような気もするが、効果が皆無というわけではない。
確かに教師たちの間では、パジャレンジャーの正体が周知の事実になっているかもしれない。
しかし生徒たちに隠せているなら、まだまだ意味があるのだ。
魔法学科の二年は、占いの館をやっていた。
カード占いとか水晶玉占いとか、色んな種類の占い師がいる。
ローラとシャーロットは、その中から『ふーふー占い』というのを選んだ。
理由は、どんな占いかまるで想像できなかったからだ。
「耳にふーと息を吹きかけ、その反応で深層意識を占います」
黒マントをつけた女子の先輩は、おごそかな口調で語った。
何だかくすぐったそうなので、やめておこうかなぁ――とローラが思った、そのとき。
「ふー」
「んひゃぁぁぁ!」
前触れなく息を吹きかけられ、ローラは悶絶した。
「その反応……さてはローラちゃん。今、オムレツを食べたいと思っていましたね」
「な、なぜ分かったんですか!? 先輩凄い! ふーふー占いは当たりますね!」
ローラは心の底から感心してしまった。
「ローラさん。だまされてはいけませんわ。ローラさんが大のオムレツ好きというのは学園中に知れ渡っているのですから」
「おや、シャーロット。先輩のやることを疑うのですか。では、あなたのことも占ってあげましょう」
「望むところですわ!」
「ふー」
「あひゅぅぅんっ!」
先輩の吐息がよほど凄いのか、覚悟を決めていたはずのシャーロットも悶絶した。
「出ました。シャーロット、あなたは今……『ローラさんのメイド服お可愛らしいですわ』と思っていましたね」
「あ、当たっていますわ!」
シャーロットは口元を抑え、全身で驚愕を表現する。
「シャーロットさん。それ、多分、占いじゃなくて……誰でも分かるような……」
「そんなことありませんわ! わたくしの秘めたる想いを当てられてしまいましたわ!」
「秘めてたんですか!?」
ローラもついつい全身で驚愕を表現してしまった。
先輩も釣られてギョッとした顔になっている。
「ぴー」
ハクは、そんな先輩の目の前でパタパタと羽ばたき、何やら首を伸ばしている。
「ぴーぴー」
「……はて。これは占って欲しいということでしょうか?」
先輩は首をかしげる。
「そうみたいです!」
「分かりました。では……ふー」
「ぴぃぃぃぃ!」
やはり先輩の吐息は神獣にとってもくすぐったいらしい。
ハクは大きな鳴き声を出したあと、ローラの腕にしがみついてきた。
「先輩! 占いの結果は!?」
「うーん……オムレツ食べたい?」
「ぴ!」
ハクは首を振った。
「じゃあ、オイセ村に帰りたい、とか?」
「ぴ!」
またしてもハクは首を振る。
「……ローラちゃんの頭に乗りたい?」
「ぴぃ!」
ハクは激しく頷きながら、ローラの体をよじ登り、いつもどおり頭の上にぺたんと座り込んだ。
「さあ、どうですか。見事、神獣ハクの深層意識も当てましたよ」
先輩は澄まし顔だった。
しかし、ローラはいまいち納得できなかった。
「当たるまで何度も質問しただけじゃないですか?」
「そんなことはありません」
「ローラさん、やはりこの占い、インチキですわ」
「違います。二人とも、営業妨害ですから出て行ってください」
ローラたちは魔法学科二年の教室を追い出されてしまった。
仕方がないので、次は戦士学科一年の教室に行く。
アンナたちのラーメン屋がどれほどのものか、偵察してやるのだ。
お手並み拝見である。
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