第116話 ニンニク入れますか
ラン亭の行列は、日に日に沈静化していった。
半額セールをやめたのと、珍しさが薄れてきたのが理由だろう。
だが小さい店なので、それはむしろ助かった。
固定客は確実についている。
おかげで安心して新しいラーメンを作ることができた。
ランと大賢者が相談して開発し、ローラたちが味見する。
そして、再び週末の休日。
ラン亭の屋台は、また冒険者ギルドの前にやってきた。
ローラは華ロリ。他の皆はチェイナドレス。
なんと今日は大賢者も参加だ。
だが本当に重要なのはそこではない。
アピールすべきは、新メニュー『冒険者ラーメン』だ!
「お腹をすかせた冒険者の皆さん! 一杯食べるだけでモリモリ力が沸いてくるラーメンを開発しましたよ。その名も冒険者ラーメン! 麺も野菜もたっぷりです。トッピングのニンニクはなんと無料! 野菜や背脂の増量も無料! これを食べたらどんなモンスターにも負けません! もちろん、冒険者じゃない人にもオススメです!」
ローラたちは『新発売、冒険者ラーメン!』と書かれた立て看板を持って、アピールしまくる。
すると、また人だかりができた。
「屋台でも本店でも食べたから、今日は別の店にしようと思っていたが、新メニューが気になるな」
「しかも冒険者ラーメンときた。これは冒険者として食べておかなきゃな!」
「それより……あの銀髪の人、大賢者じゃね……?」
「はは、まさか。大賢者が屋台で働いてるわけないだろ」
「それもそうか……」
そんな声が聞こえてくる。
本当に大賢者その人なのだが、言っても誰も信じないだろう。
ローラだって学園に入って大賢者と親しくなる前なら、あの英雄が屋台で働いていると言われても絶対に信じなかった。
しかし今となっては、「お昼寝せずに真面目に働いて偉いですね」といった感じだ。
「私が冒険者ラーメンを実際に食べてみせるであります。冒険者なら絶対に食べたくなる料理であります」
「トッピングはどうするアルか?」
「ニンニク、アブラ、ヤサイマシであります!」
そう言ってミサキは、ランからどんぶりを受け取り、テーブル席で食べ始めた。
冒険者ラーメンは、まず見た目が凄い。
モヤシとキャベツが、麺が見えないくらい山盛りになっている。
そこにトッピングのニンニク。これはモンスターと戦うためのスタミナが付く。
更に背脂の塊。これも無料のトッピングだ。普通の人が食べたら太ること間違いないが、肉体労働者なら大丈夫のはずだ。それと太ってもいいから、とにかく脂っこいものを食べたいという人にもお勧めだ。
そして麺は、普通のラーメンよりも遥かに太い。
冒険者ラーメンのためにランが新しく作ったのだ。小麦粉の仕入れは大賢者が担当した。
大迫力の太麺は、見た目を裏切らない歯ごたえ。
そんな冒険者ラーメンをミサキは猛スピードで食べていく。
年頃の少女としてどうかと思う姿だが、ローラはミサキの気持ちがよく分かる。
試食したとき、その美味しさに絶句したものだ。
箸の動きを止められなかった。
体が臭くなると分かっているのにニンニクを食べてしまうのだ。
あの背脂も美容に悪そうなのに、どうしてか依存症になるほど美味しい。
食べ終わったあと、「こんなものを食べていたら体が大変なことになる。もう二度と食べないぞ」と思っても、数時間後にはまた食べたくなってしまう。
それが冒険者ラーメンだ。
「スープも残さず完食であります。ごちそうさまであります」
ミサキは本当に美味しそうにぺろりと食べてしまった。
それを見た冒険者たちは、目の色を変えて屋台に並ぶ。
一応、普通のラーメンの麺も用意してきたのだが、冒険者ラーメンの注文ばかりだった。
「うぉぉ……こりゃ凄い。俺は今、一日分のエネルギーを体に溜め込んでいるという実感を味わっている!」
「駄目よ……前衛ならともかく、魔法使いの私がこんなのを食べたら贅肉が……お腹に贅肉が……」
「モンスター討伐を終えた体に染み渡るパワー……まさに冒険者のためのラーメンだ!」
「みなぎってきた! 今ならドラゴンにだって勝てそうだぜ!」
なにかこう、食事を楽しむというより、儀式的な雰囲気が漂ってきた。
だが、好評は好評だ。
たまに冒険者ではない人もチャレンジしている。しかし量が多すぎて、かろうじて完食したとしても苦しげな顔で帰っていく。
騒ぎを聞きつけてやってきたギルドの受付嬢たちなど涙を流していた。
「うぅ、絶対に太るよぅ……」
「残せばよかった……残せばよかった……」
「そうと分かっていても全部食べちゃった……」
太ると分かっていても、やめられないとまらない。
それが冒険者ラーメンだ!
しかし量が多い分、客の回転率は落ちた。
そのおかげで、スープが長持ちする。
また、量に恐れをなしたのか、並ぶ客の数そのものも少ない。
先週は行列が伸び続ける状態でスープが切れてしまったが、今日はそういうことにはならずに済みそうだ。
忙しすぎて目が回る心配もない。
トラブルと言えば、お尻を触られそうになったシャーロットが客を張り倒したくらいである。
つまり何もかもが順調。
「あれ? 学長先生、何をお客さんに混じって並んでるんですか!?」
「だって、私がいなくても店は回るじゃないのー。お腹もすいたしー」
「はあ……ちゃんとお金払ってくださいね」
なんてことをやる余裕もあった。
そして夕方、無事に完売。
よかったよかったと皆で後片付けをしていると、冒険者ラーメンを食べてから討伐クエストに向かった人たちが笑顔で帰ってきた。
「あのラーメンのおかげで、いつもよりパワーが出たぞ! ありがとな!」
「魔法の威力も上がった気がするわ!」
なんと。
スタミナが付くだろうとは思っていたが、まさかパワーアップまでしてしまうとは。
東方の神秘というやつかもしれない。
※
ラーメンの屋台は当初の予定を遥かに超える成功をおさめた。
安くて美味しいだけでなく、冒険者にとって実用性があると判明した以上、これは一過性のブームではなく完全に定着するに違いない。
しかし、人間の胃袋には限界がある。
つまり、ラーメンを食べる者が増えれば増えるほど、他の飲食店の売上が落ちていく。
それを快く思わない者は当然いる。
そして中には、直接対決を考える者さえ――。
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